ミシュランの星返上の仏料理界重鎮が語った「土地を愛せ」

文春オンラインに「世界の料理界を駆け巡った『星(ミシュラン)』返上の本意とは?」」と題して、昨年9月に「ミシュランガイド、通称レッドブックで三つ星を獲得し続けて来たフレンチレストラン『ブラス ル・スーケ』シェフ、セバスチャン・ブラス氏が、フェイスブックの動画を通じて次年度版への非掲載希望を表明した」ことについて、父親であり、料理界の重鎮であるシェフ・ミシェル・ブラス氏のコメントが掲載されていました。

文春オンライン http://bunshun.jp/articles/-/5779

ミシュラン、ゴーミヨと高名なガイドブックへの掲載はやはり注目の的、しかし、それぞれのガイドブック独自の調査方法や評価のルールに振り回されずに、「24時間、常に料理のことを考えています。純粋に作りたいものを作り、自由に表現することにこそ、料理人としての喜びがある。(同記事引用・ 文/こんどうみほ)」と2年間ファミリーで考え抜いた決断とのこと。

私は、ミシェル・ブラス氏の話を2015年にメキシコシティで開催された「ラテンアメリカ・ベストレストラン50」の表彰式に先立つパネルディスカッションで聞いたことがあります。写真はその時のもの。

シェフのキャリアとして、1960年代は成功を求めてパリに住んだこともありましたが、70年代に農業や地方に目が向き、「世代に引き継がれる料理というのはその土地に合ったものである」という考え方に至り、フランス中南部の山岳地帯オーブラック地方にある人口1200人ほどの小さなライヨール村に移って、宿泊施設とレストランを開くに至ります。

このレストラン「ル・スーケ」は、99年にミシュランの三つ星を獲得して以来、2017年版までずっと星を維持しており、10年ほど前から息子のセバスチャン氏が引き継いでいますが、ミシェル・ブラス氏は今でもフランスで最も影響力を持つシェフの一人だと言われます。

彼がもっとも力を入れて語っていたのは「世代に引き継がれる料理というのはその土地に合ったものである」という考え方。そして、料理人としてベストな食材をベストな表現で提供することでした。そして彼のレストランの世界初の支店である北海道の「ザ・ウィンザーホテル洞爺湖リゾート&スパ」内「ミッシェル・ブラス・トーヤ・ジャポン」でも何十種類もの野菜とハーブをそれぞれに最適な料理法でまとめた美しい料理「ガルクイユ」がシグニチャーなのです。

ミシュランの星という権威ある評価に対しても、否定するものではないけれどその調査方法やルールに振り回されずに自分の料理を貫くという彼の哲学。それは、最高の食材を得られる場所へのこだわりにも表れています。ライヨール村の彼のレストランまで行くのは不便、でもそんなことには関係なく、予約でいつもいっぱい。大都市にレストランが集中しがちな日本ですが、もっと地方の名店にも目を向けようと思ったのでした。

メキシコでの彼のスピーチの締めくくりの言葉、それは「土地を愛せ(Love your land)」でした。

Text/小野アムスデン道子

 

 

 

“ミシュランの星返上の仏料理界重鎮が語った「土地を愛せ」” への1件のフィードバック

  1. 「土地を愛せ(Love your land)」。まったく同感。言わば「照顧脚下」。周りの評価は評価として、何より大事なのは権威に拠らない地に足をつけた本物志向こそが大切なのです。

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