ひと頃の混雑が落ち着いた京都。オトナが旅するのにふさわしい隠れた名店だと驚かされたのが、ここ上京区の晴明神社近く、西陣にある鮨・割烹の「ふく吉」です。建物は、築120年の京町屋で「京都市景観重要建造物かつ歴史的風致形成建造物」に指定されているのだそう。
「おおきに迎賓館 黒門中立賣邸」という1日1組の宿ともなっているこちらのお店。ユニークなのは、鮨と割烹それぞれが専門の料理人2人がそれぞれに得意なところを分け合って、一つの献立として味わえるところ。
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鮨は北新地の名門「鮨処 平野」で修業を積み、上海で「鮨処 近藤」を開いていた近藤洋未さん、割烹は百年以上の歴史を誇る日本料理「つる家」と「鮨処 平野」を経て西天満で「ふく吉」を開いていた福田清嗣さんと、兄弟弟子でありそれぞれ店主もされていた料理人のコラボレーションが生んだお店なのです。
昼と夜の営業で、お昼は5,000円、10,000円、15,000円(税別)の3コースのおまかせ料理。日本酒やワインのペアリングも提案してもらえます。この日は全9品の10,000円のコースをいただくことにしました。
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この日1品目、先付の海老芋はかつおの出汁にとろけるような芋が泡にも合いました。
次に富山の氷見で獲れた鰤のおいしさに驚かされた座付ときて、ここで「まきを使ってかまどで炊いたご飯のおいしさを味わってください」とお結びが登場。
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炊きあがりの見事なご飯は、噛みしめるとほのかな甘味を感じて、お結びのおいしさに感激。この町屋には元からかまどがあって、炊いてみたらガスとはまったく違うおいしさだったそう。燃え具合が異なる針葉樹と広葉樹の両方のまきを使って炊くという凝りようもおいしさの秘密です。
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次に目の前で仕上げて出される鯛と鮃の造りは、なんと近藤さんが自分で釣り上げて締めたもの。旨みといい歯触りといい、これまた見事な味です。この後に、大間の鮪に北海道のウニと産地のこだわった鮨ばかり。近藤さんの鮨を握る手つきの優雅さにまず見とれ、大間の鮪の口に入れるととろける味と絶妙なシャリとの合わせにまたうっとり。しっかりした日本酒の岐阜の醴泉(れいせん)「純米大吟醸」をペアリングしていただきました。
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続く黒豆クリームチーズ、青海大根、京鴨の八寸も日本酒がすすみます。その後に海鼠(なまこ)にこのわた、木の芽がいい香りの蒸し物。そして〆の御飯に「鰤大根」とあったので煮物がでるのかしらと思ったら…
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こんな見事な鰤と大根の混ぜ御飯が!鰤の旨み、三つ葉や柚子の香りの調和がなんともいえずおいしく、思わずおかわりをお願いした〆の一品でした。
美しい白木のカウンターで、一つ一つ料理人のこだわりを聞きながらいただく美味は、自分たちのために作ってもらっている感じです。古都での優雅な時間が過ごせ、特別な思い出が作れるお店でした。
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ふく吉 https://geihinkan.ookini.jp/meals
住所:京都府京都市上京区中立賣通黒門東入役人町
電話:075-432-0092
定休日:水曜日、第一・第三 木曜日
Text/小野アムスデン道子
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世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。インバウンド・コンサルタント。日本旅行作家協会会員。