【STORY】私のセカンドライフ~義太夫修行日記③ 稽古は続くよ、どこまでも。義太夫の“声”の秘密と魅力

師匠のあとをオウム返しでひたすら練習すること数か月。恥ずかしさも徐々に忘れ、やっとよちよち語れるようになってきました。でも、そこからが本当のお稽古。指導はより深く、細かな部分に入っていきます。できない、情けない。でも、新しい挑戦ができるって楽しい!!
トップ画像/ 写真提供:徳島県立阿波十郎兵衛屋敷

「声は腹から、腰から、おいどから!」

義太夫節や講談を聞いたことがある人ならご存知だと思いますが、マイクなしでも遠くまで届くハリのある声こそ太夫の命。これは「義太夫声」と呼ばれ、会得するのには20年はかかると言われています。

私たちの普段の会話と違って、義太夫声は喉を使わないのが鉄則。お腹のあたりに力を入れ、吸った息を全て腹圧で絞り出すように発声します。「体の中にひとつの楽器を作る感じ」(by 師匠)だそうですが、そう簡単にできるはずもありません。

初めはとにかく大声で発声することに集中し、そのうちに体が“腹声のコツ”をつかんでくるまでひたすら練習を続けるしかありません。ただ、家で練習するときだけは要注意。近所迷惑にならないよう窓を閉め切るか、もしくは車にこもってシャウトしないといけません。初めは驚いていた犬も近頃はすっかり慣れました(笑)

お稽古のあとは全身にじっとりと汗をかき、気分もすっきり。師匠いはく、「お医者さんから“何か有酸素運動をされているんですか?”と聞かれるほど、アスリート並みの肺機能」なのだとか。義太夫の腹式呼吸は健康にもいい!? 名義太夫の多くが長寿なのも、うなずけます。

020年には近隣の県から修学旅行生がたくさん徳島を訪れ、人形浄瑠璃を鑑賞しました。はじめて見る生の人形浄瑠璃に子供たちも興味津々だったようです。この伝統芸能の理解を少しでも広げ、次代を担う人材を育てるのも私たちの役割です。(写真提供:徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)

「こんまぁ(小さく)なったらあかん」

「浄瑠璃はあくまで舞台芸術。セリフは大きく、大げさすぎるほど語って語りすぎることはない」と師匠によく言われます。自分では精いっぱい頑張っているつもりでも、ただがなりたてているだけで“張れて”いない(腹から声が出せていない)のだそうです。声が張れていないと、特に「口説き」(恋愛、悲しみ、懺悔、怒りなどさまざまな心理描写を語る、聞かせどころ)では、情を聞き手の心届けることができないのです。

人形を創作する「人形師」の数が全国でも飛びぬけて多いのが徳島県。2020年度地域文化功労者(芸術文化)の人形師、人形洋(甘利洋一郎)さんが制作した「清姫」(一瞬にして鬼の形相に変化する頭)は、2019年、アメリカのサンタフェにある「国際民俗芸術博物館(Museum of International Folk Art)」のコレクションとして収蔵されました。
(写真提供:徳島県立阿波十郎兵衛屋敷)

「息からその人の“性根”を込める」

義太夫も、声優も、俳優も、他者を演じるという点ではみな同じですが、唯一の決定的違いは、義太夫節が“話芸”であることです。声優は“声色(こわいろ=作った声)”でキャラクターを演じ分けますが、義太夫節では声色を使うことが禁じられており、“情”で語り分けるのが掟。それゆえ、80歳の男性義太夫が9歳の少女を、9歳の女義太夫が勇壮な侍を演じることが可能なのです。

じゃあ、「情で語り分ける」ためにはどうすればいい?

ポイントは息の使い方。セリフに入る直前の「息つぎ」の段階から、その人物で息をすること。

「9歳のお鶴のセリフはお鶴のまま息継ぎをし、観音様は観音様で息をする。つかんだ“息”を離さずに語る。これによって言葉が生きてきてお客様の心をつかむことができる」 息にも性根を込める・・・これもまた義太夫節では難しい技のひとつであり、語りのダイナミズムなのです。

そのほかにも、たった一音の接続助詞「と」、の語り方、言葉と言葉の一瞬の間のとりかた、音の抑揚や強弱、緩急のつけ方・・・など細々とした表現にいたるまで、師匠から何度も何度も直され、繰り返し、その都度体に叩き込んでいきました。

時代物の『絵本太閤記』では、年齢・性別・性格の違う7人のキャラクターが登場、義太夫が一人で演じ分ける。ベテランの義太夫によって人物一人ひとりが“息”で即座に演じ分けられていくのがわかる。息が人形に魂を吹き込み、人形が生き物になる。
 (2020年11月 阿波十郎兵衛屋敷にて)

「一度の舞台は、稽古の10倍も100倍も学ぶことが多い」

もがき苦しんでいるうちあっという間に3か月が経ち、床本も暗記しておぼろげながらもなんとなく「語りとはどうあるべきか」がわかってきました。(いぜんとして、腹から声は出せませんが・・・。)

そして5か月たったあるとき、師匠から「今度定期公演に出てみませんか?」とのお言葉。定期公演とは、阿波人形浄瑠璃の定期芝居小屋でもある「阿波十郎兵衛屋敷」で毎日行われている公演のことで、土・日・祝日の公演では義太夫部屋が人形に合わせてお客様の前で生演奏を行うのです。

「え~っ、まさか!私みたいな修行の身で・・」とびっくり仰天。なにせ舞台までには10年20年はかかるだろう、と恐ろしく長~い目で見ていた私。でもこれこそが、阿波流。「民衆の、民衆による、民衆のための」一般大衆土着芸能、阿波人形浄瑠璃はこうやって発展を遂げてきたのだ、と妙に納得。

これまで数多くのお弟子さんを指導されてきたお師匠が背中を押してくださるのだから、私はただその言葉を信じてついていくのみ! 初舞台まで、あと1か月半、5回のお稽古の先には、初舞台が待っているのです。

(つづく)

次回は、「緊張の初舞台。そして・・・」です。お楽しみに!

【動画】義太夫三味線のおはなし
https://www.youtube.com/watch?v=cPZ-Fu21P7o&t=206s

三味線の伴奏で、太夫が物語を語る「語りもの」と呼ばれるジャンルの音楽が浄瑠璃です。三味線弾きは、太夫の語りを支えたり、リードしたりしながら物語を進行する指揮者の役割を果たします。

【動画】傾城阿波の鳴門 順礼歌の段(日本語字幕入)

阿波人形浄瑠璃の定番「傾城阿波の鳴門 順礼歌の段」を字幕入りでお楽しみください。
https://www.youtube.com/watch?v=ArVdODHCtLY&t=6s

徳島県立阿波十郎兵衛屋敷(あわじゅうろべえやしき)

https://joruri.info/jurobe/

阿波人形浄瑠璃の上演を毎日行っている芝居小屋。展示室では人形浄瑠璃に関する資料や「木偶(でこ)人形」、太夫の小道具、浄瑠璃用の太棹(ふとざお)三味線などを見ることができます。徳島の物産を集めたお土産ショップも人気。

Text/長野尚子

フリーライター、編集者。(株)リクルートの制作マネージャー&ディレクターを経て、早期退職。アメリカ(バークレー)へ単身“人生の武者修行”に出る。07年よりシカゴへ。現在は徳島在住。シカゴのアート&音楽情報サイト「シカゴ侍 http://www.Chicagosamurai.com 」編集長。四国徳島とシカゴの架け橋になるべく活動中。著書に『たのもう、アメリカ。』(近代文芸社)。 http://www.shokochicago.com/ 日本旅行作家協会会員。

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