11月20日から東京都現代美術館で開催されている展覧会【ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow】をご紹介します。
1989年アメリカで生まれた寒川裕人氏。ペインティングやインスタレーションなどを中心に制作するアーティストスタジオ・EUGENE STUDIOとしての活動は国内外で年々評価が高まっています。私は以前、完璧な暗闇の中で能を行うインスタレーション《漆黒能》(2019年、国立新美術館)を拝見したことがあります。真っ暗闇の中で行われるパフォーマンスなので、当たり前ですが観客は何も見えません。しかし、その場に身を置いてみると、何も見えるはずがないのに何かが見えるような不思議な感覚に陥ったことが印象的でした。今回の展覧会は、平成生まれのアーティストでは東京都現代美術館で初めての個展です。すでに高い評価を得ている代表作から未発表の最新作までが一堂に会しています。私は今までいくつかの合同展等でその作品を観てきましたが、寒川裕人氏の世界を広く知れる絶好の機会と、期待に胸を踊らせながら東京都現代美術館へ。
まず会場に入ると,代表作〈ホワイトペインティング〉(2017-)シリーズが。何も描かれていない真っ白なキャンバスですが、実は世界各地で1枚につき100人ほどの接吻がなされた作品。これは“愛”や“信仰”という精神的支柱を表したものだそう。
会場中程に進むと,〈私は存在するだけで光と影がある〉(2021)シリーズがかけられている部屋があります。翠色のグラデーションの絵が何枚もあるのですが、大変美しい色合いで、こんな絵が一枚自分の家にあったらどんなに素敵だろうと一目惚れ、かなりの時間を割いてこのシリーズの前にたたずみました。このシリーズは、“太陽の下に作品を曝し、陽の光と作品自体の影によって現れたグラデーションの平面作品“とのこと。ユニークな制作過程であり、この美しい作品のタイトルの中に“光と影がある”というフレーズが入っていることに納得がいきました。
真っ暗な部屋に入るとその奥に見える《ゴールドレイン》(2019)。天井からキラキラ光る金箔と銀箔の粒子が降ってきます。時にはしっかりとその落下の軌跡が見え、またしばらくすると消えてしまいそうなほど細い糸のような、不規則なリズムで落ちていく光る粒子。私は、以前訪問したアメリカ・アリゾナ州にあるアンテロープキャニオンの洞窟で見た岩の隙間から差し込む光と吹き込む風によってサラサラと落ちてくる砂を思い出しました。数百万年の時間をかけて作られた自然の造形と、寒川氏の作品の印象が一致するのは、寒川氏が常に“不可逆的な時間”や“生命の誕生とそれに不可欠な重力”などを意識されて表現されているからではないでしょうか。
新作《海庭》(2021)は、美術館の地下二階、美術館の中で一番深い場所であり、一番天井が高い展示室に出現した“海”のインスタレーション。広いアトリウム空間には天井から外光が入るので、一日の時間の移ろいや、そして会期中2月まで日が延びて行くことで“海”の見え方が変化していくと期待できます。私が観覧した11月末と、その後冬至・立春と時を経る間に、“海”の表情は変わっていくのでしょう。何度でも訪れて、その変化を感じ取ってみたいです。
私が観覧した日はギャラリートークがあり、寒川氏が「暗闇、草むら、海のように焦点が合わないものに想像力がかき立てられる」とお話しされていたのが印象的でした。
ユージーン・スタジオ 新しい海
EUGENE STUDIO After the rainbow
会期:2022年2月23日(水・祝)まで
休館日: 月曜日(1月10日、2月21日は開館)、12月28日~1月1日、1月11日
開館時間: 10:00‒18:00(展示室入場は閉館の 30 分前まで)
会場: 東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
観覧料: 一般 1,300円/大学生・専門学校生・65歳以上 900円/中高生 500円/小学生以下無料
展覧会特設サイト
https://mot-solo-aftertherainbow.the-eugene-studio.com/
美術館サイト
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/the-eugene-studio/
*新型コロナウイルスの感染状況などによって開館時間などに変更が生じる場合がありますので、詳細はHPから事前にご確認ください。
Text /トラベルアクティビスト真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。