飲料水の自給で小さな島と共生する 星のや竹富島 星野リゾート SDGsなSTORY②

海を渡るだけで、たちまち非日常の世界に飛び込むことができるのが離島の魅力です。けれども、限られた資源を大切に使いながら人々の暮らしが営まれてきた小さな島にリゾートが参入するには、いかに共生していくかが大きな課題。『星野リゾート SDGsなSTORY』の第2回は、海水の淡水化により飲料水の自給を開始した「星のや竹富島」の取り組みをご紹介します。

「島と共生するリゾート」が10年目に取り組んだこととは?

開業10年目、ずっと昔からこの島にある集落のように島の景色になじむ

沖縄・八重山諸島のひとつ竹富島は、周囲9.2km、人口約360人のとても小さな島です。石垣港離島ターミナルから高速フェリーで約10分、いうなれば“離島の離島”。この島には、沖縄本島や石垣島では見かけることが少なくなってきた沖縄の伝統的な町並みと独特の文化が残り、島の人々によって守り続けられています。

2012年6月のオープンから10年。「島と共生するリゾート」として、島の環境保全をはじめとした、さまざまな問題解決に取り組んできた星のや竹富島。スタッフの皆さんはこれまで祭事への協力、失われつつある伝統作物の栽培、地元の小中学校の課外授業受け入れなどにより島の人たちとの交流を深めながら、文化継承の役割の一部も担ってきました。その星のや竹富島が新たに開始したのが、海水の淡水化による飲料水の自給。施設内に設置した海水淡水化装置が稼働を開始したと聞き、“プラント好き、工場見学大好き!”な私は、早速見せていただくことにしました。

それは、ペットボトルフリーへの取り組みから始まった

海水淡水化装置で作られた飲料水は、柔らかな軟水のような味

星野リゾートでは、国内のすべての施設でペットボトルフリーに取り組んでいます。竹富島のような離島の場合、ゴミ問題はいっそう深刻です。海岸線の漂流ゴミや集落内でのポイ捨てによるペポットボトルが景観を損なうだけでなく、回収したゴミの処理には石垣島まで船で運ぶ必要があります。また、その飲料水入りペットボトルは、もともと石垣島から運ばれてきたもの。つまり、往復の輸送コストがかかってしまうのです。ペットボトルフリーへの取り組みは、環境保全とともにゴミ処理と輸送コストの削減、ふたつの問題解決につながるのですが、そこで発生するのが飲料水の確保をどうするかということ。

敷地内のゲストから見えない場所に建設された海水淡水化設備
プラントの内部。一部に電気自動車のリサイクル部品が使われているそう

サンゴ礁が隆起してできたこの島には、川も湖もありません。石垣島から海底送水が開始され、水道が開通したのは1976(昭和51)年のこと。それまで、雨水と井戸水に生活用水を頼っていました。水道が開通した現在でも、1日に使用できる水の量は限られているのだとか。水資源に制限があるなか、施設への送水量を増やすことなく、持続可能なペットボトルフリーの取り組みのために導入されたのが、海水淡水化装置だったのです。

海水淡水化が小さな島のライフラインと伝統文化を守る

蓄電池と一体化した自家発電用太陽光パネル

星のや竹富島に導入されたのは、海水淡水化の機能に加え、太陽光発電とヒートポンプが一体化した「海水淡水化熱源給湯ヒートポンプユニット」というシステムです。じつはこのニュースを耳にしたとき、「あの小さな島のどこにプラントが!?」と驚いたのです。でも実際にはとてもコンパクトな装置で、ダム建設に比べると建設期間が格段に短いうえ、地形や環境への負荷は最小限。季節や天候に左右されることなく、無尽蔵にある海水から安定的に水を確保することができる、離島にぴったりのシステムなのですって。

簡単に説明すると、地下からくみ上げた海水を特殊なフィルターに通して淡水化するのですが、竹富島は海水の水質がよいためフィルターへの負荷が少なく、メンテナンスの負担も少ないのだそう。稼働開始により、これまで施設で提供していたペットボトルの全本数分をまかなうことができるようになったのだそうです。お部屋で実際に飲んでみたところ、口当たりがとても柔らかく、軟水のミネラルウォーターのような味。コーヒーやハーブティーに使っても、まろやかさを引き出してくれたように感じました。

淡水化した水を適温まで冷却する際に発生する排熱は給湯に利用され、年間で約35トンのCO2削減につながるのだとか。太陽光パネルと蓄電池が一体化しているので、停電時でも自家発電で稼働できるのも特徴。水だけでなく、電気も石垣島からの送電に頼っている竹富島。万が一、災害が起こった場合も自立して稼働し、施設内で水とお湯、電力の供給ができます。そのため、竹富町内の民間企業としては初めて住民の避難所に指定されています。

施設内には島の伝統作物を栽培する畑がある
上から、左はクモーマミ(小浜大豆)、右がハーマミ(小豆)、島ニンニク、粟

海水淡水化装置のプラントを見せていただいたあと、島の伝統作物を栽培している「畑プロジェクト」の畑を訪れました。かつて農業が盛んだった竹富島では、ほかの島とは異なる畑文化が形成されていました。しかし、観光業や流通の発展によりその数は減ってきているのだとか。失われつつある畑文化と農作物を継承するために立ち上げられたのが、このプロジェクト。島のおじいやおばあの家に通いながら、昔ながらの野菜や薬草の栽培方法を学んだスタッフがここで栽培を実践し、アクティビティにも取り入れています。島ではお米が作れない代わりに、粟やモチキビなどの穀類、薬草やニンニク、イモ類が豊富。粟は祭礼の供物として使われ、島ニンニクは小粒だけれど香りと旨み、強い辛みが特徴です。ひとつひとつ作物の名前や調理方法を教えてもらい、島特有の作物を守ることが食文化を次世代に伝えることにもつながっていることがわかりました。

開業から10年目となり、一致協力を意味する「ウツグミ」の精神のもと、島との共生を実現している星のや竹富島。島内には3つの集落がありますが、「竹富島第4の集落」と呼ばれていることにも納得。いちばん新しい集落でありながら、昔ながらの伝統文化や食文化を守り伝えていくために、欠かせない存在になっているようです。

星のや竹富島 

https://www.hoshinoresorts.com/resortsandhotels/hoshinoya/taketomijima.html

Text/永田さち子

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ライター・編集者。医学雑誌、スキー雑誌の編集を経てフリーランスに。旅行書、雑誌を中心に旅、グルメ、料理、健康コラムなどを執筆。ハワイに関する著書に、『ハワイのいいものほしいもの』『おひとりハワイの遊び方』『ハワイを歩いて楽しむ本』(実業之日本社)、『50歳からのHawaiiひとり時間』(産業編集センター)ほかがある。旅行情報サイト『Risvel(リスヴェル)』にコラムを連載中。http://www.risvel.com/column_list.php?cnid=6

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