東の美人画の名手 没後50年 鏑木清方展に見るこだわりと愛情

「西の松園、東の清方」と称され、明治から昭和まで活躍した美人画の名手・鏑木清方。没後50年を記念した【没後50年 鏑木清方展】が3月18日に東京国立近代美術館で開幕しました。

挿絵画家としてキャリアをスタートさせた清方ですが、自身の興味の向くままに、20代では美人画、30代では風景画・風俗画、そして40代には机の上に広げて個人で楽しむ巻子や画帖、版画などの小さな芸術作品「卓上芸術」と新たな分野を次々と展開していきました。生涯を通じで依頼が多かったのはやはり美人画だそうですが、風景画・肖像画・風俗画でも第一人者となり、そして優れた文筆家でもあったそう。小説家・泉鏡花とは親しく交流があったとのこと。まさに“マルチプレーヤー”といえる清方ですね。

鏑木清方 《朝夕安居(朝)》    1948(昭和23)年、 鎌倉市鏑木清方記念美術館、3月18日~4月3日展示

今回の展覧会は、「第1章 生活をえがく」「第2章 物語をえがく」「第3章 小さくえがく」の三部構成となっています。過去の各所での展覧会でよく紹介されていた挿し絵画は敢えて除木、美人画・風俗画・卓上芸術の三分野から約110点の日本画が紹介されています。

左から:鏑木清方《浜町河岸》1930(昭和5)年 《築地明石町》1927(昭和2)年 《新富町》1930(昭和5)年 
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東京国立近代美術館、通期展示

目玉作品としては、長年行方が分からず2018年に所在が再発見された「築地明石町」「新富町」「浜町河岸」の三部作の美人画。この三つの中で一番目を惹くのは、やはり「築地明石町」。浅葱色の小紋に黒羽織の女性の髪は夜会巻きに結い上げられています。誰かに声をかけらたかのように、ふと振り返り視線を遠くにやっています。朱色の紅が塗られた口元は閉じられていますが、次の瞬間にも何か語り始めそうです。そして、陶器のような透けるほどの白い肌。明石町とは、東京都中央区に現在でもある町名で、聖路加病院がある場所といえばお分かりになる方もおられるでしょう。江戸時代には、前野良沢が「解体新書」を完成させた屋敷や福沢諭吉が蘭学塾を始めた場所もあります。明治時代にはイギリス人居留地があったため、文明開花の中心地だったそう。ここから徒歩圏内の京橋に生まれ育った清方にとっては、西洋文化が入ってくる明石町は眩しい土地だったかもしれません。「築地明石町」「新富町」「浜町河岸」の三部作は、絵の大きさや表具もぴたりと揃っており、清方のこだわりを感じます。

鏑木清方 《鰯》    1937(昭和12)年頃、東京国立近代美術館、通期展示 ⒸNemoto Akio

今までの清方の展覧会ではあまり見る機会がなかった風俗画もすばらしいです。「鰯」は、鰯売りの少年と鰯を買う女性、家の様子までが細かなところまで描かれています。家の簾越しに見えるのは、鍋釜やザルなどの台所道具。ちょうど水瓶のすぐ上に当たるところには、水あたりにご利益があるという駒込富士神社の縁起物「麦わら蛇」が描かれています。「描写を尽くすことで生活を表す」ことを信条とした清方らしいものの描き方です。「好きなものしか描けない。」という清方の言葉の通り、市井の人々への愛情を感じる作品です。

この展覧会で展示されている絵画そのもの以外で注目して欲しいポイントがあります。絵の横にあるキャプションに、「☆☆」「☆☆☆」などと某グルメガイドのように星がついているものがあります。これはなんでしょう?清方は自身の作品に「◎・◉・◯」の三段階の評価をつけていたそう。例えば、大正7年〜15年の間に清方が書き留めた「製作控え帳」には500点ほどの作品が記載されていますが、◎はわずか16点のみ。今回の展覧会用では、わたしたちに馴染みがある「☆」の数で置き換えて表記したという展覧会主催者側の遊び心です。会場で☆がついている作品を見つけたら、ご自身の印象と比較してみるのと面白いのでは?「さすが☆☆☆」と思うか、「いやいや、こちらの方が私は好き」と思うでしょうか。

鏑木清方 《道成寺(山づくし)鷺娘》    1920(大正9)年、福富太郎コレクション資料室、4月5日~5月8日展示

東京の桜も満開になり、東京国立近代美術館の近くの皇居のお堀端も美しい季節です。ぜひご観覧にいらしてください。

没後50年 鏑木清方展 開催概要

会場: 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

会期: 2022年5月8日(日)まで

休館日: 月曜[ただし3月21日、28日、5月2日は開館]、3月22日(火)

開場時間: 9:30-17:00(金・土曜は9:30-20:00)

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。


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