九州・太宰府まで観に行く価値あり!
【特別展 北斎】日本初公開作品並ぶ 九州国立博物館

福岡県太宰府市にある九州国立博物館。“学問の神様“菅原道真を祀る太宰府天満宮のすぐお隣に、東京・京都・奈良と並ぶ国立博物館、九州唯一の「九州国立博物館(九博)」があります。「日本文化の形成をアジア史的観点から捉える」と銘打っているように、ユニークな視点で、独自の展覧会を開催されています。旅好き・アート好きの私は、展覧会の度に旅の目的地として訪れる博物館・美術館の一つです。

九博で「特別展 北斎」が4月16日に開幕しました。“世界で最も有名な日本の画家”である葛飾北斎。《冨嶽三十六景》《北斎漫画》は、皆さんもこれまでさまざまな展覧会で目にする機会があったかと思います。今回の九博での特別展では、そんな北斎の日本初公開作品に出会えるのです!

それは、重要文化財「日新除魔図(宮本家本)」全219点。江戸時代に90歳と長生きをした北斎が、晩年の83~84歳に紙に描いた作品です。「自身の健康」と「放蕩者の孫が寄り付かないように」という願いを込めて、日々、魔除けの獅子の絵を描いては、その紙を家の周りに打ち捨てていたそう。身の回りの世話と絵のアシスタントをしていた北斎の娘・お栄はそれらを拾い集めて取っておきました。信州松代藩士・宮本慎助という武士が、以前北斎に頼んだ絵は完成しましたかと訪ねてきた際に、北斎は描いておらず、お栄は取りためてあった「日新除魔図」を代わりに渡したというエピソードがあります。

その後、所有者が変わり、近年は長年にわたって個人蔵だったため研究者でさえも観ることが叶いませんでした。数年前に最後の個人所有者であった著名な古美術商・坂本五郎氏のご遺志により九博に寄贈されたことで、今回全作品を公開出来ることになりました。

重要文化財 日新除魔図(宮本家本) 葛飾北斎  江戸時代・天保13~14年(1842-43) 九州国立博物館(坂本五郎氏寄贈)

獅子は一匹の時もあれば、複数だったり、こどもの獅子と共に家族でいたり。飛んだり、跳ねたり、踊っていたり。おすまししたり、おどけていたり、見返り美人のポーズをきりりと決めていたり。表情や動作に一つとして同じものがなく、観ていて飽きません。人からお金をもらって描いていた作品とは違い、自分自身の魔除けのために描いていたものですので、非常に伸びやかなタッチで、北斎も楽しみながら描いていたのに違いないと想像してしまいます。

毎日描いていたので、日付入りです。九州国立博物館館長・島谷弘幸氏のお気に入りは、「12月12日」の獅子だそうで、なんとそろばんを弾いています。「師走で、獅子もお金勘定に忙しいのかな?」と思いつつじっくり絵を見てみると・・・・

一獅々か志し (いちししかしし)

二疋が獅々  (にひきがしし)

獅子の十六  (ししのじゅうろく)

四六廿獅子  (しろくにじゅうしし)

獅子智廿八  (ししちにじゅうはち)

絵の左上に“獅子”に絡めた九九が書いてあります!現代の私たち、いや、小学生が見ても通じる九九。北斎の遊び心に感服です。

自分や家族の誕生日、記念日などの日付の獅子を探してみるのも楽しいですよ。現存しているのは219枚しかなく、1年365日、全てがあるわけではありません。一枚に複数の日付が描いてあるものもありますし、旧暦で2月30日があったりします。北斎が描かなかった日もあるかもしれませんし、後年に散逸してしまったものもあるようです。「日新除魔図」が展示されている展示室は写真撮影可能になっていますので、ご自身のお気に入りの獅子を見つけて、写真に収めてくださいね。

私は北斎の作品を観るときにいつも思い出す、北斎が今際の際に語ったと言われている言葉があります。

「もう十年、いや、せめて五年の命があれば『真正の画工』になれるのに」(飯島虚心『葛飾北斎伝』)。

北斎の“生”への執念は、すなわち、“絵”への執念。現代より平均寿命がずっと短かった江戸時代に90歳まで生きた北斎の晩年の、初公開の219点の作品を多くの方にぜひ観ていただきたいです。九州にお住まいの方はもとより、ゴールデンウィークにお出かけをご検討の方はぜひ足をお運びください!巡回展などの予定はなく、九博のみでの公開になります。

*作品保護のため、彩色のある1枚(9月12日)のみ前期展示

「特別展 北斎」 開催概要

会場:九州国立博物館 https://www.kyuhaku.jp/

会期;2022年6月12日(日)まで

休館日;月曜日(5月2日は開館)

開場時間:9:30-17:00(入館は16:30まで)

     金曜日・土曜日【夜間開館】

     9:30-20:00(入館は19:30まで)

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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