都市において、自然環境に配慮した建築とエンターテインメント性の高い施設の両立はなかなか難しいもの。大阪の中心にあり、駅前というロケーションでこれを実現させたのが、4月22日に開業した「OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート」です。星野リゾートSDGsなSTORYの第5回は、環境に配慮した施設でツーリストをもてなすとともに、地域のブランド力を高める役割も担う、都市ホテルの取り組みついてご紹介します。
広大なガーデンエリアをもつ「OMO(おも)」ブランド最大規模のホテル
星野リゾートが展開するホテルのなかで、都市観光を楽しむホテルブランド「OMO(おも)」。これまでは比較的こじんまりとした規模の施設が中心でしたが、「OMO7大阪 by 星野リゾート」(以下、OMO7大阪)は客室数436室と、同ブランドでは最大規模を誇ります。JRと南海電車が乗り入れる新今宮駅前のロケーションにありながら広大な緑地を有し、また「OMOベース」と呼ばれるパブリックエリアが宿泊客以外にも開放されているなど、旅行者と地域の人たちが共有できるスペースがあることも大きな特徴です。
ホテルがある新今宮駅周辺は、大阪きっての“ディープゾーン”。大阪のシンボルでもある「通天閣」がそびえ、お膝元には大阪の下町、「新世界」が広がります。そんな繁華街をイメージしてJR駅のホームに降り立つと、目に飛び込んでくるのは芝生が敷き詰められた広場と、その緑に映えるまっ白な外観。甲子園球場1個分の広さがある敷地は、半分以上に相当する約7,600㎡が、「みやぐりん」と名付けられたガーデンエリア。気温30℃を超える真夏を想定したシミュレーションによると、体感温度が40℃近くなるアスファルト路面に比べ、木陰やテラスデッキの日陰で3~7℃、芝生で約1℃ほど涼しく感じられるのだか。緑地による冷却効果は想像以上です。
エネルギー消費量を軽減する国内初の建築設計がエンターテインメント性を高める
さらにホテルの建築にも、環境に配慮した技術が取り入れられています。建物の外壁に膜を張ることで、直射日光など外部からの光を反射・拡散するもので、国内の建築物では初。外膜がない場合と比較した場合、窓から入る日射量を30~45%軽減でき、客室の冷房に必要なエネルギー消費量軽減につながるのだそうです。
総支配人の中村友樹さんによると、建築に着手した当初の設計ではガラス張りの外壁になる予定だったとのこと。
「敷地の半分以上を緑地が占めるなかに建つホテルが、環境への影響とともに街の人たちから見た施設としての印象を考えたとき、ピカピカのガラス張りがふさわしいのかどうかとの意見がありました。議論を重ねる中で、環境への負荷を最小限にとどめるこの建築設計を取り入れることが決まったんです」と中村さん。
外膜に用いられているのは、帆布などに使われる素材を「フッ素樹脂酸化光触媒膜」という材料で加工を施したもの。これがエネルギー消費軽減だけでなく、エンターテインメントの舞台としても大活躍することになりました。夜のアクティビティの一つとして、この外壁膜に照明で演出されるユニークな花火が映し出されるのです。火薬で打ち上げる花火と異なり、天候に左右されることなく安全に楽しめることも大きな利点。さらに、線状照射で間接的に光を当てるため光源が直接目に入らず、柔らかな見え方になことが特徴なのだとか。滞在した日はあいにくの雨模様だったのですが、迫力ある花火シーンを楽しむことができました。
建物の外装膜に加え、窓には特殊な金属膜をコーティングしたガラスや、天井や床には厚みのある断熱材を採用。また、星野リゾートの各施設ですでにおなじみとなった「アメニティバー」、ペットボトルによるウォーターサービスの廃止も実施しています。コインランドリーでは、洗剤を使わずアルカリイオン電解水のみで洗う洗剤レスのスマートランドリーを導入。これもまた、国内のホテル業界で初の取り組みとのことでした。
地域の人が集うコミュニティスペースにもなるパブリックエリア
レセプションがあるパブリックスペース「OMOベース」は、全長約85m、高さ約5mの開放的な空間。大きな窓からは「みやぐりん」を一望でき、都会にいながらにして季節の移ろいを感じられます。このスペースは、「OMOカフェ&バル」「OMOダイニング」とともに、宿泊客以外のビジターも利用可能。これまでの「OMOベース」が宿泊客のためのスペース中心だったのに対し、街の人にも開かれていることも、このホテルの大きな特徴です。
昼間のカフェやガーデンエリアでは、地元の人たちらしき女性グループや家族連れを多く見かけました。新今宮駅のホームから一望できる公園のようなガーデンエリアとまっ白い外観のホテルは、通勤や通学に電車を利用する人たちから見ても、気になる存在であることは間違いないようです。
地域と一体になって大阪のディープな魅力を発信
客室は全部で6種類。なかでも特徴的なのが、最大6名まで宿泊できる「いどばたスイート」。大阪を代表する観光スポットを紹介する「OSAKAボード」が壁面に描かれ、大きなテーブルを囲んで井戸端会議さながらにおしゃべりを楽しめるつくりになっています。ほかにも大きな窓から通天閣と大阪の街を一望できる「コーナーツインルーム」など、旅の目的と人数に合わせて選べます。
「OMO」のおもてなしとして人気を博しているアクティビティは、大阪をディープに楽しめるもの。通天閣で有名な下町「新世界」、大阪を代表する市場の一つ「木津卸売市場」を巡ったり、B級グルメとして人気の串カツのルールやマナーを教えてくれるガイドツアーなど、初めての大阪観光ではではなかなか行きにくいエリアを楽しめる内容になっています。
ホテル周辺はリアルな大阪を体験できる魅力的なエリアでありながら、観光の拠点としてはこれまであまりなじみがありませんでした。
「大阪の新しい楽しみ方を提案するだけでなく、地域の人も気軽に利用できる場所になることが理想です。このエリア全体を魅力的な街として盛り上げていくことも、このホテルが担う役割なんです」と総支配人の中村さんは言います。環境負荷の低減、大阪らしいディープな魅力の発信、さらに地域の活性化。この3つが相乗効果もたらしながら、街にどのような化学変化をもたらすのか、今後が楽しみです。
OMO7(おもせぶん)大阪 by 星野リゾート
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo7osaka
Text/永田さち子
ライター・編集者。医学雑誌、スキー雑誌の編集を経てフリーランスに。旅行書、雑誌を中心に旅、グルメ、料理、健康コラムなどを執筆。ハワイに関する著書に、『ハワイのいいものほしいもの』『おひとりハワイの遊び方』『ハワイを歩いて楽しむ本』(実業之日本社)、『50歳からのHawaiiひとり時間』(産業編集センター)ほかがある。旅行情報サイト『Risvel(リスヴェル)』にコラムを連載中。http://www.risvel.com/column_list.php?cnid=6