【特別インタビュー】星野リゾート星野佳路代表 日本を支える観光業に 平準化、20s割、団塊世代サブスク ターゲットイメージは意外なあの人!

2021年の12月、「世界気象機関(WMO)が、2020年にロシアのシベリアで観測した気温38度が、北極圏での観測史上最高と正式認定」のニュースを見て、北極圏で気温38度!と改めて知った地球環境問題の深刻さ。W LIFEでもSDGsの話題を追っていきたいと思っていたところ、星野リゾートが「勝手にSDGs」の公式ページをオープンしていることを知りました。

勝手にSDGs https://www.hoshinoresorts.com/aboutus/sdgs/

それから1年半、カテゴリーに「SDGs」を設けて、観光や食の領域でのSDGsの話題を「星野リゾートSDGsなSTORY」を中心に取材してきました。バックヤードの取り組みなど、普段見えない部分も見せていただいたのが印象的でした。今回、まとめの意味もあり、環境の日の今日、登場いただくのは創業108年目の星野リゾート 星野佳路代表。観光が日本を支えるために必要なことや目指すべき指標など率直に語ってくださいました。

「観光業が日本を支えられるように…」熱のこもったお話になりました。

-コロナでもっとも影響を受けた観光業。今、取り組まれている問題はどんなことですか?

 問題解決をして未来に貢献していきたいのは「観光の平準化」ですね。星野リゾートでは、まず「季節の平準化」のためにオフシーズンの魅力づくりに努力をしています。たとえば、青森県の奥入瀬エリアでは、以前は紅葉の秋以外はすべてオフシーズンでした。そこで、春や夏には苔の魅力を、冬には氷瀑の魅力を打ち出しました。

奥入瀬の苔の美しさとミクロの世界に驚かされる苔さんぽ。
ため息がでるほど美しい氷瀑。写真右共に「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」。

また、夏の沖縄は多くの観光客がいらっしゃいますが、秋・冬・春はビーチリゾートを観光客へ訴求しても難しいため文化リゾートにしようと考え、「星のや沖縄」では、滞在アクティビティとして館内にある道場で琉球空手を取り入れたり、琉球舞踊を鑑賞できる機会を提供したりしています。そして、プールは42℃と年中楽しめる水温にし、冬の星空の下でも温かいプールに入りながら星空を眺められるようにしています。年中、お客様に沖縄へいらしていただけるよう、施設の開発段階からハードとソフトの両面で考えています。

海風を感じながら日の出とともに行う琉球空手は贅沢な時間。「星のや沖縄」。

温泉旅館は、季節では平準化しやすいのですが、「世代的な平準化」が課題です。まず、若年層の国内旅行への参加率が落ちてます。コロナ前だとLCCでソウルに5,000円前後で行けるのに、志賀高原には1万円かかるような時代になっていたことや、修学旅行が面白くなかったという理由があります。そこで、温泉旅館ブランド「界」では、20代の方々向けに「界タビ20s」というリーズナブルな宿泊プランを出して、若年層に国内旅の魅力を知ってもらえる機会を作っています。

団塊の世代向けには「70歳以上限定、温泉めぐり 界の定期券」という最大1泊60%引きになるサブスク型のプランを出したのですが、大好評により1週間で売り切れました。予想を超える反応で、100組限定のうち、初日に30組ほどのお客様にご購入いただきました。1人、2人、3人利用のパターンがあるので、どのような目的で利用が多いのかなど傾向を見ながら、次回の進化に結びつけていきたいですね。今まで日本の旅行をリードしてきた、この世代の旅行参加率が落ちないようにしたいと考えています。

ー平準化していないと、価格のUP以外にどんな問題が起こるんでしょうか?

 需要の変動が大きいと、観光業の雇用問題にも結びつき、これは観光の質に大きく影響します。観光業は、繁忙期だけ人が必要だということで非正規が75 %と高く、結果、十分に報酬を得られる産業になってません。非正規雇用中心では、キャリアパスも見えないので、ノウハウも築けず、質が上がらないのです。

先ほど例に出した沖縄は、混雑するのは夏だけで10月から3月は閑散期になりますが、夏だけいいサービスをするというのでは、人材育成になりません。観光比率が高い県なだけに、全国でも平均年収は最低な県になってしまっています。観光が平準化できれば、正規雇用で給与も出せるわけです。

星野リゾートは、ほとんどが正社員で構成されています。そして、目標としている年間115日の休日取得は達成。平均年収は、30歳の前後3年間の平均で500万円というのも達成寸前まで来ています。報酬が日本の経済をリードしてきたトヨタやパナソニックといった製造業並みになるためには、安定した収入が重要です。観光が地方の経済を支えるといいながら、従事している人が給料をもらえないと支えようもないですね。

2つのホテルを運営している「星野リゾート トマム」のある占冠村(しむかっぷ村)は、 日本全国の自治体の中で実は人口増加率が3年連続日本一です。ここはトマムの成長がこれを支えているというのが表れていて、誇れます。また、山口県の「界 長門」を作った時の長門湯本のマスタープランの観光評価軸には、観光従事者の満足度を入れてます。どのくらいの観光客が見込めるのか、どのくらいの収益性があるのかといった視点も大事ではありますが、そこで働く方々がどのくらい満足しているのかも重要です。働く人々が増えて、そこでの生活に満足する、これも地域を支える観光の使命だと思っています。

温泉街に出来た川床が魅力になった「界 長門」。

この1年半、「星野リゾートSDGsなSTORYS」でいろいろ拝見してきたのですが、SDGsへの取り組みはどのように見られていると感じられますか?

 予約の段階では特に感じることはないのですが、宿泊施設に来ていただいた時に共感していただいているのは実感としてあります。ただ、SDGsへの取り組みによって親近感とかブランドロイヤルティは高まりますが、自分の大事な休みにどこに行くかは、そこで何かができるか、アクティビティや食事など判断の材料は別枠だと思います。

一つお伝えできるのは、SDGsに取り組んでいても、それを価格には転嫁できないということです。つまりコストに跳ね返るようなSDGsは長続きしないということなんです。CSR(企業の社会的責任)が注目されたからと、社会活動やISO認証の取得をアピールする企業がでてきたのを見て、どこかもやもやしていたんですね。そこで、マイケル・ポーター教授のCSV経営の話も聞き、本業の利益を犠牲するようなSDGsでは長続きしない、長期にわたって環境対策ができる経営をしようと思ったわけです。

現在3代目の水力発電所。地熱利用加えて、利益にも貢献。「星のや軽井沢」。

西表島や竹富島といった離島の施設ではペットボトルを完全廃止にしました。これは、離島には産業廃棄物の処理施設がないので、プラスチックは持ち帰らなくてはならないんです。よって、ペットボトルを使用しないことは、このコスト削減につながっています。一方で、星のや竹富島にある海水淡水化装置で水の供給を補い、ウォーターサーバーを置いて、お客様に客室のボトルに汲んでいただくことで、環境対策にもちょっと加わっていただいているわけです。

お客様がこのような取り組みをしているから予約をするということはありません。「環境への取り組みは評価するので、そのためのちょっとした負担は許容する」というのが消費者の姿勢だとは思います。ただ、他の施設に行かれて、冷蔵庫を開けたらペットボトルの飲料がたくさん並んでいた時に違和感や抵抗感を感じるというのが、マーケティングの上での最大効果という感じでしょうか。

ウォーターサーバからマイボトルに水を入れる。「西表島ホテル」。
客室のウォータージャグ。「星のや竹富島」。

ーラグジュアリーという点でいうと、今まで客室のアメニティが魅力というのも変わって来ていますね。

 そもそもイメージを上げるのに客室のアメニティを使わないといけないというのがおかしいんです。たとえば、持ち帰れる外資系ブランドのアメニティに置いてホテルを評価してもらうというのは、滞在における魅力の本筋から外れています。他の人が作り上げたラグジュアリーのブランドイメージを借りてくるのは邪道で、それは本当のラグジュアリーではないと思います。

ラグジュアリーの言葉の意味合いは時代とともに変わって来ており、私が今、感じていることは、スウェーデンの環境活動家グレタさんが星野リゾートに泊りに来て、何を評価されて、何をふざけるなと思われるかです。グレタさんの見方こそが次世代の環境やSDGs への考え方なのかもしれません。グレタさんの考えるラグジュアリーは豪華絢爛ではなくて、不便のない2、3泊を快適に過ごせるものが置かれていて、作り方にも背景があって、リユースなどもきちんとされている。そんなことではないでしょうか?

ターゲットイメージといいますか。30年前には星のや軽井沢にビル・ゲイツさんが来たらどうしようかなどを思い浮かべていました。まさに「ビル・ゲイツさんが泊まりに来た時に恥ずかしくないホテル(星のや軽井沢)、グレタさんが泊まりに来た時に、怒られないホテル」を目指したいですね。

ーとても分りやすい指標だと思います。最後に、いまコロナ禍を経て、旅へのモチベーションが戻りつつあると思います。星野代表ご自身にとって、旅の価値とはなんですか?

 「視野のリセット」ですね。年間60日のスキー滑走を目標にしているので、 スキーを通じてあちこち行く事も多いのですが、旅の前後でこの変化を実感します。会社にずっといるとどんどん視野や価値観が狭くなって、くだらないことが大事だと思い込んでしまっているんですね。ところが、旅にでるとそんなことは実はどうでもいいことで、人生のあるべき姿だとか、重視することはなにかとかが見えてきたりします。旅にでない生活をしていて、すごく視野が狭まっているなと思った時に、旅の大事さを実感しますね。

星野リゾート https://www.hoshinoresorts.com/

Text / W LIFE編集長 小野アムスデン道子

世界有数のトラベルガイドブック「ロンリープラネット日本語版」の編集を経て、フリーランスへ。東京とポートランドを行き来しつつ、世界あちこちにも飛ぶ、旅の楽しみ方を中心に食・文化・アートなどについて執筆、編集、プロデュース多数。インバウンド・コンサルタント。日本旅行作家協会会員。



“【特別インタビュー】星野リゾート星野佳路代表 日本を支える観光業に 平準化、20s割、団塊世代サブスク ターゲットイメージは意外なあの人!” への2件のフィードバック

  1. 読みながら膝を叩いて、腹落ちの連続でした。
    SDGsに対するホテル業界の対応についての違和感を、正に言い当てていただいた気持ちです。
    ホテル業界の従業員の給与基準含め、真の意味でのサステナブルでないと、サステナブルになり得ない、観光業が日本を支えるという気概を、全体で持つべきと強く思いました。
    素晴らしいインタビュー記事をありがとうございました。

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