今回は本のご紹介です。旅についての執筆している作家・ライターが主な会員である日本旅行作家協会が主催する第7回 斎藤茂太賞を受賞した佐藤ジョアナ玲子著「ホームレス女子大生 川を下る in ミシシッピ川」(報知新聞社)です。この賞は旅行作家協会初代会長である故・斎藤茂太氏の功績を讃える賞であり、一年間に出版された旅に関する優れたエッセイやノンフィクションの中から受賞作が選ばれます。斎藤茂太氏は言わずと知れた斎藤茂吉のご長男で、医師であり、旅を愛する随筆家だった方です。
女子大学生がたった一人でカヤックで川を下り、3000キロ先のメキシコ湾を目指す…もしそんな冒険にチャレンジをしようとする友人がいたら、「危ないから、やめた方がいいよ!」と言ってしまいますよね。
この本は、そんな大冒険をやり遂げてしまった女子大生の旅の様子を書籍化したものです。日本とフィリピンのハーフのジョアナさんは、日本の大学より学費が安いというネブラスカ州の大学に進学し学生生活を送っていました。手違いで夏休み中に住む場所がなくなってしまい、異国でまさかのホームレスに?! どうせ家がないならと彼女はミシシッピ川3000キロをカヤックで下る冒険にでます。果たして無事にメキシコ湾まで無事にたどり着けるのでしょうか…
昼はカヤックを漕ぎ、夜は岸辺に上がりテントを張って寝る毎日。美しい鳥などを見ることもあれば、ワニをはじめとする野生動物もいます。そもそもテントを張って野宿なんて、アメリカの治安を考えれば危ないとしか思えません。洗濯やお風呂・食料品や日用品などの買い物や保存は一体どうしているのでしょう?私が一番知りたかったのはトイレ事情!そんな疑問もこの本を読むにつれて徐々に解消。都会の快適な環境でしか暮らしたことがなく、キャンプ場でのキャンプさえしたことがない私にとっては、驚きの連続でした。屋外でずっと生活するせいで、足の爪の間に砂が入り込んでしまい見苦しくなるのが嫌で、「ネイルを塗って誤魔化すことにした」というエピソードが出てくるのは若い女性のジョアナさんならでは。
旅の途中に出会う人々が興味深く描かれています。豪華クルーザーで川下りをしているニューヨークのお金持ち。ジョアナさんと同じようにカヤックでミシシッピ川を下る人も意外にもたくさんいます。特に印象的なのは、「リバーエンジェル」と呼ばれている、川下りをする人を手助けし、家に泊らせ食事をご馳走する人たち。一人のリバーエンジェルにお世話になると、「次はこの人を頼ったらいい」とリレーのように次々紹介してくれます。このような親切な人々がいるこの地域は、「古き良きアメリカ」が残っているのですね。ここに書かれている「アメリカ」は、私たち日本人がメディアや旅行などの情報を通して知っているニューヨークや西海岸などのアメリカとはかなり違います。私たちがあまり知らないアメリカ中西部の人々の暮らしや文化をジョアナさんはご自身の経験を通してこの本の中で語ってくださっています。
ジョアナさんは受賞の知らせをドナウ川の川下り中、ブルガリアで受けたそう。7月下旬に行われた授賞式に出席するために緊急帰国をされました。「正直なところ、なぜ私が受賞!?」と驚かれたそう。実際にお会いしてみると、チャーミングな、そして頭の回転が速い聡明な方。お母様がフィリピンご出身ということもあり、バイカルチャーな視点を持ちながら育たれたかと推察しますが、若くして一人で海外に出られているので、視野が広く、さまざまなことを柔軟に受け止める感性をお持ちです。今後も世界の大河を順々にカヤックで下りたいとおっしゃっていました。ジョアナさんの冒険はまだまだこれからのようです。今後の活躍も楽しみですね!
大冒険なのにご本人は楽しんでいる様子が読み手に伝わる、若いエネルギーに溢れた一冊です。ぜひお手に取って読んでみてください。
「ホームレス女子大生 川を下る inミシシッピ川」(報知新聞社、税込1300円)
報知新聞社 オンラインショップ
https://shop.hochi.co.jp/shopdetail/000000001367/
佐藤ジョアナ玲子 https://twitter.com/Boloron_Tokyo
日本旅行作家協会 http://www.jtwo.net/
本文写真提供 / 早乙女 翠
Text /トラベルアクティビスト真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。