泉屋博古館東京がリニューアルオープン 東洋美術の名品が集まった記念展へ

住友家が集めた美術品が収蔵されている東京・六本木にある「泉屋博古館東京」。リニューアルして今春再オープンしており、それを記念する展覧会の第三弾【古美術逍遥 東洋へのまなざし】が開催中です。展覧会は四つの展示室に分かれており、東洋美術の名品をテーマに沿って紹介しています。

第1展示室は、中国絵画。「明末清初」と呼ばれる、明の末期から清の初めの時代。支配階級が漢民族から北方女真族に変わる動乱の時期の書画中心に展示されています。この時期は新たに支配階級となった異民族に忠誠を誓うか、滅びてしまった明への忠義を貫くかで、画家たちも悩み苦しみました。気が触れてしまうような人もいたそうです。そのような苦境の中から描かれた石濤《廬山観瀑図》(重要文化財 清時代17-18世紀)は、スケールの大きな世界を描いています。

石濤《盧山観瀑図》重要文化財 清時代17~18世紀 泉屋博古館蔵

絵の上部中央には高い峰、その左下には瀑布、そこには近づけぬかのように険しくそそり立つ断崖。絵の下部に描かれている二人の人物の小ささが、自然の大きさを一層際立たせます。一人は滝の方に顔を向けているようですが、もう一人は滝の方を見ていません。それは滝の音や気配、空気感、湿度などを感じているのかもしれません。絵のさらに上方に書かれている画讃は濃淡の二種類の墨で書き分けられていますが、これは山にかかる雲の様子を婉曲に表したもの。この絵の中の大自然に身を置いているのは自分自身…描かれている人物になりかわってイマジネーションを膨らませながら、この作品を鑑賞してみてください。

国宝《線刻仏諸尊鏡像》(平安時代12世紀)泉屋博古館蔵

第2展示室は仏教美術。国宝《線刻仏諸尊鏡像》(平安時代12世紀)は、まるで紙の上に筆で書いたような細密さで、銅造の鏡の上に諸仏が描かれています。少し背伸びをしたり頭を傾げてみたりして、照明の角度とご自身の目の高さを調整し、鏡の反射光を利用して浮かび上がってくる絵を鑑賞してください。如来像を中心として、不動明王・文殊菩薩・毘沙門天などが見えてきます。

《弥勒仏立像》 重要文化財 北魏時代・太和22年(498) 泉屋博古館蔵

《毘沙門天立像》 鎌倉時代 13世紀 泉屋博古館蔵

《弥勒仏立像》(重要文化財 北魏時代・太和22年/498年)は、日本にまだ仏教が伝来する前の時代の仏像。すぐ近くに展示してある《毘沙門天立像》(鎌倉時代 13世紀)と比べて観ると面白いかもしれません。日本に仏教が伝来し、発展し、それにまつわる仏教美術の歩みの点と点を並べて鑑賞できます。

第3室は日本美術。この部屋の展示には、「数寄あらば」というタイトルがつけられています。古筆・水墨画・近代絵画などバラエティに富んだコレクションです。かつて住友家の邸宅を飾り、“数寄者”である客人に楽しんでもらうための名品がずらり。

伊藤若冲《海棠目白図》 江戸時代 18世紀 泉屋博古館蔵

伊藤若冲《海棠目白図》(江戸時代 18世紀)は、代表作《動植綵絵》を手掛ける前、40代前半の作品。画面いっぱいのシデコブシと海棠(かいどう)の花。まんまるな姿で身を寄せ合った九羽のメジロと対照的なのは、ぽつんと描かれている一羽でいるメジロ。その様子を上から眺めるジョウビタキも一羽。動植物への愛が溢れ出る作品です。

《佐竹本三十六歌仙絵切 源信明》重要文化財 鎌倉時代 13世紀 泉屋博古館蔵

「佐竹本三十六歌仙絵切」(重要文化財 鎌倉時代 13世紀)は、鎌倉時代に成立した絵巻二巻でしたが、大正8年(1919)、大変高額であったため一人で購入できる人物がおらず海外流失の危機に。そこで、絵巻の歌仙を一人一人のパーツに切り分けて、当時の事業家など美術蒐集家が購入することに。どの人物の部分を誰が買うかはクジで決めたとか。住友家15代当主・住友春翠が購入したものが、この《源信実》。春翠は、この掛け軸を茶会などで用いることなく亡くなったそう。もしかしたら、クジで当たったこの部分がお気に召さなかったのかしら?それとも、とても大切に思って、表に出さなかったのかしら?そんな妄想が頭の中をよぎりました。優美に額装されたこの《源信明》を見ていると、きっととても気に入っていたに違いないと確信しました。

《鍍金魁星像》 明時代 16世紀 泉屋博古館蔵

第4室は「文房具と煎茶」。文房具とはstationary という意味ではなく、文人が書斎(文房)で使ったり置いたりするものですが、便利に使えるものという視点ではなく、美意識の面から手元に置いたものという意味です。そして文房で芸術品を愛でる際には、お煎茶をいただきながら鑑賞したそうで、このタイトルが付けられています。明時代の科挙の受験の神様《鍍金魁星像》(明時代 16世紀)は、右手に筆を左手には枡を持ち、勢いよく駆けていく姿。トップ合格を目指してまっしぐらな様子が面白く、躍動感あふれる作品です。

国宝2点、重文10点。東洋美術・日本美術の重要な作品をダイジェストで観ることができます!

「泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展III 古美術逍遙―東洋へのまなざし」開催概要
会期2022年9月10日(土)〜2022年10月23日(日)前期2022年9月10日(土)〜2022年10月2日(日)後期2022年10月4日(火)〜2022年10月23日(日)
会場泉屋博古館東京
住所東京都港区六本木1丁目5番地1号 Google Map
時間11:00〜18:00金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
休館日月曜日 ※祝日の場合は開館、翌平日休館
入館料一般1,000円(800円)、高大生600円(500円)、中学生以下無料
※20名様以上の団体は()内の割引料金
※障がい者手帳ご呈示の方はご本人および同伴者1名まで無料
TEL050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL【泉屋博古館 公式サイト】https://sen-oku.or.jp/tokyo/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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