パリだけじゃない印象派、アメリカ・ウスター美術館所蔵の名作を観る

ボストン近郊にある創立から125年を超えるウスター美術館。その収蔵品は古代から現代までなんと40,000点。ギリシャ・ローマ時代の彫像から浮世絵や日本の刀剣類まで幅広く「美術の百科事典」と呼ばれるほどですが、一通り観て廻るのにわずか3時間というコンパクトさ。バラエティーに富んだ同館の収蔵品の中から、印象派とそれに関連する作品が来日、一堂に会する展覧会「印象派 モネからアメリカへ  ウスター美術館所蔵」が上野・東京都美術館で開幕しました。館長のマティアス・ワシェック氏も来日され、「日本の影響を受けて印象派がパリで誕生し、その影響はアメリカにも伝わりました。そしてこの展覧会で世界を一周して、また日本に戻ってきたのです」とオープニングのスピーチをされました。

今年2024年は、1874年にパリで第1回印象派展が開催されてから150周年。それまで風景画とは、神話や聖書のテーマを描く際の背景でしかありませんでした。屋外に出て見たままの自然の風景を明るく軽やかな筆づかいで描く印象派の登場は、ヨーロッパやアメリカに大きな衝撃を与え、ヨーロッパ各地やアメリカから多くの画家たちがパリにその技法を学びにやってきました。そしてその画家たちは、自国に戻り、自国の自然を印象派の技法で描きました。本展覧会では、モネやルノワールなどフランスの印象派に加え、グリーンウッドやハッサムなどアメリカ人の印象派の作品を多く紹介しているのが今回の展覧会の特徴です。

クロード・モネ《睡蓮》(1908) ウスター美術館

展覧会は五つの章に分かれています。第2章「パリと印象派の画家たち」の中で注目したい絵画は、クロード・モネ《睡蓮》(1908年 ウスター美術館)。日本美術に傾倒したモネは、パリから75kmほど離れたジヴェルニーに移り住み、庭にアイリスや柳を植え、太鼓橋をかけた池を作り、その池に睡蓮も植えました。250点以上の「睡蓮」が世界中の美術館に収蔵されていますが、この「睡蓮」は特別です。世界で初めて美術館が購入したモネの《睡蓮》なのです。購入についての交渉の様子が当時の電報や手紙が展示されています。「モネ2点を取り置きしてほしい」「美術館の理事会は1点購入を承諾した。作品を実見せずに決断するのは異例のことだ」など、興味深いやり取りの様子を見ていると、当時の美術界にとって印象派の登場のインパクト、そしてモネの作品の素晴らしさに「ぜひ購入したい」とウスター美術館が動いた様子がよくわかります。モネの「睡蓮」はさまざまな色調のものがありますが、この作品は、水面は映り込む薄い青色の空と薄い緑色の柳の葉の影の中に、左下に小さく家が枯れているはっきりした朱色の睡蓮が目を惹きます。世界で初めて美術館に購入された「睡蓮」の前で、当時の関わった人たちに思いを馳せながら、じっくり鑑賞してください。

第4章の「アメリカの印象派」では、第一回印象派展から約20年後のアメリカで花開いたアメリカ人画家による印象派の作品を紹介しています。日本では馴染みがあまりない画家が多いかもしれませんが、アメリカの自然や都市化する街の生活の様子が印象派の技法で描かれた名作ぞろいです。

ジョゼフ・H・グリーンウッド《リンゴ園》(1903) ウスター美術館

ジョゼフ・H・グリーンウッド《リンゴ園》(1903年)は、アメリカ東部ニューイングランド地方の農園で白い花を咲かせるリンゴの木がある風景を描いた作品。厳しい冬を乗り越えて、自然も、そしてリンゴ園を営む人間も、明るく温かな春の喜びに満ち溢れているような一枚です。グリーンウッドは、ウスター近郊で生涯を過ごし、パリへの留学の経験がありませんが、しっかりと印象派の影響を受けています。

チャイルド・ハッサム 《コロンバス大通り、雨の日》(1885)ウスター美術館

チャイルド・ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》(1885年)は、アメリカの近代化を描きこんでいます。ボストンのサウスエンド地区に1869年に新設されたばかりのコロンバス通りを走るのは自動車でしょうか。ボストンの古い地区に比べると道幅が広く、これから急速に変化していく工業化・近代化を見通した都市開発の一端が垣間見れます。

この他にも、黒田清輝をはじめとする日本人画家の作品、オランダやスウェーデンの画家の作品など、パリの印象派の影響を受けた各国の画家たちの絵画も展示されており、印象派の国際的な広がりを俯瞰できる展示となっています。鑑賞に来た私たちを「画商に印象派の絵画を探しに来た客」に見立てた音声ガイドの趣向もユニークで引き込まれます。20世紀初頭、当時のコンテンポラリーアートである「印象派」の絵画を積極的に収蔵してきたウスター美術館だからこその粒揃いの作品をぜひ間近でご鑑賞ください。

クロード・モネ《税関吏の小屋・荒れた海》(1882) 日本テレビ放送網株式会社
チャイルド・ハッサム《花摘み、フランス式庭園にて》(1888) ウスター美術館


印象派  モネからアメリカへ  ウスター美術館所蔵 概要
会場:東京都美術館(東京都台東区上野公園8-36)
会期:2024年1月27日(土)~4月7日(日)
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般2200円(2000円)、65歳以上1500円(1300円)、大学生・専門学校生1300円(1100円)
※土日・祝日および4月2日(火)以降は日時指定予約制 ()は前売り料金

公式サイト:https://worcester2024.jp/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。



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