京都の北西部の高雄にあり、紅葉の名所で知られる神護寺。中国の唐から帰国した空海が活動の拠点とし、真言密教はじまりの地となりました。その神護寺の創建1200年を記念し、寺外初公開の本尊「薬師如来立像」、現存する日本最古の「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」、日本の肖像画史上の傑作「伝源頼朝像」(いずれも国宝)など、神護寺の至宝が東京国立博物館で一堂に展示されています。
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天長元年(824)、高雄山寺(たかおさんじ)と神願寺(じんがんじ)というふたつの寺院がひとつになり、神護国祚真言寺(じんごこくそしんごんじ)(神護寺)が誕生します。唐で密教を学んだ空海が帰国後、最初に活動の拠点とした寺院です。空海は774年に現在の香川県で生まれました。都で勉強する中で仏教の道に進み、密教を学ぶために遣唐使として唐に渡ります。長安で一年に満たない時間で密教のすべてを修めて帰国しました。帰国後は神護寺、東寺、高野山で密教の普及につとめ、853年に没しました。
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国宝、中国・唐時代8〜9世紀、京都・教王護国寺(東寺)
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特別展は、まず空海にまつわる貴重な名品の展示から始まります。一枚の板から浮彫りした秘仏「弘法大師像」(重要文化財)、空海が唐からもたらしたとされる法具「金剛密教法具(金剛盤・五鈷杵・五鈷鈴)」(国宝)など。これらは密教の儀式で使われる道具で、刃が5本のものを五鈷杵(ごこしょ)、五鈷杵の片側が鈴の形になったものが五鈷鈴(ごこれい)です。約1200年前、空海が実際にこの五鈷杵と五鈷鈴を使って密教の儀式をしていたかと思うと、鳥肌が立ちます。
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そして圧巻なのは、日本最古の曼荼羅である国宝「両界曼荼羅(りょうかいまんだら)」(高雄曼荼羅)。空海が筆を入れたと伝えられています。両界曼荼羅は、「胎蔵界」と「金剛界」の2つあり、私は「胎蔵界」の曼荼羅を見ることができました(「胎蔵界」は前期~8/12まで、「金剛界」は後期8/14~の展示)。4メートル四方の大きな曼荼羅は、密教の世界観を表現し、深い紫紺に金色の線の美しさがすばらしいです。空海も曼荼羅を大変美しいものと考えていたに違いありません。江戸時代以来、およそ230年ぶりに修理された姿を見ることができます。
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そして展示の後半は、神護寺の前身寺院にまつられていた国宝「薬師如来立像(やくしにょらいりゅうぞう)」をお見逃しなく。平安初期彫刻の最高傑作で、空海が神護寺にご本尊として迎え入れたそうです。寺外での公開は神護寺史上初めて、ご本尊は1200年ぶりにお寺から出て、上野にいらっしゃいました。
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(手前)「月光菩薩像」重要文化財、平安時代・9世紀 すべて(京都・神護寺)
空海は、この威厳ある薬師如来立像と日々対面し何を思ったでしょうか。顔つきも身体つきもどっしりと迫力があり、日本の仏像の歴史からも異彩を放つ特別な存在と言われています。薬師如来は、病気やケガはもちろん、人を悩ますあらゆる災いを遠ざけてくれる存在、平安時代の人々が祈りをささげたように、私もしっかりと手を合わせました。神護寺では正面からのみですが、本展では正面だけでなく、左右や斜め後ろからも拝見することができます。ぜひじっくりと薬師如来立像と対面してください。
本展は、空海と真言密教のはじまりの地、神護寺に伝わる寺宝の数々を、本当に惜しみなく紹介しています。たっぷり2時間、大満足でした。後期では、赤い衣を着たキラキラ美しい「釈迦如来像」(国宝・平安時代)の展示が予定されています。後期もぜひ訪れたいと思います。
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公式図録の表紙。薬師如来立像のお顔と後ろ姿が目印です
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ステッカーや刺繍ワッペン、手ぬぐいなどオリジナルアイテムもたくさん
創建1200年記念 特別展「神護寺 空海と真言密教のはじまり」
開催期間:2024年7月17日(水)~ 9月8日(日) ※会期中、一部の作品の展示替えを行います。
休館日:毎週月曜日、8月13日(火)
開館時間:9:30-17:00(金曜・土曜は19:00まで*ただし8月30日・31日はのぞく)入館は閉館30分前まで
会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
入場料(税込):一般 2,100円、大学生1,300円、高校生900円、中学生以下 無料
詳しくは、https://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/
Text / 糸藤友子
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リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、現在は脳科学ベンチャーで、脳の可能性を最大化するためのサービス開発(【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/)などを担当。認知症の知識や予防の技術を学び「認知症予防専門士」と、発酵の原理・歴史・効果などを学び「発酵マイスター」の資格を取得。脳腸相関に基づき、脳活と腸活による健康寿命の延伸をミッションとして活動中。