アマン創業者 が始めた”旅館”を訪ねて しまなみ海道へ

アマン創業者エイドリアン・ゼッカ氏が旅館を始めるということで話題になったAzumi Setoda。広島県はしまなみ海道、本州に近い生口島(いくちじま)にオープンしたのは2021年3月のこと。私はすでにオープン以来2回滞在しており、すっかりお気に入りの宿になっています。製塩業や海運業で栄えた豪商・堀内家から受け継いだ築140年邸宅がこの宿のベース。建物のエントランスは、天井が高く、完璧にリノベーションしてあるものの、以前の邸宅で家を支えていたであろう梁が何本も使われていて、往時の面影を残した造りとなっています。広々とした“土間”にテーブルとチェアがあり、そこでチェックイン。漆喰の壁がある一方、刷毛の跡を残しつつ塗った藍色の壁はコンテンポラリーアートのよう。伝統的なものと革新的なものが融合している宿であることが一目でわかります。

奥に進むとダイニング。カウンターでのお食事が基本ですが、個室もありますので、例えば小さなお子さんとご一緒でまわりが気になる時、お祝い事などで少人数でお食事したい時などは、事前に宿側にご相談して個室利用もオプションに入れるのが良いか思います。立派な枝ぶりの松や苔むした石がある中庭を見ながら奥へ進むと宿泊棟です。私のお部屋は「庭」というタイプ。ベッドの足元にあるソファから雪見障子を上げる外を見ると、箱庭があり、時折舞い降りて遊びにくる小鳥たちを眺めながらゆったりとした時間を過ごすのが心地よいです。

十分な広さのクローゼット、お部屋も、バスルームの檜の湯船も広々していて、実に気持ちがいい。リネン類・館内着・アメニティその他諸々素晴らしいのですが、特筆したいのはバスルーム横のパウダールーム。バスルームとパウダールームを合わせた広さは、ベッドルームと同じぐらいの広さになります。ミラーと洗面ボールが背中合わせで二つあり、それぞれ調光できるようになっています。ミラーと洗面ボールの延長には、かなり広い台があり化粧道具などを気兼ねなく広げられます。

どんなに素敵なホテルに泊まっても、パウダールームに十分なスペースがなく「狭いなあ」と思いながら支度を整えること、よくありませんか?
どんなに親しいお友達との旅行でも、「ドライヤー、使いたいな」「ちょっと手を洗いたい」など細かなストレスが生じるのはほとんどがパウダールームではないでしょうか?そして、ミラーにむかって右下手前にコンセントがあるのも設計時の細かい配慮。コンセントの位置によっては、ドライヤーをかけている間に洗面ボールの横に置いておいたお化粧品一式がコードに薙ぎ倒されて雪崩が起きたなんていうこと、ありますよね?このコンセントの位置ならそんな心配は無用。よく考えられています。
「Azumi Setoda」のゼネラルマネージャー・窪田淑さんは、アマンに長くお勤めになられ、各所のアマンリゾートでもマネージャーを長く勤められました。「ラグジュアリーホテルとは」「顧客が満足するサービスとは」ということをよくわかっていらっしゃいます。「コンセントの位置にさえ配慮がなされていますね」とお伝えしたところ、「設計時に、上司と会議で喧嘩しました。自分の旅行に持って行く荷物一式を会議室で広げて、パウダールームの広さは重要ということを説得しました」と笑いながらおっしゃっていました。そういうプロセスがあって、この素晴らしい宿ができたのだなと感心しました。

「Azumi Setoda」の宿泊をより一層充実させているのは、素晴らしいお食事です。福岡ご出身、フランス・アヌシーの3つ星レストランをはじめフランスや東京で腕を磨き、実績を積んできた秋田絢也シェフ。瀬戸田に移住してからは、ご自身が出す料理のために畑も始めたとのこと。「今日は畑で、たった2つだけズッキーニの花が取れたので、それをお出しします」と、ズッキーニの花のなかに瀬戸内で獲れたタコをミンチにしたもの、ズッキーニの実をスライスや麺状に切ったものを詰めた一皿を出してくださいました。ドライトマトからとったソースとレモンの香りの泡がかかっています。甘味と酸味に、タコのぷりぷりとした食感が食欲をそそります。

秋田シェフは、一つの料理に食材を詰め込みすぎないということを心がけているとのこと。例えば「にんじん」という一皿は、にんじんという素材の切り方や調法を変えて、一つの料理を完成させます。「限られた条件の中で、バリエーションを」というフランス時代の師匠の教えを守られているとのこと。瀬戸内海各地のお肉やお魚、そしてお野菜の生産者と繋がりを作り、素晴らしい食材を使われています。

食後のお茶は、お庭にあるお茶室で。プライベート感満載です。そして、キャリアのスタートはパティシエだったという秋田シェフが、ふわふわの美味しいスフレを焼いてくださいました。小麦粉が一切入っていない、卵のふわふわだけのスフレ。ああ、美味しい。

使う器は、この建物の元々のお家・堀内家に伝わっている古いものばかり。瀬戸内の美味しい食材をふんだんに使ったイノベーティブなフランス料理を、歴史ある建物・歴史ある器で楽しめます。お酒は、広島のワイナリーや酒蔵のものを含めてお料理に合わせてペアリングしてもらいました。幸せに包まれるディナーになりました。

お部屋に戻って、大きな檜の湯船でゆったり過ごすのも良いのですが、すぐお向かいには「yubune」という銭湯があります。昼の瀬戸田と月夜の瀬戸田の様子がタイルで描かれている壁面は少しレトロチック。サウナもあります。Azumiに宿泊の方は何度でもこの銭湯に行くことができますし、午前中早い時間と20時以降は宿泊者のみということなので、銭湯を独り占めできてしまうかもしれません。
そして、このyubuneの棟には少しリーズナブルな宿泊施設もついていますので、同行するメンバーによってはこちらに宿泊するのも良いかと思います。旅の疲れをとるトリートメントもこちらの棟での施術になります。「骨格美トリートメント」というコースが私はお気に入りで、ふわふわと足の指先に触るところからスタートするのですが、90分の施術が終わる頃には本当に体がスッキリ。「東京に出張してきてください!」と思わずお願いしてしまったほどです。予約制で、施術者は日によって変わりますので、宿泊が決まったら早めの予約をお勧めします。

レンタカーやレンタサイクルでのしまなみ街道観光の拠点として最高の「Azumi Setoda」。過去2回の私の滞在はいずれも1泊ずつ。ホームページのExperienceの項目を見ていると、「レモン収穫ツアー」「船釣り」「SUP体験」など連泊してやってみたいことがたくさん提案されています。次回は連泊して、ラグジュアリーな宿でさらにゆったりした楽しい時間を過ごしたいと思っています。

Azumi Setoda https://azumi.co/setoda/


Text /トラベルアクティビスト真里

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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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