法然さんが浄土宗を開いて850年。ゆかりの地・京都でしか味わえない『法然と極楽浄土展』を京都国立博物館で楽しみましょう。
「南無阿弥陀仏」と声に出してとなえると、皇族、貴族たちだけでなく庶民も極楽浄土に行くことができる――。
平安時代の終わりごろ、末法の世における救済とは何かを問い続けた法然(ほうねん)上人が「南無阿弥陀仏の六字を声に出し念ずれば誰もが救われる」という教えに辿りついたのが、今から850年前の承安5(1175)年のことでした。
その直前には、1156年にあの有名な保元の乱、1159年に平治の乱と大乱が続き、そこから平清盛が台頭、平氏の政権が成立。
方や東国では源氏が影響力を強めていった時代で、人々は、繰り返される内乱や災害、疫病の頻発により苦しみ、世は乱れていました。
そんな時、法然の「現世に救いがなくても来世に救いはある、しかも生前に寄付するなどの善行や修行の必要もない。ただ、南無阿弥陀仏ととなえれば良い」という考えは、たちまち庶民の心をとらえました。
この850年目の節目の年に当たるのを記念して、『特別展 法然と極楽浄土展』が12月1日(日)まで京都国立博物館で開かれています。
この展覧会は巡回展で、既に今春には東京で、そして来年2025年の秋には九州でも開かれる予定ですが、京都展は3会場の中で最多の出品数。国宝6件、重要文化財66件を含む総数156件が公開されています。
京都会場は近隣に浄土宗寺院が多く、それらの寺院の貴重な宝物も「京都会場だけは貸し出し可能」という幸運に恵まれ、充実した内容となっています。
確かに、京都の報恩寺が所蔵する《厨子入千躰地蔵菩薩蔵》などは、あまりにも繊細な彫像で長距離の運搬は難しいと思われます。
この厨子に入っていた地蔵菩薩の周りには、約15センチ四方弱の中になんと952体(現存)もの小さな地蔵菩薩様が!!この極めて精緻な彫技はぜひ会場でしっかりと見ていただきたい展示のひとつです。
紫式部の邸宅跡としても知られる廬山寺に伝わる《選択本願念仏集》は法然の主著であり、浄土宗の根本聖典。
最初の2行は法然上人の直筆と伝わる貴重な品です。
「南無阿弥陀仏 往生之業念仏為先(往生の業には念仏を先と為す)」と書かれています。この廬山寺本は前期のみの公開です。
一回転させると経典を全てとなえる功徳があるとされる輪蔵の回転方向に向かって手押しするような躍動感のある帝釈天、持国天、金剛力士、密迹(みつじゃく)力士像は、江戸幕府が開かれてすぐの元和7(1621)年の作と伝わります。二代将軍徳川秀忠の命により立てられた知恩院の経蔵に設置されているもので、八天像のうち四軀を京都会場で見ることができます。
江戸時代 17世紀に高松藩初代藩主松平頼重が3年かけて造営した法然寺からは圧巻の仏涅槃群像が。お釈迦様は約3メートル近くあり、周りの像は本来82軀あるうち26軀が京都会場に来ています。象や猿、ウサギ、そしてカタツムリまでもがお釈迦様の死を嘆く姿を色んな角度から見て、そして写真を撮って堪能してください。
11月6日(水)からの後期展示では、修理後初公開となる知恩院が所蔵する国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図」いわゆる「早来迎(はやらいごう)」が登場します。
今、まさにこの世を去ろうとする人=往生者のもとへ猛スピードで阿弥陀如来と二十五菩薩がお迎えに来てくれる図を、ほぼ正方形の絹のキャンバスに対角線で描くことでスピード感が伝わってくる大胆な構図が特徴です。こうした来迎図によって、お念仏を声に出してとなえれば皆、このようにお迎えに来てくださるのだと多くの人が目で見て実感することができたことでしょう。
また、後期にはさらに奈良 當麻寺(たいまでら)のご本尊である8世紀(中国・唐または奈良時代)の「綴織(つづれおり)當麻曼荼羅」も必見です。
法然上人の生涯を描いた鎌倉時代の名品 国宝『法然上人絵伝』(知恩寺蔵)も全期間中、展示の入れ替えが度々ある点、ご注意ください。
ミュージアムショップにも極楽浄土からインスピレーションを得た面白く愉快なグッズがたくさんありました。
中でもこの黄色い極楽洗面器は一際目を引いていました。
蓮の花のクッションや涅槃図のお釈迦様のメモ帳、そして法然上人のアクリルスタンドも発見。机に置いたら、いつも自然に「南無阿弥陀仏」ととなえてしまいそうです。
また、京都市内には、知恩院、金戒光明寺、百万遍知恩寺、清浄華院、永観堂禅林寺、誓願寺、長岡京市には光明寺など法然上人ゆかりの浄土宗のお寺があり、これから紅葉のシーズンを迎え、展覧会と一緒に楽しむには最高の季節です。
この機会にぜひ、秋の京都へお出かけください。
特別展示 法然と極楽浄土展 京都会場
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/honen2024-25/
会期 : 2024年10月8日(火)~2024年12月1日(日)
★前期 10月8日(火)~11月4日(月・祝)
★後期 11月6日(水)~12月1日(日) ※ 休館日などはHPをご確認ください。
会場 : 京都国立博物館 平成知新館
住所 : 京都府京都市東山区茶屋町527
時間: 9:00~17:30
※毎週金曜日は20:00まで開館
※最終入場は閉館の30分前まで
TEL : 075-525-2473 (テレホンサービス)
Text /倉松知さと
関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。