その”表情”に魅了される!
挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」 

紀元3から6世紀の古墳時代、王の墓「古墳」から出土した「埴輪(はにわ)」。素朴で簡略化された表現でありながら、ユーモラスで温かみを感じるそのフォルムに密かなファンが多いのではないでしょうか?

10月16日から特別展「はにわ」が東京国立博物館(以下、東博)で開幕しました。この展覧会、東博に収蔵されている《挂甲の武人》が国宝に指定されてから50年を記念した展覧会です。今回は5体の「埴輪 挂甲の武人」を同時に公開するほか、古墳時代の国宝18点が集結しています。

《埴輪 踊る人々》 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵

会場を入って最初に私たちを迎えてくれるのは、《埴輪 踊る人々》。片手は顔のあたり、もう一方の手は腰のあたりに添えて盆踊りを踊っているかのようなポーズ。顔は、丸くぽっかり空いた目と口、鼻は縦長にとごくごくシンプルに描かれています。少し背が低い方の埴輪の顔の横にあるのは耳ではなく、「みずら」。古墳時代の男性が髪を縦に束ねる髪型を表現しています。

昭和5年に出土してすぐ修復が行われたそうですが、近年は傷みがかなり激しかったそう。約2年間に渡る解体修理を行い、この展覧会が修理後初披露とのこと。小さい方の埴輪は7センチほど高さが高くなるように修理したそうなのですが、それは同じ古墳から出た埴輪は大体同じ大きさという昨今の研究成果に基づいているそうです。クリーニングされてきれいになり、元々色付けされていた顔の赤い色もはっきりと戻ってきました。

この埴輪たち、「踊る人々」と名前がついていますが、「馬を引いている人々」という解釈もあるそう。なぜなら片手を挙げるポーズをとる埴輪は、馬の埴輪と共に出土されることが多いからだとか。小さい方の埴輪が鎌を背負っているのも、馬に餌をやるために草を刈ることを連想させることから、馬の世話をする「馬子」の仕事をしている人ではないかという説になるという訳です。皆さんはどのように感じますか?

(左から)重要文化財《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市世良田町出土 古墳時代・6世紀 奈良・天理大学附属天理参考館蔵
        《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市出土 古墳時代・6世紀 アメリカ・シアトル美術館蔵国宝
          《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵
《埴輪 挂甲の武人》群馬県伊勢崎市安堀町出土 古墳時代・6世紀 千葉・国立歴史民俗博物館蔵重要文化財
《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市成塚町出土 古墳時代・6世紀 群馬・(公財)相川考古館蔵
国宝《埴輪 挂甲の武人》群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵

今回の展覧会の大きな見どころの一つは、国宝に指定されてから50年を迎えた 東京国立博物館蔵の《国宝 埴輪 挂甲の武人》が兄弟のようによく似ている4体の埴輪と一緒に、初めて5体同時に公開されているということです。

現在収蔵されている先は東博をはじめ、群馬・千葉・奈良そして米国シカゴと地理的に離れていることもあり、全員で集結するのは貴重な機会。東博の武人は頭から足先まで完全武装している姿は大変立派で、さすが国宝に指定されているだけのことはあります。他の武人たちもそれぞれの個性を感じられます。製作された場所は近いエリアと考えられていますが、作られた時代が少しずつ違うそうです。

《馬形埴輪》三重県鈴鹿市 石薬師東古墳群63号墳出土 古墳時代・5世紀 三重県蔵

埴輪は人の形のものだけでなく、いきものを模った埴輪も多く出土していることをご存知ですか?《馬形埴輪》は、高さが86cmもある大型のもの。長いたてがみや細かい文様が施された鞍(くら)、口やお尻には鈴が付いており、飾り立てられています。5世紀に大陸や朝鮮半島からもたらされた馬は、王の権力の象徴。実際、このように美しく飾られていたのでしょう。他にも、犬、牛、鹿や水鳥など古来より日本人に身近ないきものの埴輪がまとめて展示されているコーナーもあります。どの埴輪も丸みを帯びた可愛らしい姿で、作った人のいきものへの愛情が込められているように感じられます。

《鶏形埴輪》栃木県真岡市 鶏塚古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵

《鶏形埴輪》は、その名の通り鶏の形を模ったもの。鶏が文献に初めて現れるのは「古事記」で、天岩戸に姿を隠してしまった天照大神が常世長鳴鳥(鶏のこと)が鳴くのを聞いて岩戸から出てくるという話は皆さんも耳にしたことがあるはず。古墳時代にすでに鶏は重要な鳥で、埴輪としても型取られ、文字がある時代になり「古事記」の中に記されたのかなと想像が膨らみます。

《埴輪 力士》大阪府高槻市 今城塚古墳出土 古墳時代・6世紀 大阪・高槻市立今城塚古代歴史館蔵

ユニークな埴輪は他にもたくさんあります。まわしを締めたお相撲さんを模った《埴輪 力士》は、体形は他の埴輪に比べるとがっしりとしており、顔も丸顔。片手をあげて、まるで四股(しこ)を踏む直前の所作のように見えます。「相撲は神事」と言われますが、日本で太古の昔からお相撲が行われていた証左ですね。

《埴輪 杯を捧げる女子》群馬県高崎市 上芝古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵



《埴輪 杯を捧げる女子》は、左手に杯を掲げている埴輪。美しい模様が描かれた衣をまとい、アクセサリーは二重のネックレスに耳飾り、顔の頬の部分には赤い化粧と、とてもおしゃれです。「お酒が好きな女性は昔からいたのだな」と一瞬自分と重ね合わせてシンパシーを感じてしまいましたが、杯を掲げているのは自分で飲むためではなく、王や神に捧げているのかもしれないですね。でも文字で書かれた記録がない時代のものですから、「“乾杯!”と自分で飲む瞬間かも」と想像するのは自由です!

一部を除いて、ほとんどの埴輪の撮影OKなのは嬉しいですね。可愛くてユーモラスな表情の埴輪たちの写真をたくさん撮ってください。1500年以上の年月を超えて古代日本の姿を伝えてくれてくれる【特別展 はにわ】。ついつい時間が経つのを忘れてじっくり見入ってしまいますので、混み合う前、会期の早いうちに行くことをお勧めします!

挂甲の武人 国宝指定50周年記念 特別展「はにわ」
https://haniwa820.exhibit.jp/

会期:2024年10月16日(水)〜12月8日(日)
会場:東京国立博物館 平成館


Text /トラベルアクティビスト真里

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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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