大河ドラマ『光る君へ』もいよいよクライマックスへ向かっていますが、先日、京都で開かれた紫式部と源氏物語にちなんだイベントに行ってきました。
『史実でたどる紫式部――「源氏物語」は、こうして生まれた。』が光村推古書院という京都の出版社から刊行され、市内の本屋さんでもよく目にします。何しろ、表紙が目立つのです。
それもそのはず。表紙を飾る作品「五節の舞(ごせちのまい)」は、源氏物語を撮り続けて30年以上になる写真家・中田昭さんによるものです。
京都市出身の中田さんは日大芸術学部写真学科卒業後、我が日本旅行作家協会顧問理事だった写真家の芳賀日出男氏に師事。「京文化」をテーマに風景や庭園、祭り、そして『源氏物語』を長年撮り続けていらっしゃいます。
今回、執筆陣から「是非とも美しい本にしたい」ということで中田先生にお声がかかったそうで、最近の紫式部、源氏物語本の中では群を抜いて美しい本となっています。源氏物語に寄り添い、登場人物たちの心象風景を映すような千年前の雅びな世界にどっぷり浸かれる写真が満載なのです。
中でも私は、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の・・・」という藤原道長が詠んだ和歌に寄せて撮ったという道長邸跡から満月の一枚は、月を眺める千年前の道長の心とリンクしたような感覚になり心が揺さぶられました。(本書 P208に掲載)
また、光源氏と朧月夜が春の夜に危険な恋に足を踏み入れた『花宴(はなのえん)』をイメージした平安神宮の夜のしだれ桜も、その怪しいほど美しい、火照るような桜色がなんとも印象的でした。(本書P146,147に掲載 下段写真参照)
しかし、この本は写真だけではありません。執筆陣がまた豪華で、雅びな写真の間には読み応えのある文がぎっしり。
藤原道長の研究の第一人者 同志社女子大学名誉教授の朧谷寿(おぼろや・ひさし)氏を筆頭に、紫式部や清少納言の研究で知られる京都先端科学大学教授の山本淳子氏、同志社女子大学特任教授の山田邦和氏らの筆により、歴史学、文学、考古学の面から貴族社会など当時の時代背景、紫式部の生い立ち、『源氏物語』の誕生、紫式部と道長との関係、式部の晩年、宇治など幅広く網羅されています。
この本に関連し、中京区烏丸二条のお香の老舗「松栄堂」南隣の施設、薫習館(くんじゅうかん)にて写真家 中田昭氏と執筆者の朧谷寿氏らによる講演会が開かれました。
ゲストに香老舗松栄堂のご主人 畑正高氏も参加され、「千年前のお香の調合・レシピが残っているお陰で我々は千年前と同じ香りを楽しめるんですよ」と貴重なお香を焚いてくださったり、伏籠(ふせご)など大河ドラマに出てくるお香にまつわるお話をして下さいました。
また、中田氏は写真を投影しながら撮影秘話を、朧谷氏はドラマとは異なる実際の紫式部の世界、式部のお墓は?道長との関係は?など専門的なお話も軽妙なトークで会場を楽しませてくれました。
美しい写真やお話の内容などは、ぜひ『史実でたどる紫式部』をお手にとってみてくださいね。
会場がお香の老舗 松栄堂さんの施設だったこともあり、気付かぬうちに佳い香りを体中にまとっていてとても幸せな気分になりました。
館内に珍しい匂い袋のガチャガチャがあったので、トライ!
3つある香りのうち、私は甘くふくよかな香りの「空蝉香」でした。早速、ポーチや扇子に香りを移して楽しみました。
秋の夜長、素敵な和の香りを楽しみながら、源氏物語の世界に身を委ねてみませんか。
『史実でたどる紫式部――『源氏物語』は、こうして生まれた。』
ぜひ、お手にとって読んでみてください。
『史実でたどる紫式部――『源氏物語』は、こうして生まれた。』
(光村推古書院 定価:本体3600円+税)
著者:朧谷寿、山本淳子、山田邦和、日山正紀
写真:中田昭
https://www.mitsumura-suiko.co.jp/
監修:公益財団法人 古代学協会
松栄堂 薫習館(くんじゅうかん)
Text /倉松知さと
関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。