あの歌麿も発掘!江戸時代の名プロデューサーが見出した傑作ずらり、
江戸の町並みも出現の特別展

「蔦重」(つたじゅう)こと、蔦屋重三郎(1750〜97)。江戸時代中期、幕府公認の遊廓・吉原で生まれ育ち、貸本屋を生業にしていました。後に喜多川歌麿、東洲斎写楽などを世に送り出した江戸時代の名プロデューサーです。浮世絵を描いた絵師よりも、「次はこんな絵を描かせよう」「こんなイベントをやったら人が集まるのではないか」などコンテンツを仕組んだ側の蔦重の活躍にフォーカスした特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」がいよいよ始まりました。

大門をくぐるとそこは江戸!

会場に入ってまず驚くのは、吉原への入り口であった「大門」を模した大きな門が。その向こうには満開の桜。一気に江戸時代の吉原に入り込んでしまったかのようです。

貸本業だった蔦重は徐々に出版業を手がけるようになります。展示してある「細見嗚呼御江戸 序」 を見てみると、以前の「吉原細見」は情報が古い上に冊子が小さく見にくかったのですが、冊子のサイズも大きくして、歩きながら手に持って見られるようにしたそう。どの店にどんな花魁がいるのか、どの遊女の階級が上がったなど、吉原生まれで吉原のことを隅から隅まで知っている蔦重が情報をアップデート。江戸の人々は、最新情報にワクワクしたのでしょうね。


 磯田湖龍斎筆「雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴」大判錦絵、安永4年(1775)頃 、東京国立博物館蔵、前期展示4/22〜5/18
喜多川歌麿筆 「高名三美人」 寛政5(1793)頃、東京・公益財団法人平木浮世絵財団、前期展示4/22〜5/18

遊女の姿が名入りで描かれている磯田湖龍斎による「雛形若菜初模様 丁字屋内ひな鶴」は、現代ではブロマイドのようです。遊女だけでなく、喜多川歌麿筆のお茶屋の看板娘たち「高名三美人」など一般の人を描いたものもあります。

左)東洲斎写楽筆 重要文化財「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」 右)東洲斎写楽筆 重要文化財「初代市川男女蔵の奴一平 」ともに寛政6(1794)、東京国立博物館蔵、前期展示4/22〜5/18

わずか10ヶ月という短い期間しか活動しなかった東洲斎写楽の大首絵など見応えある浮世絵も。一度はどこかで見たことがあるこれらの有名な浮世絵は、全て蔦重のプロデュースだったのですね。この展覧会では、250点以上の作品が展示されています(会期中入れ替えあり)。

 宿屋飯盛撰/喜多川歌麿画 『画本虫撰』天明8(1788)正月、千葉市美術館蔵、前期展示4/22〜5/18後期は別本を展示)

中でも注目してほしいのは、喜多川歌麿がまだ有名になる前に描いた作品です。カエルと虫を描いた「画本虫撰」(宿屋飯盛撰/喜多川歌麿画)、潮干狩りの成果の色や形も様々な貝が描かれている「潮干のつと」(朱楽菅江撰/喜多川歌麿画)、松の枝にとまる鳥の様子を描いた「百千鳥狂歌合」(赤松金鶏撰/喜多川歌麿画)は、蔦重が歌麿の秀逸した画力を見抜き、自分の家に住まわせていた頃に描かれたものだそう。才能のあるアーティストを発掘し、囲い込み、プロデュースしていったのですね。

喜多川歌麿画「歌まくら」横大判錦絵折帖、天明8(1788)、浦上蒼穹堂蔵、 前期展示:4/22〜5/18(後期は別本を展示)

そして、これらの作品と並んで「歌まくら」という、やはり喜多川歌麿による春画が展示されています。男と遊女が唇を合わせている瞬間が描かれているますが、遊女の髪の影に、男の目がちらりと見えます。その視線は…何を思っているのでしょう。150年以上の歴史がある東京国立博物館で、春画が展示されるのは初めてのことだそう。

喜多川歌麿筆「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」大判錦絵、寛政4〜5(1792〜93)頃、東京国立博物館蔵、前期展示:4/22〜5/18
喜多川歌麿筆「歌撰恋之部 夜毎二逢恋」大判錦絵、 寛政5〜6年 (1793〜94年)頃。 東京国立博物館蔵、前期4/22〜5/18

私が一番心惹かれた浮世絵は、やはり喜多川歌麿筆「婦女人相十品 ポッピンを吹く娘」のそばに展示されている、同じく喜多川歌麿による「歌撰恋之部 夜毎二逢恋」です。慕っている人から届いた手紙を読み終わったばかりなのでしょうか、手紙を手で持ちつつも、顔を上げ、その視線は少し遠くを見ています。戸惑ったような雰囲気も感じるのは私だけでしょうか?手紙の差出人や内容について、鑑賞している私たちもついつい思いを巡らせてしまいます。

江戸の街に迷い込んだよう

江戸時代の街並みを再現したセットは、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(NHK)と同じものを用意したそうです。蔦重のお店「耕書堂」もありますよ。お店の中に入ってみることもできるので、蔦重が生きた江戸時代の雰囲気を感じることができます。音声ガイドのナビゲーターが大河ドラマ「べらぼう」で主演をつとめる横浜流星さんですので、蔦重本人が浮世絵の世界を案内してくれるような気持ちになります。HPも参照ください。

混雑必須です。早めにお出かけくださいね!

特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」https://tsutaju2025.jp/

会期:2025年4月22日(火)~6月15日(日)
前期:4月22日(火)~5月18日(日) 後期:5月20日(火)~6月15日(日)
※会期中、一部作品の展示替えあり

会場:東京国立博物館 平成館(上野公園)

休館日:月曜日、5月7日(水)
※ただし、4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館

開館時間:午前9時30分~午後5時
※毎週金・土曜日、5月4日(日・祝)、5日(月・祝)は午後8時まで開館(入館は閉館の30分前まで)


Text /トラベルアクティビスト真里

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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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