日本国中から135件もの国宝が集まる大阪で初の大規模国宝展である特別展「日本国宝展」が4月26日(土)から開催されています。事前に行われた内覧会リポートをお届けします。
みなさんの地域の美術館でお目当ての国宝がもし「貸し出し中」だとしたら、それはきっと今、大阪市立美術館(大阪市天王寺区)に開催中の特別展「日本国宝展」に来ています。この展覧会は、同美術館が約2年半の大規模改修工事を終え、今年3月1日にリニューアルオープンしたことや、同じく大阪市内で開催中の大阪・関西万博に来る人々にも足を運んで欲しいと企画されたものです。
内藤栄館長は「建物などを除くと日本の国宝の約14パーセントが今、ここに集まっている、これは凄いことです」とよくぞこれほどの数の国宝が集まってくれたことに感謝されると同時に「国宝というものは、1つ1つがその時代に“未来に残そう”と考えて作られたもの」万博のテーマになぞらえて、「ぜひ昔の人の“未来社会のデザイン”を感じてください」と仰っていました。

中央ホールは昭和11年開館当時の美しさを取りもどしました
さて、国宝を味わう前に、まずは大規模改修工事を終え、約90年前の開館当時の姿を活かした建物自体にご注目。正面には豊臣家の桐の家紋やこの土地を寄付した財閥住友家の井桁紋をベースにしたモチーフが美しく施されています。
また、今回の大規模改修工事で中央ホールの昭和50年代設置のシャンデリアを取り除き、同時期に張られた天井をはがしてみると、なんと昭和11年のオリジナルの天井が出てきたそうで、白い漆喰の天井をはじめ、開館当時の姿を活かした建物自体の美しさもじっくり味わってみてください。
「これ、知ってる!」教科書で見たあの国宝が目の前に

左上:岩佐又兵衛筆 洛中洛外図屏風(舟木本)、右上:伊藤若冲筆 動植綵絵のうち秋塘群雀図・群鶏図・芦雁図、
左下:長谷川久蔵筆 桜図、右下:本阿弥光悦 舟橋蒔絵硯箱
さあ、ではお待ちかね、「日本国宝展」へ参りましょう。
会場では日本美術の巨匠達による名作の数々が。「あっこれ教科書で見たことがある!」という作品が目に飛び込んで来ます。
大坂の陣で豊臣家が滅亡する前後の京の町を描いた岩佐又兵衛による【洛中洛外図屏風(舟木本)】(江戸時代 東京国立博物館蔵 5月18日まで)は2700人を超える都の人々が歌い踊る様子が描かれています。五条大橋に踊る豊臣秀吉の正妻ねね(おね・高台院)の姿があるという説もあるそうで、じっくり見つけてみたいですね。
見事な枝振りの【桜図】(桃山時代 京都 智積院蔵 5月11日まで)は長谷川久蔵筆。当時権勢を誇った狩野派を脅かすほどの勢いがあった長谷川等伯・久蔵親子の絢爛かつ繊細な画風が美しい。近寄ると桜の花びらが盛り上がっています。これは下地に貝殻の粉でつくった胡粉を何度も何度も重ねているため。彼らの国宝級の技法を間近で見ることが出来るのもこの展覧会の醍醐味だなと感じました。(父の長谷川等伯による【楓図】(桃山時代 京都 智積院蔵)は5月13日~6月1日まで公開される予定です)
この他、【動植綵絵のうち秋塘群雀図・群鶏図・芦雁図】 伊藤若冲筆(江戸時代 皇居三の丸尚蔵館収蔵 5月18日まで)や、膨らんだ蓋に和歌がデザインされた本阿弥光悦の【舟橋蒔絵硯箱】(江戸時代 東京国立博物館蔵 5月18日まで)も、色んな角度から見ることで発見もあるかも知れません。
平安時代の公卿である源等の和歌「東路の佐野の舟橋かけてのみ思ひわたるを知る人ぞなき」が蓋に散らし文字としてほどこされ、しかし歌枕である「佐野の舟橋」の部分だけは文字ではなく橋のデザインとして表現するというなんとも斬新な演出に当時の人々はどれほど驚いたことでしょう。

こちらもまた歴史教科書でおなじみの縄文土器と金印。
原始の生命力があふれ出る縄文時代中期の【深鉢形土器 火焔型土器】(縄文時代中期 新潟県十日町市笹山遺跡出土 十日町市博物館保管 通期)は思っていた以上に大きく、また装飾の複雑さや線の均一性などに驚きました。
そして一辺2.3センチ、お重さ108グラムの国宝の中で最も小さい【金印「漢委奴國王」】 (弥生時代 福岡市博物館蔵 5月7日まで)は、その小ささと輝きを、特に子供たちに実物を見て感じてほしいなと思いました。

書が好きな方にもたまらない展示に左 藤原行成筆 書簡(本能寺切)、右 西行・寂蓮等筆 一品経懐紙
書がお好きな方にもたまらない展示が。【書巻(本能寺切)】(京都 本能寺蔵 平安時代 5月18日まで)は三跡のひとり藤原行成の真筆と伝わるものです。
西行のしなやかなで気品あふれる筆線をたしかめることができる【一品経懐紙】(西行・寂蓮等筆 平安時代 京都国立博物館蔵 5月18日まで)も必見です。
この他にも国宝の名筆が展示替えをしながらこちらに集まってきます。お目当ての書をぜひその目で鑑賞してください。

左下:後鳥羽天皇宸翰御手印置文、右下:金銀鍍宝相華文経箱 叡山横川如法堂埋納
開催地大阪府の国宝も大変充実しています。
実は今年に入ってから大阪市立美術館初の国宝指定が決まった【物語下絵料紙金光明経巻第二】 (鎌倉時代 大阪市立美術館蔵 5月18日まで)は物語の下絵の上にお経が書かれていて、この絵は何のためのものだったのか、ミステリアスな謎の残る今、一番新しい国宝です。
菅原道真のおばが住んだ神社に伝わる道真の遺品【伝菅公遺品のうち高士弾琴鏡、牙笏、白磁円硯】(大阪・道明寺天満宮蔵 中国・唐時代、平安時代 通期)も大きな硯(すずり)や笏(しゃく)など道長公が実在したリアルさが伝わる逸品です。
NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で鎌倉幕府と対峙した後鳥羽天皇(上皇)の生々しい手形が押された置文、つまり遺言にあたる【後鳥羽天皇宸翰御手印置文】(鎌倉時代 大阪 水無瀬神宮蔵 5月18日まで)も必見です。承久の乱ののち配流された島根県の隠岐で19年間過ごした天皇(上皇)は、親戚の長年の奉公に対して水無瀬の土地を与える、崩御後の追善の料所(ある目的のために充てた領地)とせよなどとここにしたためた十数日後に崩御されています。どんな心境でこの遺言をしたため、手形を押したのかと思うとなかなかその場を立ち去れませんでした。
大河ドラマつながりでは、昨年の『光る君へ』で好演が心に残った藤原道長の長女、彰子ゆかりの品もありました。
【金銀鍍宝相華文経箱 叡山横川如法堂埋納】(滋賀 延暦寺蔵 平安時代 5月18日まで)です。平安時代に埋められ、大正12年に再び世に現れた時空を超えた祈りが伝わる品です。都の鬼門の方向に当たる比叡山延暦寺に経典をこの経箱に入れて埋め、中宮彰子の祈りが長い間、都を守り続けてくれたのかとありがたく、ありがたく拝みながらぐるりと一周鑑賞させてもらいました。
本当にどちらを向いても国宝、国宝・・・・・・。絵画、彫刻、書、工芸など、こんなに一度にあらゆる時代の国宝を見ることは後にも先にももうないでしょう。
それでもまだ展示替えなどで出逢えていない国宝もあり、これは何度も通わなければと思った次第です。

観覧が終わったら、1階の特設ショップにも立ち寄りましょう。金印や縄文土器のマスコット類、展覧会後半の登場が期待される燕子花図や伝源頼朝蔵などの似絵のクリアファイルなど、国宝好きな貴方にぜひ楽しんでほしいものばかりです。図録も、こんなに日本中の国宝が一冊にまとまったものは珍しいので一冊持っていてもよいのではないでしょうか。
美術館の東側に広がる日本庭園「慶沢園」も美しい

内藤館長が「慶沢園(けいたくえん)から眺める大阪市立美術館は本当に美しいんですよ」と仰っていたのを思い出し、帰りに美術館の東側に広がる日本庭園「慶沢園」を訪れました。
確かに慶沢園のどこからも見える大阪市立美術館は美しく、また近くにそびえ立つ超高層ビル「あべのハルカス」も不思議と溶け込んで見えました。池にはちょうど燕子花(カキツバタ)が咲き始めていて、【燕子花図屏風】が展示される「日本国宝展」に文字通り花を添えているなと感じました。
本当にまたとない贅沢な「日本国宝展」。展示替えが多いため、公式HPなどでしっかりとお目当ての国宝が展示されているかご確認の上、何度も足を運ばれることをおすすめします。
大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展「日本国宝展」
展覧会公式HP:https://www.osaka-art-museum.jp/sp_evt/kokuhou2025
会期:2025年4月26日(土)〜6月15日(日) ※会期中に一部作品の展示替えあり
会場:大阪市立美術館
住所:大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82 (天王寺公園内)
休館日:月曜日(4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館)
観覧料:一般 2,400円、高校・大学生 1,700円、小・中学生 500円
※土・日曜日および祝日は日時指定予約優先制あり(詳細については展覧会公式サイトをご参照ください)
【問い合わせ先】大阪市総合コールセンター なにわコール
TEL:06-4301-7285(年中無休 午前8時~午後9時)
慶沢園(けいたくえん) 公式HP: https://www.keitakuen-garden.jp/
Text /倉松知さと

関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。