今にも動き出しそうな運慶の名作と一堂に出会う感動

奈良・興福寺といえば、凛々しいお顔で6本の腕を持つ国宝「乾漆 阿修羅立像(八部衆)」がまず思い浮かぶかもしれません。飛鳥時代に造営された山階寺を起源とし、平城遷都(710年)に藤原不比等により現在の地に移され、「興福寺」とされました。境内には中金堂・三重塔・五重塔などいくつものお堂や塔があり、26件もの国宝があります。

その中から、北円堂に安置されている国宝「弥勒如来坐像」(運慶作 鎌倉時代・健暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置)他、計7軀の神仏像が東京国立博物館にお出ましになり、特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が開催されています。

本展には、日本の仏教美術の中の最高峰の仏師・運慶とその一門の作が並びます。運慶には息子たちや弟子たちが多くおり、分業制で多くの仏像を制作しました。運慶の特徴は、なんといってもその写実性。身体の形や筋肉のつき方などにリアリティがあり、今にも動き出しそうな仏像が多く残されていることは皆さんご存知でしょう。

興福寺を創建した藤原不比等の一周忌にあたる養老5年(721)に創建された北円堂は、日本に現存する八角円堂のうち、最も美しいと言われています。治承4年(1181)に起きた南都焼討で焼け落ちてしまった北円堂は1210年に再建されます。そして1212年に運慶とその一門が制作に関わった仏像が完成します。

中央:国宝 弥勒如来座像 、左:国宝 世観音菩薩立像、右: 国宝 無著菩薩立像、
すべて運慶作・鎌倉時代・建歴2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置。
同じく3体を後ろから拝見。

奈良時代からの歴史がある興福寺が焼け落ちてしまったことに運慶は大きな衝撃を受けたようで、完成した仏像は奈良時代の様式を踏襲しています。会場中央の八角円堂の中には、国宝「弥勒如来坐像」を中心にすえ、国宝「 無著(むじゃく)菩薩立像」(運慶作 鎌倉時代・建歴2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置)、国宝「 世親(せしん)菩薩立像」(運慶作 鎌倉時代・建歴2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵北円堂安置)がすぐ後方に。現在では興福寺中金堂に安置されている四天王像が四隅に展示されています。この四天王像は、創建当時には全て北円堂に安置されていた可能性が高く、時を超えて、制作当時北円堂にあった像のうち現存するすべての像を一堂に展示した特別な空間になっています。

展覧会場に入りまず目に入る「弥勒如来坐像」。引き締まった胴体に厚い胸板。お顔は柔らかく、衆生を救う温かくも威厳のあるお姿です。その両脇を固めるのが、無著菩薩立像・世親菩薩立像。インドに実在した僧侶の姿を模したそうで、兄弟だそうです。手に包みをもっている無著が兄で、慈悲深くも、哀しみを湛えたようなお顔をされています。世親は、壮年ぐらいの年でしょうか、力強く、玉眼(目の部分に入れている水晶)が光り、まさしく眼光鋭く命が宿っているようです。

世親菩薩立像(運慶作・鎌倉時代 ・建暦2年(1212)頃 
奈良・興福寺蔵 北円堂安置)部分
無著菩薩立像(運慶作・鎌倉時代 ・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵 北円堂安置)部分

運慶は、6人いた息子のうちの2人に、主にこの像の製作をさせたようで、「兄弟が兄弟の像を彫る」と言うユニーク結果となりました。

国宝 四天王立像(持国天)
(鎌倉時代・13世紀 中金堂安置・興福寺蔵)
国宝 四天王立像(広目天)
(鎌倉時代・13世紀 中金堂安置・興福寺蔵)
国宝 四天王立像(増長天)
(鎌倉時代・13世紀 中金堂安置・興福寺蔵)
国宝 四天王立像(多聞天)
(鎌倉時代・13世紀 中金堂安置・興福寺蔵)

会場の四隅に据えられている四天王立像は仏界を守る神です。それぞれ異なるポーズで、力強く、魔を払っています。私が一番気に入ったのは、国宝 「四天王立像(多聞天)」(鎌倉時代・13世紀 中金堂安置)。宝塔を高く掲げ、鋭い視線で天を見上げる姿がかっこいいです!

展覧会場には、わずか7軀の仏像の展示のみという贅沢さ。しかも全てが国宝ということを考えると、なんとありがたい展覧会でしょうか。たくさんの作品に囲まれる展覧会も華やかで楽しいですが、神仏とじっくり向き合う展覧会もまた素晴らしいことです。ここは、興福寺北円堂と同じ「祈りの空間」なのです。如来坐像の光背が取り払われていますので、360度ぐるりと廻って鑑賞してください。

ずか7軀の神仏像で構成される。

音声ガイドのナビテーターは、当展覧会の広報大使でもある、俳優・高橋一生さん。低音の“イケメン・ボイス”で運慶の作品を紹介してくださいます。こちらもぜひお楽しみください。

特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」

会期:2025年9月9日~11月30日

会場:東京国立博物館 本館特別5室

住所:東京都台東区上野公園13-9

電話番号:050-5541-8600

開館時間:09:30~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
毎週金・土曜日および10月12日(日)、11月2日(日)、11月23日(日)は午後8時まで開館

休館日:9月29日、10月6日、14日、20日、27日、11月4日、10日、17日、25日


Text /トラベルアクティビスト真里

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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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