東山区の京都国立博物館で特別展「宋元仏画─蒼海(うみ)を越えたほとけたち」が9月20日から始まりました。
中国の宋と元の時代に描かれ、日本に伝わり大切に守り伝えられてきた仏画を中心に170件が展示されます。

宋と元の時代は、日本では平安時代から南北朝時代にあたります。
894年に国の使節である遣唐使の派遣が中止された後も、実は多くの日本人僧侶たちが仏法をもとめて大陸に渡り、様々な文物を持ち帰っていたのです。

唐が滅びた後、宋が建国され、時期を分けて北宋、南宋とよばれる時代に移りますが、この頃は、官吏登用制度の「科挙」が本格的に運用され、身分にとらわれず優秀な人材が活躍する知的な社会で、高度な文化水準を達成していた国でした。
また13世紀、ユーラシア広域を版図とする巨大帝国を築いたモンゴル人によって中国に元が建国され、国際色豊かな文化が生まれました。
そんな時代の大陸の空気感を写し取った宋元時代の仏画からは当時の高度な文化、華やかさが伝わってきます。

海を越え大変な苦労を重ねながら持ち帰った宋元仏画の数々。今回展示される170件のうち国宝は13件、重要文化財は75件、重要美術品8件というラインナップはこの展覧会の質の高さを物語っています(指定作品件数には、日本で制作された作品も含みます)。
こうした貴重な当時の仏画ですが、中国本土にはほとんど残っておらず、日本、京都に相当数が残っています。それは何故でしょうか?
京都国立博物館の館長 松本伸之さんの言葉です。
「注意していただきたいのが日本でただ残ってきたと一言でいうのではなく、この何百年も前の傷みやすい絹や紙に描いたものがいかにして残ってきたか。実はこの過程こそがひとつの日本文化の特色であるといえると思います。つまり大事な物を大事に取り扱い、大切に守り伝える“伝世の文化”(世に伝えていく)ですね。そして仏画は日本人の僧によって持ち帰られ、京都のお寺にはそれらがよく残っているということです。(中略)
ご承知のように中国の宋元仏画、なかなか向こうでは残っていません。中国大陸本土に至っては幾度となくあった王朝の交代、戦乱、あるいは気候条件などの要素によって脆弱な美術品はなかなか残りにくい。地中からは兵馬俑などの発掘はありますが、特に地上に伝わるものはなかなか残らない中、宋元仏画はおそらく日本が最も多くの質と量を伝えています。
ですので、今回「宋元仏画展」ではありますが、実は日本文化の特色も表しながら大切にしてきたいわゆる「唐物(からもの)」を崇拝する、そういった日本文化の特色もご覧いただくこともあるかと思います。」
日本僧たちが命懸けで持ち帰った貴重な文物を大切に守り次世代に伝えようとした心があったお陰で、こうした歴史的文化財を大切に守り伝えることが出来たのだなぁと改めて気づかされました。
今回、宋元仏画を鑑賞しながら、館長さんが仰るように日本人の特色、心にも思いを馳せてみるのも良いかもしれません。

観覧後は、充実したグッズでも作品世界を楽しめます。
亀屋良長さんは栗やくるみ、いちじくなどをふんだんに散りばめた秋らしい羊羹を展覧会特別パッケージに包んだ「山の幸」を限定販売されています。

また、一澤帆布とコラボしたトートバッグも愛らしいキャラクターが目を引きました。
ネックピローも細かなビーズが柔らかくて触り心地も良かったです。
大きく展示品が入れ替わる後期展示は10月21日(火)からとなっています。
ようやく秋の空気を感じられるようになった京都。落ち着いた雰囲気の中で宋元仏画をじっくり楽しんでください。
特別展「宋元仏画―蒼海うみを越えたほとけたち」https://sougenbutsuga.com/
会場:京都国立博物館 平成知新館(京都市東山区茶屋町527)
会期:2025年9月20日(土)~11月16日(日)
前期 9月20日(土)~10月19日(日)
後期 10月21日(火)~11月16日(日)※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います
開館時間:午前9時~午後5時30分 ※金曜日は午後8時まで※入館は各閉館の30分前まで
休館日:月曜日. ※ただし10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)は開館し、10月14日(火)、11月4日(火)休館
観覧料:一般2,000円(1,800円)/大学生1,200円(1,000円)/高校生700円(500円)※()は20名以上の団体料金
Text /倉松知さと

関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。