12月に入り京菓子の世界も師走ならではのデザインが楽しい季節です。今月出逢った京菓子の数々をご覧下さい。

毎月、京町家のお座敷で季節ごとの京菓子を楽しめる西陣の塩芳軒さん。
今回は師走の「事始め」という年末年始を迎える準備をする行事にちなんだお菓子「袴腰」とクリスマスのお干菓子でした。12月13日の「事始め」になると、宮中行事「煤掃き」では女官たちが袴をはいて大掃除をしたとか。その袴の腰部の台形の板型を模したお菓子をいただくと「今年も無事、1年を過ごせたなぁ」とホッとします。
飴細工などのクリスマスのお干菓子も美味しく、楽しい時間でした。

同じく西陣の千本玉壽軒さんは、茶寮SENTAMAにて目の前で和菓子を作る様子を拝見できることで知られています。この「クリスマスセット」は「聖夜」というきんとんのツリー(粒餡)にヒイラギやベルがすはま製、雪輪は生砂糖製とバラエティーに富んだメニュー。ツリーにふんわり雪が積もり、金銀の星も輝き、繊細な生菓子が出来る様子を目の前で見ながら「和菓子でクリスマス」という趣のある時間を過ごしました。

寒い季節に無性に食べたくなるのが、今宮神社の門前菓子「あぶり餅」。
映画『国宝』でも襲名披露のシーンで使われたこの二つのお店が向かい合う美しい参道はどちらのお店に行こうか迷うところですが、今回は千年を超える老舗中の老舗「一文字屋和輔」へ。皆さん親しみを込めて「一和さん」と呼ばれます。

名物あぶり餅は、きな粉をまぶした小さなお餅を竹串に指し、備長炭で香ばしくあぶり、甘い白味噌のタレをからめたもの。一見、多そうですが、ペロリと食べられるから不思議です。

すぐ近くに豊臣秀吉ゆかりのその名も「満足稲荷神社」がある、東山三条で大正9年創業の山梨製餡さん。餡の専門ということはお豆の専門家ということで、こちらではおせち料理に欠かせない黒豆も販売されています。この時期、黒豆目当てに一般の方も買いに来られるそうです。

私は去年、買いそびれてしまったので今年は早めにうかがって無事に手に入れることが出来ました。
ご親戚も堀川三条で製餡業「都製餡」さんを営んでおられ、そちらの「一口羊羹」も山梨製餡さんで販売されていました。京風浅煉りタイプの羊羹。素材の風味が活かされています。このサイズは受験生に喜ばれるんですよね!
都製餡さんは堀川三条に「都松庵」のカフェも併設されていて新しい感覚の和菓子も提案されています。スタイリッシュなパッケージも印象的でお土産にもオススメですよ。

最後は、今、京都で話題の和菓子を。
上賀茂神社からの依頼で古文書を元に再現した「なんばん餅」は四条堀川近くの亀屋良長さん製。
何でもこのお菓子は織田信長が武田軍に勝ったお祝いにと上賀茂神社が贈ったものだそうで、しかも、それは本能寺の変の3ヶ月前というから歴史ファンはゾクゾクしますね!
この古文書は上賀茂神社の月次報告書に当たるもので信長に献上した品の中に「なんばん餅 数百」と書かれていました。新しい物好きの信長の心をとらえる南蛮由来のお菓子だったことでしょうね。
ですが信長が本能寺で討たれると、神社は明智光秀に、その後は豊臣秀吉にちゃっかり献上するなど、当時の都人たちがめまぐるしく変わる天下人に振り回された、いや、逆に天下人を手の上にのせていた様子が垣間見えて実に面白いです。

小麦粉と黒砂糖、葛粉とシンプルな材料のなんばん餅。もっちりしっとりとした食感で黒糖の味わいが後からじんわりと広がり素朴で優しいお菓子でした。お茶は勿論ですが、コーヒーとも相性が良いと思いました。
信長も食べたであろうなんばん餅は上賀茂神社、亀屋良長本店、オンラインショップで入手出来ます。
カステラなどにありがちな、耳の方や形が少しくずれたものもお徳用として販売。これがまたちょっぴり量も多くて「残り福」感たっぷりですよ!
師走に出逢った和菓子の数々、いかがでしたか?
京都は今、確かに空いています!!今がチャンスかも知れません。ホテルの宿泊料も下がっているようです。
年の瀬、そして迎春を京都の和菓子でぜひ楽しんでください。
千本玉壽軒 https://sentama.co.jp/
茶寮SENTAMA https://sentama.co.jp/cafe.html
あぶり餅 一文字屋和輔(一和) https://www.kyoto-kankou.or.jp/info_search/680
山梨製餡 https://yamanashiseian.co.jp/
亀屋良長 https://kameya-yoshinaga.com/
上賀茂神社 https://www.kamigamojinja.jp/
Text /倉松知さと

関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。