京LIFE:日本の食文化と“わざ”を次世代へ~京菓子の素晴らしき世界

 日本の食文化を支える“わざ”を継承するイベントが京都で開かれました。京菓子を中心にお伝えします。

 日本には地域に根ざした食文化が長い年月を経て育まれ、継承されています。2月1日に右京区の学校法人大和学園で開かれた「日本の食文化とわざの継承  EXPO 」では、「和食」「伝統的酒造り」「菓銘をもつ生菓子(煉切・こなし)」「京料理」「手揉み製茶」の5つの食文化財を支える“わざ”を深く理解できる体験やトークショーなど様々なコンテンツが展開されました。

宇治独自の製法・板ずりした宇治茶の味に舌鼓を打つ、左から松井京都市長、西脇京都府知事、都倉文化庁長官

菓銘をもつ生菓子の数々(鍵善良房製)

 中でも私が興味を持って追い続けている京都の和菓子ですが、実は2022年に文化庁の審議を経て「菓銘をもつ生菓子」として「登録無形文化財」に登録されています。

 「菓銘(かめい)」とは何かといいますと、例えば洋菓子ならば、「バウムクーヘン」や「クッキー」などそれぞれのお菓子に名前はありますが、茶道などでいただく生菓子はどうでしょう?例えば、淡い緑とピンク色の細かいそぼろを餡玉に集めたきんとんに「都の春」というような名前が付いているのをご覧になったことはありませんか?それが「菓銘」です。

和菓子は茶の湯文化と結びつきながら発展しており、季節の自然や故事、和歌、文学、あるいはその日その場の趣向を題材に意匠化された生菓子に、作り手が意味や情景を込めた固有の名前、すなわち「菓銘」を付けて表現する日本独自の文化があります。

 このことは、実は世界的にも大変珍しいことなのですが、日本の中にいると案外慣れっこになってしまって気付かないのかも知れません。

 よく京菓子の職人さんは「余白を大切にし、お客様の想像力をかき立てるということを大切にしている」と仰いますが、姿形だけでなくネーミングにも無限の想像力の広がりの余地を持たせる、そんな職人さんの心遣い、“わざ”が京菓子のいろんな楽しみ方を膨らませてくれるのも魅力のひとつだと思います。

 5つの食文化財のトップ職人が集う「長(おさ)トーク」

 日本が誇る5つの食文化財の最前線を担う「長(おさ)」たちによる“わざ”の継承をテーマにしたトークセッションには京菓子界からは御菓子司 塩芳軒のご主人で京菓子協同組合専務理事の髙家啓太さんが登壇されました。

「自分たちの習ってきた時代はアカンとかダメと言ってもらえたから分かりやすかったのかも」と今の時代ならではの継承の難しさについて、またお客さんから無理難題を頼まれないかという問いに「断ることは一番簡単ですが、やはりなんらかのお応えをしようと努力し対話を重ねていくことは、結果的に“わざ”を磨くきっかけになる」ととても貴重なお話をうかがえました。

また人間の“わざ”だけでなく、お店自体にはその土地で育まれた歴史や風土などの個性がある、その空気感をお店に足を運んでいただくことで感じてもらう、それを「伝える」こともひとつの仕事、“わざ”ではないかなと思っていますという言葉も印象的でした。

確かに塩芳軒では毎月季節の京菓子をお店でいただける催しも積極的にされています。西陣の風土や歴史を感じ、店の成り立ちや地域からどう愛されてきたかなど足を運んで初めて味わえる楽しさもあるなと毎回訪れる度に私も感じています。それは高家さんがこうして「伝えて」来られたからなのですね。

菓銘と餡づくりの道具について話す鍵善良房 今西さんと金網つじ 辻さん

 菓銘をもつ生菓子(煉切・こなし)の魅力と菓子づくりを支える道具については祇園の鍵善良房のご主人 今西善也さんと金網つじのご主人で職人の辻徹さんが登壇され、海外で菓銘がついた菓子が大変珍しがられた体験を皮切りに話は京菓子づくりの神髄へ。

「よく京菓子はデザインをなるべく省略するといいますが、以前、対談で短歌の岡野大嗣さんが「(短歌は言葉を)省略するのではなく、イメージを圧縮する・・・」と仰っていて・・・あ、いい言葉やなと思って。」と今西さん。

言葉を圧縮して意味と情景を解凍する短歌の岡野ワールドになぞらえて、「僕ら菓子を作る方も圧縮の技術を高めながら、食べる人たちも皆さん解凍アプリはそれぞれ異なるので、その感度を高めていくと色んな世界が広がってお互い凄く良いなぁと思いました。」と、とても分かりやすい例えで京菓子をより楽しくいただくための心得、ヒントを教わった気がしました。
 鍵善さんの和菓子づくりに欠かせない、きんとん、そぼろあんを作る専用の道具「籐どうし」を作る金網つじの職人・辻さんは「何が嬉しいかって、張り替え修理をお願いしますと言いに来てくれることなんですよ!」と物づくりに人が介在し、京都の良いコミニティが形成されることの喜びについて、また自分はあくまで職人であってアーティストではないと職人としての矜持を語られたことも心に残りました。

千本玉壽軒の元島真弥さん淳一郎さん親子によるワークショップ
亀屋良長による季節のお干菓子づくりの体験
京都くりや、船屋秋月、芳治軒、笹屋春信によるワークショップ
京菓子協同組合青年部による実演パフォーマンス、販売もありました

このほか、京都の名だたる和菓子屋の職人さんたちが直に教えてくれるワークショップが開かれ、大人から子供まで、素人からプロの卵まで幅広い人たちが一日中、京都の食文化の神髄に触れて楽しむなんとも贅沢なEXPOでした。

文化庁も京都に移転してまもなく丸3年。京都の文化イベントをもっともっと増やして文化の継承、発展をさらに応援してほしいものです。

Text /倉松知さと 

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関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。
歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、京都新聞などでも執筆中。
主に京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。国際京都学協会会員。最新活動は京菓子・山水會25周年記念展覧会トークイベント司会。

               

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