開館55周年 山種美術館で出会う美人画と花鳥画の世界

日本初の日本画専門美術館として開館55周年を迎えた山種美術館。特別展【上村松園・松篁―美人画と花鳥画の世界―】が2月5日に開幕しました。

上村松園は明治〜昭和初期に活躍した日本画家。特に美人画の名手として知られています。江戸や明治時代の風俗、和漢の古典をテーマにした美人画を数多く描きました。山種美術館初代館長・山崎種二氏とは親しく交流があり、種二氏がコレクションした松園の作品18点は松園コレクションとして知られています。松園の長男・上村松篁は花鳥画を得意とし、大正・昭和・平成の時代を京都の地で活躍しました。母子二代で文化勲章を受章しています。今回の展覧会は、山種美術館が所蔵する松園の美人画18点、松篁の花鳥画9点が、初めて一同に会するという、大変豪華な、開館55周年を記念するにふさわしい内容となっています。

上村松園 《牡丹雪》 1944(昭和19)年 絹本・彩色 山種美術館

私が一番気に入った松園の美人画は《牡丹雪》。画面左下に二人に女性が傘を差し、その傘は真っ白な雪が覆っています。降りしきる雪、そしてその雪は“牡丹雪”なので重みがあり、女性二人の傘の柄をもつ手に力が入っているのがわかります。「まさかこんなに降るとは思わなかった。早く家に帰らなきゃ」と思っているようです。画面のほぼ三分の二は灰色の余白。よく見ると、降りしきる牡丹雪が描かれています。この余白のように見える雪の画面の存在が、緊張感を高めているように感じます。そして、美しい着物の色や髪飾り、優美なカーブを描く眉や唇の紅は白い雪に埋もれつつある景色の中で、はっと目を惹く輝きです。

松園は「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ私の念願とするところ」と自身の作品について語っています。どの作品も美しく清らかな女性ばかりが描かれていますが、それは姿だけでなく所作や心までも美しい女性だと感じられ、一枚一枚の絵の前に立つたびに観るものの心までが浄化されていくようです。

上村松篁 《日本の花・日本の鳥》 1970(昭和45)年 紙本・彩色 山種美術館 © Atsushi Uemura 2021 /JAA2100291

幼少期から金魚や小鳥を愛で物心つく頃には花鳥画家を志していたという松篁。展示作品の中で圧倒的な存在感を示しているのが《日本の花・日本の鳥》。梅や桜・牡丹・桔梗、そして鶯・コマドリ・キジ・オシドリなど日本の四季を代表する花々と鳥が描かれた扇面が屏風に貼られています。雉子鳩は緋色の桃の花の中に、鶉はススキと、日本の黒鳥である雉子は黄色の紅葉と共に描かれ、それぞれの季節感を感じます。興味深いのは、日本の“三鳴鳥”といわれる鶯・コマドリ・ルリ鳥は、都会の郊外ではこの鳥たちがやってくる季節は別々ですが、高い山の裾野などでは同じ季節に声を聞くことができるそう。そのような理由でこの三種類の鳥をあえて一つの扇面に描いているとのこと。屏風全体だけでなく、一つ一つの扇絵も丁寧に鑑賞したいですね。

美術館内の「Cafe 椿」では、渋谷区青山の老舗菓匠「菊家」に特別にオーダーした松園の美人画にちなんだ和菓子が食べられます。「雪の日」と名付けられた柚子あんの和菓子は、私が一番気に入った美人画《牡丹雪》にちなんだもの。薄紫と白の傘に雪が載っている様子が表現されています。他にも《春芳》に描かれている女性がまとった打ち掛けの色を練り切りで表現している「誰が袖」、《春のよそをひ》にちなんだ桜色の淡雪羹の「花のいろ」などもあります。全種類食べてみたい!

美人画と花鳥画の美しく優雅な世界を堪能できる展覧会です。

山種美術館 https://www.yamatane-museum.jp/

「上村松園・松篁 ―美人画と花鳥画の世界―」2022年4/17(日)まで

休館日:毎週月曜日(祝日は開館、翌日火曜日は休館)

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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