岩崎家のお雛さまや国宝を目の前で「お雛さまー岩﨑小彌太邸へようこそ」

静嘉堂文庫美術館には、三菱財閥第2代社長・岩﨑弥之助、第4代社長・岩﨑小彌太の親子が収集した美術品が収蔵されています。2022年10月に世田谷区から丸の内・明治生命館に移転し、新しいスタートを切りました。国宝7件、重要文化財84件をはじめ、と素晴らしい質と量を誇る美術館です。新美術館開館記念展の第3弾は、季節に合わせて“岩﨑家のお雛様さま”を紹介する展覧会、「お雛さまー岩﨑小彌太邸へようこそ」です。
top画像:五世大木平藏《岩﨑家雛人形》昭和前期

岩﨑小彌太が孝子夫人のために京都の人形司に特注したもの。昭和初期に作られたこの雛人形は、男雛と女雛の内裏雛、三人官女、五人囃子、右大臣・左大臣、仕丁(笑い上戸・怒り上戸・泣き上戸)の三体と、合計15人。加えて、お道具類もたくさんあります。これら一式を飾るには相当な広さのスペースが必要ですね。さすが岩﨑家、昭和4年(1929)に竣工した小彌太の麻布鳥居坂本邸(現・港区六本木、国際文化会館)の大広間で披露されたそうです。当時の白黒写真が展示室内でみられますので、実物のお雛様とぜひ見比べてみてください。今回の展示では、この写真の背筋に立つ川端玉章筆「墨梅図屏風」も合わせて展示されていますので、昭和初期の岩﨑家の雰囲気に浸れるのではないでしょうか。

五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち「内裏雛」

内裏雛の二体を見てみましょう。お顔は童子の顔をもとにしたもので、ぷっくりとした丸顔で可愛らしい。にっこりと笑った目元、少し開いた唇は、見ているとついこちらも微笑んでしまいます。歯には象牙が使われているそう。足腰に関節がついていて折り曲げられる「三つ折れ」と呼ばれる人形なので、飾った時の姿勢にもリアリティがでます。お人形で着せられている衣装は、皇太子御成婚の設定で大変豪華な装束が着せられています。

五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち「五人囃子」(上段) 

私は「五人囃子」がすっかり気に入ってしまいました。それぞれ楽器を持ち、今にも鼓を打とう笛を吹き出そうとしています。楽器を奏でる直前の一瞬の緊張感が人形に込められています。装束には岩﨑家の替紋(花菱紋)が描かれています。

五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち「仕丁」 (上段)とお道具類(下段)

御道具の再現度合いもすばらしいです。お食事の器類を載せる「掛盤(かけばん)」、「小袖箪笥・衣装箪笥」、「長持」、「座布団」など、全てが精巧で美しい。そしてこれらのお道具類にも全て替紋が描かれていたり刺繍されています。

五世大木平藏《岩﨑家雛人形》のうち書物箱・天台・硯箱

長さ僅か14センチ弱の文台の上に置かれて小さな硯箱にさえ替紋が描かれており、その中にさらに小さな硯や墨が収められています。「美は細部に宿る」と言いますが、小さなものまで本格的に作り込んでいる美意識の高さに圧倒されます。

「吉野山蒔絵十種香道具箱」(江戸時代・18世紀)

その他にも、岩崎家で愛でられた品々がたくさん展示されています。「吉野山蒔絵十種香道具箱」(江戸時代・18世紀)は金色に輝く蒔絵で飾られたお香の道具一式です。いくつものお道具が使われる香道ですが、ひとつひとつが豪華で美しいです。

国宝「曜変天目(稲葉天目)」南宋時代(12~13世紀)

静嘉堂文庫美術館を代表する国宝「曜変天目」(南宋時代・12-13世紀)も展示されています。焼き上げる途中で釉薬が変化してしまい、青や濃紺の地に玉虫色の不思議な紋様が現れています。中国・南宋時代に作られたとされる茶碗ですが、大阪・藤田美術館、京都・大徳寺龍光院、そしてここ静嘉堂文庫美術館が所蔵する三点しか世界に現存していません。銀河を覗き込むような感覚に陥る奇跡のようなこの器も併せてご覧ください。

小彌太は、短歌を斎藤茂吉、俳諧を高浜虚子に習っていました。茶の湯・日本画も嗜んでいたとか。日本が近代国家として成長していく中のビジネス界のリーダーでありつつも、芸術文化に深い造詣を持っていた岩崎家の世界をご堪能ください。

静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅲ

お雛さま ―岩﨑小彌太邸へようこそ

会場:静嘉堂@丸の内(東京都千代田区丸の内2-1-1明治生命館1階)

期間:2023年2月18日(土)~3月26日(日)月曜休館

https://www.seikado.or.jp/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。


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