雪解け知らせる《農鳥》に由来、山梨の富士山麓おすすめのオーベルジュ

河口湖からほど近い山梨県忍野村に、素敵なオーベルジュがオープンしたのは2024年8月のこと。紅葉が始まろうとしていた10月末、そして紅葉真っ盛りの11月半ばと2ヶ月連続で訪問することができ、クオリティの高さに私は大満足。ぜひW LIFEの読者の皆さんにはお伝えしなければと思い、2025年最初の記事としてご紹介します。

店名「nôtori」の由来の《農鳥(のうとり)》とは、富士山の雪解けの頃に7-8合目の山肌に現れる鳥の形に見える残雪のこと。農鳥の出現を春の耕作のタイミングの目安にしているのが、古くからこの富士山北麓地域の習わしだそう。

オーナーシェフは堀内浩平さん(左)。都内やフランスで研鑽を積み、国内の若手シェフの登竜門であるコンペティション「RED U-35」で2021年にグランプリを受賞された方です。
オーナーソムリエは、実兄の堀内茂一郎さん(右)。大学を卒業後したあとは、商社にお勤めになったそう。ワインの世界に魅入られて、商社を退職、都内でのレストランでソムリエとして勤務した後、ニュージーランドへ。

9才歳の離れたご兄弟がそれぞれの分野で十分学び、経験を積み、満を持してタグを組み、じっくりと準備をして開業。お店に到着すると、お二人が温かい笑顔で迎えてくださいました。ご兄弟、本当に仲が良く、そしてお人柄がとてもいい。

お席はL字カウンター8席。外の広葉樹の森が見える大きな窓を背景に大きな調理台が置かれ、料理の仕上げをゲストがよく見えるようになっています。お料理の食材は。お塩やオリーブオイルなど調味料も含めてほぼ全て山梨県産。この敷地に多く生えている鬼胡桃から始まり、馬刺し、温泉で育てられている陸作信玄海老という手長海老。アマゴは山梨産のアーモンドペーストと一緒に。姫鱒は伺ったタイミングが旬の舞茸と合わせて。ご馳走を表す言葉に、「海の幸、山の幸」ということばがありますが、「山梨って“海なし県”なのに、こんなに食材が豊かなのね!」と驚きました。

「芽吹き」と名付けられたお料理が印象的でした。シカのシンタマ(モモ肉の一部位)とイノシシのロース肉を薪火と炭火と併用してグリルし、クロモジの香りを移したソースと黒ニンニクのピュレに、竹炭パウダーを振り掛け、“大地”に見立てます。その上に野草や庭で採れたハーブや野菜の芽などを載せ、大地から新しい命が生まれる様子を表現しています。コロナ禍で飲食業界も大きな痛手を被っていた2021年に浩平シェフはRED-35の選考にエントリーされた際にその選考過程で作られたお料理がベースになっているそう。明るい未来を信じる気持ちを込めた素晴らしい一皿です。

〆には「やさいめし」。自家製の調味料と椎茸出汁を含ませた野菜をベースに、様々な調理法で仕上げた野菜や椎茸を約30種類混ぜ込んだもの。端材で作ったスープを添えています。このひと品は堀内家の食卓でよく登場したメニューから発想を得たそう。季節によって変わる具材、その時に家にある具材を混ぜ込んでお母様が作る「やさいめし」をパクパクと食べる堀内兄弟の様子が目に浮かぶようです。ご自身たちのオリジンも伝えたいという品になっています。

お兄さんの“MOJOさん”こと茂一郎さんのペアリングとサービスは完璧。このレストランの構想を練り始めた2020年に漬けた梅酒から始まるアルコールペアリングは、フランスのビオのロゼワインもあり、日本酒もあり。秋田県男鹿市「稲とアガベ」で造られている人気のクラフトサケもありました。もちろん山梨のワインも。長い歴史を持ち、山梨のワイナリーの中でもひときわ高い評価を確立しているワイナリーの一つ、中央葡萄酒(GRACE WINE)のキュヴェ三澤の赤ワイン。そして2022年にファーストリリースをしたばかりという新しいワイナリーDomaine Paserelle(ドメーヌパスレル)の白ワイン。どれも印象的だけど、お料理に寄り添うものばかり。

富士北麓の風土、歴史、ご兄弟の記憶を表現するために「fuji-hokuroku cuisine」という言葉を掲げていらっしゃいます。日本中、世界中からたくさんの人が食べに来るお店になっていきたいことご兄弟の理想を表現したフレーズです。

この素敵なレストランには、1〜3名の宿泊が可能なお部屋が1部屋だけあります。こぢんまりとはしていますが、大きな窓からは森の景色が眺められます。ちょうど部屋の正面に焚き火を炊いてくださっていて、炎の揺らぎを見ながらホッとひと息。使い勝手のいいバスルーム。充実のアメニティ。厳選した寝具。カーテンやブランケット・ランプシェードに至るまで、山梨県内の工房や作家さんに依頼して準備されたもの。テラスには椅子とテーブルがあり、秋の涼しい空気を堪能しながら、チェックイン後の時間を過ごすのは最高のひとときでした。

宿泊者には、追加料金で朝食を用意してくれます。岡持ち風のオシャレな容器に自家製パンやサラダ・フルーツに加え、キッシュやソーセージ、コーヒーなど朝食のセットをお部屋のドアの外に持ってきてくださいます。身支度をしてレストランエリアにいく必要もないですし、自分のペースでゆっくりと過ごせますね。前日しっかりコースディナーをいただいたのに、目が覚めたらお腹が空いていて、朝食も美味しくいただきました。

近隣には「北口本宮冨士浅間神社」や、富士山の伏流水を源とする八つの湧き水が点在する「忍野八海」など世界遺産に登録されている構成遺産もあり、観光して帰るのもおすすめです。私は、天然きのこの販売店を堀内シェフに教えてもらって、買って帰りましたよ!

次回の訪問は春の山菜の時期に伺って、山梨の“山の幸”を存分に楽しみたいと思っています。1日1組のみの宿泊のお部屋に滞在するには、早めの予約が必須ですね!

nôtori

所在地:〒401-0511 山梨県南都留郡忍野村忍草3192-8
https://notori-fuji.com


Text /トラベルアクティビスト真里

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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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