東京・丸の内、静嘉堂文庫美術館で、美人画と並ぶ浮世絵の二大ジャンル「役者絵」に注目した展覧会、「豊原国周生誕190年 歌舞伎を描く―秘蔵の浮世絵初公開!」が始まりました。静嘉堂文庫美術館のコレクションは、三菱第二代社長・岩﨑彌之助がその基礎を築き、仏画や絵巻、水墨画など東洋美術を中心に膨大な収蔵品数を誇り、国宝7点を含みます。浮世絵の収蔵品も相当数所蔵しています。その中から、初期浮世絵から明治まで役者絵の歴史をたどる展示となっているのが今回の展覧会です。
Galley 1で展示されている作品では、初期の浮世絵から幕末までの浮世絵の流れや歴史を辿ることができます。展示室に入り一つ目の作品は、江戸時代前期に描かれた「歌舞伎図屏風」(紙本金地着色 二曲一隻 17世紀)で、歌舞伎の様式が完成する前の「ややこ踊り」を描いたもの。舞台の上で三人の幼女が踊り、その後ろには笛や太鼓を演奏する人。その様子をたくさんの人が飲食を楽しんだりタバコを吸いながら鑑賞しています。
歌舞伎の様式が成立した後の芝居小屋の様子を描いた作品としては、「芝居狂言浮絵根元」(奥村政信 宝暦6年 1756年)に注目です。西洋絵画の遠近透視画法を用いて、手前の花道から奥の舞台、観客席、二階の桟敷席まで奥行きを持った表現で表されています。舞台に立つ五人の役者は力強く、楽しそうに観覧する客席のお客は生き生きと、急須を持って席を廻る歌舞伎茶屋の姿まで細部に渡り描いています。じっくり見ていると、自分も一緒に歌舞伎を鑑賞しにきているような気持ちになり、江戸時代の人々に親近感が湧いてきます。
二代鳥居清倍「二世市川団十郎の佐野源左衛門、松本幸四郎の青砥左衛門、山下金作の佐野女房難波津」(享保8年 1723年)や歌川国政「尾上栄三郎の曾我五郎」(享保3年 1803年)などの浮世絵の色合いも柔らかく、人物の描き方も素朴です。Galley 2以降の浮世絵と比較して鑑賞すると、浮世絵の“進化”がよくわかります。
Galley 2以降は、三菱第二代社長・岩﨑彌之助の妻・早苗が愛した役者絵3000枚以上のコレクションから選りすぐりのものを展示しています。早苗夫人は、若い頃にはフランス語を学び洋学を修め、和歌や観劇など幅広い趣味と教養を持った女性だったそう。彼女のお眼鏡にかなった、国貞(三代豊国)、初代豊国、国芳、国周などによる役者絵が多数展示されています。
その中でも特に注目なのは、“明治の写楽”と称えられた豊原国周。本年は国周の生誕190年となることを記念して、国周の浮世絵が多く展示されています。国周は、生涯に83回も引っ越しをし、妻を40回以上変えたという奇人。特に、五世尾上菊五郎を描いた「梅幸百種」という一連の浮世絵は注目です。
「梅幸」とは五世菊五郎の俳名。五世菊五郎の当たり役の舞台姿とコマ絵に俳句などを描いた大判100枚の豪華な揃物です。芝居好きだったという早苗夫人、大磯に別荘を提供するほどに五世菊五郎と親交も深かったそうで、この「梅幸百種」を作らせたのは大好きな役者さんへの“推し活”だったのかもしれませんね。ほとんど公開されていなかったようで、今摺ったばかりかと思うほどの色鮮やかな浮世絵です。
「役者絵」は、役者のブロマイドと言われていますが、こんな面白い“仕掛け絵”の浮世絵がありました。「塩冶判官と大星由良之助」(豊原周義 明治11年 1878年)は “着せ替え”ならぬ“顔替え”ができます。歌舞伎の名場面の2人の役者。顔のところにそれぞれ紙が貼ってあって、それをめくると、別の役者の顔が。片方の役者はそのまま、もう一方の役者は紙をめくると、配役の組み合わせが変わります。配役の組み合わせを妄想して、夢の共演を想像するのは、今も昔も変わりませんね!
歌舞伎絵の世界を深く理解できる展覧会に、ぜひ足をお運びください。
豊原国周生誕190年 歌舞伎を描くー秘蔵の浮世絵初公開!
会期:2025年1月25日~3月23日([前期] 1月25日~2月24日、[後期] 2月26日~3月23日)
会場:静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
住所:東京都千代田区丸の内2-1−1 明治生命館1F
電話番号:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:10:00~17:00(土曜は〜18:00、2月19日・3月19日・3月21日は〜20:00) ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日、2月2日、2月25日
料金:一般 1500円 / 大高生 1000円 / 中学生以下 無料
Text /トラベルアクティビスト真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。