10月4日から広島県で「ひろしま国際建築祭2025」が開幕しました。広島県尾道市・福山市内の7つの会場で、巨匠と言われる建築家から新進気鋭の若手建築家まで、様々なスタイルの建築やインスタレーション、そして日本の建築界の歴史や系譜を俯瞰し、また体験型のインスタレーションを楽しむことができる展覧会となっています。
まず最初に向かった会場は、福山市の『神勝寺 禅と庭のミュージアム』。他の6会場は、すべて尾道駅もしくは福山駅から徒歩圏内なのですが、この神勝寺だけは両駅から車で来てもそれぞれ約20-30分かかります。レンタカーかタクシーを利用するか、もしくはバス利用で最寄りのバス停を降りてから徒歩15分とアクセスのハードルが高いですが、ぜひ訪れていただきたい会場です。
総門をくぐり、池に沿って歩いていくと、ちょうど池が終わったところにある茶屋の前に、若手建築家・川島範久氏による《苗木ナーサリー/コンポストベンチ》があります。長細い材木を3本セットで隙間が空くように組み合わせて行き、2メートルほどの塔のようなものができています。この神勝寺の広大な美しい庭は、毎日庭師の方などによって落ち葉が拾われ、雑草は抜かれ、枝は剪定され、大量の草や葉っぱは最終的には燃やされます。この塔のようなものは、庭から出る大量の葉っぱを上から落とし入れ、時間と共に充分に腐植したものをまた庭に持って行って堆肥として循環させる仕組みのものなのです。木材と木材の間にあるスペースには境内に芽を出した小さな苗木を植え、少し大きくなったら庭に戻すということで、境内の木を育て、新たな自然の循環を生み出します。最下段はベンチになっていますので、人々が座ってゆっくりして、境内の自然を楽しむ時間を過ごすことができますね。

川島氏がこの“コンポスト”の前でコンセプトを語ってくださいました。「庭から出てきた落ち葉や雑草を集めてみると、庭を構成していたものが何だったか、そして“この枝は何かに使えるのではないか”とアイデアが出てきます。庭の環境を巡らせていく、循環の要としての建築のあり方をNew Architectureとして提示しています」。川島氏は、サステナブルな循環を建築にどう組み込めるか真剣に取り組んでいるとの評価が高い方です。今後の作品も注目ですね。


そのまま境内を進み、160段の石段を上り切ったところに本堂、無明院があります。その真下には、『NEXT ARCHITECTURE 「建築」でつなぐ新しい未来』という未來を担う建築家の作品を紹介する展示があります。手前にあった“コンポスト”の川島範久氏のもう一つの出展作品である《循環のかなめー自然と繋がる建築》の他、大阪・関西万博の「大屋根リング」で全国にその名を轟かせた藤本壮介氏が瀬戸内海での実現を目指している《海島プロジェクト》の模型の展示もあります。

ニューヨークを拠点とするクラウズ・アーキテクチャー・オフィスの曽野正之氏がおられたので、NASA主催の火星有人探査機コンセプト設計コンペで最優秀賞を獲得した《マーズ・アイス・ハウス》の模型の前でお話を伺いました。コンペティションは「火星にある物質で作る」「人間が火星に行く前に自動で作り上げることができる」など制約が多かったそう。火星の地中内部に多く存在する氷を使い、3Dプリンターの活用で火星にドーム型の居住空間を作るアイデアにたどり着いたとのことです。「火星でも、地球と同じくらい快適に過ごせることを目指したのがよかったのかも」と語ってくださいました。「NASAなど、特殊な建築を多くされているのですか?」と伺ったところ、「普通の家も建てますよ」と笑いながらお答えくださいました。火星の居住ドーム、近い将来実現するかもと思うとワクワクします。


本堂の前庭には、著名な建築家のお一人である堀部安嗣氏による木造のキオスク《つぼや》があります。本堂まで石段を上がってくるのに少し疲れてしまったので、ここで「冷製抹茶ショット」を買って、いただくと、スッキリとして元気が戻りました。《つぼや》は、禅宗のお寺である神勝寺本堂の前にふさわしく、シンプルであり、普遍性を感じられる堀部氏らしい建物です。

3年後の第2回ひろしま国際建築祭を目指して故・丹下健三の自邸「成城の家」(1953年竣工。現存せず)を再現しようというプロジェクトが進行中です。本堂に続く荘厳堂の一角に、1/3のスケールで宮大工が制作した模型、そして当時室内で使われていた家具などの資料展示があります。様々な著名人が訪れた当時の写真のパネル展示もあり、多くの人が集まる素敵なご自宅だったのだなと偲ばれます。3年後もすでに楽しみになってきました。
後半では、尾道を中心とする展示をご紹介します。
ひろしま国際建築祭2025 https://hiroshima-architecture-exhibition.jp/
会期:2025年10月4日(土)- 2025年11月30日(日)
開催地:広島県福山市、尾道市+瀬戸内エリアのサテライト7会場
Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。