りっぱな木材を使って、伝統的軸組工法で建てられた古民家。緑濃い自然を背景にした立ち姿も美しいのですが、内部も、高い天井に渡る梁と白い壁が創り出す和みの空間に見とれます。そんな古民家に魅せられて山梨の自邸を古民家ギャラリーにし、山梨古民家倶楽部の幹事も務める長谷川和男さんに古民家の魅力について伺いました。
長谷川さんは、以前に従事されていた住宅情報出版の仕事を通して、現代的な新築マンションや新しく開発された住宅に触れる機会が数多くあった分、一方で日本の伝統的住文化が置き忘れて来られているような現状に違和感を感じていたといいます。最初は趣味として国内外の古民家を訪れ、写真を撮ってあちこちで発表したりしていたのが長じて、1997年にはNPO法人日本民家再生協会(JMRA)を有志と一緒に立ち上げて、日本に伝統家屋を守るための活動をするように。
そして、2011年に自らもこの山梨の地に、今から100年以上も前、1911年(明治44年)に建てられた「薮井家」を新潟県上越市安塚より移築再生 し、自らの隠れ家とする一方で、4〜6月と9月〜11月の金・土・日限定で工芸品、絵画、陶器、写真、家具などを展示する「ギャラリー和」としても運営されています(13〜17時、予約制)。
土地選びに際し、標高や眺望、広さはもちろん南斜面で日の出や夕日が見えることや眼下には街の灯もほしいと7つもの希望条件を出してこだわり抜いたそう。晴れれば真ん前に富士山が見える素晴らしい場所です。建築デザインは、日本国内で数多く古民家再生を手がけるドイツ人カール・ベンクス氏の手も借り、頑丈で機能的なドイツ製の窓枠を使うなど、山梨の冬にも対応できる造り。松本城のくぐり戸を用いたテーブルや鍛金作家である息子さんの作品もあちこちに使われて、それらが一体となって、まさに家全体がギャラリーです。
また長谷川さんは、山梨で同じく古民家を愛する有志と一緒に「山梨古民家倶楽部」を発足。山梨の素晴らしい古民家を知ってもらえるきっかけを作るべく、パンフレットも制作されています。参加されている古民家はいずれもギャラリーやワイン醸造、飲食店など一般に訪れることができます。ギャラリー和以外にJR中央線塩山駅が最寄りの2軒を案内してもらいました。
「そば丸」は、武田信玄の菩提寺である恵林寺の近くにある手打ちそばのお店。こちらは新潟にあった江戸時代の古民家を移築再生。ヒノキの曲がり梁がとても雰囲気があります。
八ヶ岳の麓で栽培したそば粉を使ったおそばは風味がとてもよく。夏は行列の出来る人気店。そばも家もこだわりがとても感じられるお店です。
もう一軒、立ち寄った古民家は「ラ・メゾン・アンシャンヌ」というフレンチレストラン。こちらは、富士吉田市にあった江戸中期の古民家を建築業をされていたお父様が自宅兼事務所として移築再生。その1階に息子さんがレストランをオープンしたそう。
フレンチと古民家の伝統が呼応するのでしょうか、落ち着いたテーブル席で地元食材や焼津港直送の魚介などを生かしたフレンチをいただくのはとても贅沢な感じがします。
古民家に身を置く時間もそこだけゆっくりと時が流れるようで、癒されましたが、移築再生されたオーナーの皆さんの古民家愛をそれぞれうかがううちに、何百年を経た家の価値をあらためて振り返る気持ちになりました。
山梨古民家倶楽部 問い合わせ先:waso-kobo@wawa.sakura.ne.jp(幹事:長谷川)
Text/W LIFE編集部