スコットランド発:ロンドン随一の工芸美術館の分館オープン 設計は日本を代表するあの建築家

ロンドンにあるヴィクトリア&アルバート博物館(以下、V&A)は装飾美術のコレクションで有名。19世紀の大英帝国を象徴するヴィクトリア女王と夫君アルバート公がその基礎を築き、絵画・彫刻のみならず家具・衣装・「くまのプーさん」の原画まで工芸品を中心に所蔵しています。そんなV&Aが、ロンドン以外で初めてとなる分館を、今年9月15日にスコットランド地方の都市ダンディーDundeeにオープンしました。

スコットランドの中心都市エジンバラから列車に乗って1時間。ダンディー駅を降り、まず目を引くのがテイ川に係留されている巨大な帆船。これは20世紀始めロバート・スコット大佐率いる南極大陸探査隊が航海に使ったディスカバリー号です。同号はダンディーで建造されたとのことで、こちらで保存されています。

ひと際目立つ ヴィクトリア&アルバート博物館ダンディー別館

ディスカバリー号のすぐ横、テイ川ほとりにそびえ立つのがV&Aダンディー分館。設計は、日本を代表する建築家・隈研吾氏。巨大な建物の表面は数千枚の灰色の板状のコンクリートパネルで覆われ、部分によっては捻れるように積み重なり、スコットランドのゴツゴツした岩山や断崖を彷彿とさせます。見る方向によって建物全体の形は様々に変化し、大きな船が二艘並んでいるようにも見えますし、エジプトのピラミッドのような巨大遺跡にも、SF映画の宇宙船のような印象も受けます。

内装は、隈研吾氏のデザインの特徴でもある木材を多様。板状の木材パネルは、温かみを感じます。私が訪れた10月初旬は、オープンしてまだ3週間ほどでしたので、木の良い香りが漂っていました。贅沢に取られた空間、そしていたるところにちょっと腰掛けるスペースがあることで、来館者はゆったりとした気持ちになるでしょう。パンフレットによると隈氏は「街のリビングルームとして作り上げた」との言葉通りです。入館も無料ですし!

 

開館記念の特別展は『Ocean Liners- Speed & Style』。海に面した街ダンディーにふさわしく「船」、特に「大洋を定期運行していた豪華客船」がテーマの展覧会です。船旅が盛んだった20世紀初頭から半ば頃までの様々な豪華客船での船旅に関するV&Aの収蔵品が展示されています。

シャンデリアやステンドグラスを初めとする船内装飾はどれも華やか。食器やゲストの持ち物の展示は、旅行用スーツから毎晩繰り広げられるパーティーのためのドレス、プール用水着、旅行鞄にグルーミングセットまで。最高にドレスアップするためのティアラも。船旅に誘う当時の商業用ポスターも、エキゾチックな図柄なもの、ポップなものと様々。展示を見終わる頃には、すっかり豪華客船の旅に出てみたい気分に…。

 

観覧後は街歩き。このダンディーという街は「地球の歩き方」にも載っていないので、街角にある地図を見ながら教会に行ってみたり、通りがかりに見つけた可愛いインテリアのお店に立ち寄ってみたり。ちょうど小腹が減ってきたところで、“1719年創業”との看板を掲げるパブを見つけました。パブの定番・ビールとフィッシュ&チップスを頼み、遅めのランチに。店員さんのフレンドリーな対応も嬉しく、ビールは2杯目に突入。

V&A分館がオープンするまで観光客が立ち寄るような街ではなかったようですが、これからは多くの人が訪れて、隈氏設計のこの分館を目にするのだろうなあと日本人として誇りに思いました。隈研吾氏の素晴らしい建築・V&Aの美しい収蔵品・美味しいパブでのランチで、足を延ばしてきた甲斐があった1日でした。

Ocean Liners- Speed & Style展は、2019年2月24日まで。

V&A Dundee  https://www.vam.ac.uk/dundee

Text/トラベルアクティビスト 真里  

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクディビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

 

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