イタリアの人気都市ミラノ。何度目かの滞在だと「ダ・ビンチの「最後の晩餐」も見たし、ドゥオモにも上ったし、どこか違う街に行ってみたいな」という方も多いのでは?高速列車でミラノから約2時間ほどで行けるのがパドヴァの町。そこには美術ファン必見という作品があったのでした。またその絵にはある秘密も!トラベルアクティビストの真里さんのレポートです。
ミラノからイタリア最古の都市と言われているパドヴァの日帰り旅行へ。ミラノ中央駅からヴェネチア方面への高速列車に乗って2時間ほど、ヴェネチアの一つ手前の駅がパドヴァです。
日帰り旅行先にパドヴァを選んだ理由は、ぜひ訪ねてみたい場所があったから。それは「スクロヴェーニ礼拝堂」。
14世紀初頭、父親の代から高利貸しで財を為したエンリコ・デッリ・スクロヴェーニが建てました。当時すでに名声を博していた絵画・建築の巨匠ジョットを招き、3年間パドヴァに住まわせ、礼拝堂内部にフレスコ画を描かせました。深い青色が美しい高価なラピスラズリを多用したフレスコ画は、美術ファン必見とのこと。私は、ドキドキしながらパドヴァ駅に降り立ちました。
駅から歩いて15分。市立博物館のチケット売り場が、スクロヴェーニ礼拝堂のチケット引換所になっています。実は、この礼拝堂、完全予約制になっており、インターネットから日時と人数を指定しての事前予約が必要です。私は急に思い立って前日にスマホをホテルのWi-Fiにつなげて予約を入れたのですが、夏の観光シーズンだったらもしかしたら取れなかったかもと思います。早めの事前予約をお勧めします。
礼拝堂の入り口で待っていると、予約の時間になると温度調節室に通されます。一度に入れる人数は最大25人。並べてある椅子に腰掛け、礼拝堂についてのビデオ(英語字幕)を見ながら、15分待機。ここは外気と完全に遮断されていて、また座ってビデオを見ている間に観覧者の汗や体温をクールダウンする目的もあるようです。フレスコ画への影響を最小限にするためですね。時間になると、入り口とは反対側の通路が開いて、いよいよ礼拝堂の中に入れます。
まず目に飛び込んでくるのは、ラピスラズリを使った真っ青な天井。そこに金色でたくさんの星が描かれていて、まさに「天から星が降ってくる」ような状態。まばゆいばかりです。当時、金よりも高価であったといわれるラピスラズリ。日本でも人気がある画家フェルメールも「真珠の耳飾りの少女」などでラピスラズリを使っていますが、それは小さな絵のごく一部。それでも、フェルメールの死後、莫大な借金が残ったのはラピスラズリ代のせいではと言われています。これだけふんだんにラピスラズリを使えるとは、金融で財をなしたスクロヴェーニ家はさすがです。
左右両側と後方の壁面には、キリストの生涯が 38場面に渡って描かれています。「最後の晩餐」の場面はもちろんのこと、馬小屋で生まれた場面、ゴルゴダの丘に引っ立てられていく場面などは、キリスト教や美術に詳しくない人でも見てわかるはず。
そして一番の見所は、正面、「最後の審判」です。
キリスト教で、この世の終わりの日に、死人も蘇って、天国に行くか地獄に落ちるかの裁きを受ける場面です。中央上部にキリスト、左側には天使や美しい衣をまとった天国へ行ける人々、右側にはおどろおどろしい悪魔に喰われている裸の人間・地獄行きの人々が色鮮やかに描かれています。
注目してほしい部分は、キリストのすぐ下、跪いて建物を捧げている人物、そしてそれを受けとっている後光がさしている人物。これは、礼拝堂を寄進しているエンリコ・スクロヴェーニ、捧げられている建物はこの礼拝堂、そして受けとっているのは聖母マリアです。
「この絵の意味は?」当時、金貸し業はキリスト教では“天国に行けない仕事”とされていました。一方、エンリコの父親は金貸し業で巨万の富を得ました。14世紀にダンテによって著された長編叙事詩「神曲」で、地獄に落ちる人物として、なんとエンリコの父親が描かれているのです。自分たち一族が天国には行けないのではないかと不安になったエンリコは、私財を投げ打って、この豪奢な礼拝堂を建てたのでした。そんなエンリコのお陰で、「ジョットなしには、後のルネッサンスはなし」と言われるジョットの傑作を現代の私たちが鑑賞できるのですから、きっとスクロヴェーニ一族は天国に行けるはずです!
パドヴァの街を散策。スタンダール「パルムの僧院」にも登場する1831年創業のカフェ・ペドロッキ(Caffe Pedorocchi)へ。メニューを見ているとお隣のテーブルのパドヴァ在住の女性二人が声をかけてきました。「日本から来たの!?ここのカフェの名物ミントコーヒーは絶対に飲んでね!」テーブルに届いたこのお店の名物は、温かいコーヒーの上に冷たくほんのり甘いミントフレーバーのクリームがのっていて、意外な組み合わせに「美味しい!」。
他にも13世紀創立でイタリアで2番目に古いパドヴァ大学は、ガリレオやダンテが教鞭を取ったことでも有名。見所が満載で、日帰りでは足りなかったパドヴァでした。
Text/トラベルアクティビスト 真里
世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクディビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。