自宅で過ごす時間が長くなり、毎日のお食事のメニューもマンネリ化してしまう今日この頃。たまには違ったお料理を作ってみませんか?そんな時にぜひ手に取って頂きたいお料理本を紹介したいと思います。
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【旧フランス領インドシナ料理 アンドシノワーズ】園健・田中あずさ 著 柴田書店
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「旧フランス領インドシナ」とは、現在のベトナム・カンボジア・ラオスを指します。19世紀半ば、フランス宣教師を保護するためにナポレオン3世が軍を派遣したことから、フランスによる植民地化が始まった地域です。数十年にわたる植民地化で、様々な面でフランスの影響を受けました。例えば、日本でも人気があるベトナム風サンドイッチ「バインミー」はフランスパンに惣菜を挟んだもの。
私もこの3カ国を旅したことがありますが、人々のお顔に親近感を感じ、なぜか懐かしく、主食であるお米に合わせた食事がとても口に合ったことが印象的でした。
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そんな仏領インドシナ3国で、園健さん・田中あずささんご夫妻は年の3分の1ほど過ごされています。お二人の旅のスタイルはとてもユニーク。例えば、健さんはメコン川をカヌーで下ったり、カンボジア最大の湖・トレンサープ湖に住む人々と生活を共にし、フナ・ナマズなどの淡水魚の調理法や魚醤の作り方を学んだりします。あずささんは、ラオスの山岳地帯の農家に住み込んで、早朝に火を起こし、野菜を畑から取ってきて煮炊きをし、家族で大皿を囲む暮らしに溶けこんで過ごします。
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近代化・西洋化の中で、インドシナの伝統的な生活様式・食文化は急速に失われています。健さん・あずささんは現地で吸収した食文化を、それをお料理教室という形で私たちに伝えてくれています。こんなお料理を提供してくれる場所は、日本中、いや世界中にここでしかないのではないかと思います。
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実は私、数年前から、お二人のお料理教室【アンドシノワーズ】に通っているのです!アンドシノワーズは東京・千代田区の小さな雑居ビルにあります。最上階まで階段を上り、看板もないドアを開けると・・・そこには東南アジアにトリップしたかのような空間が広がっています。コンロに置かれている籠型の大きな蒸し器や分厚い丸まな板。重量感のある石鉢はスパイスなどを潰すもの。ホーローや陶器の食器類は、今はもう見かけなくなった数十年前の現地のものです。キッチンのアイテムはご夫妻が折々に買い求め、持ち帰ったものばかり。お二人の想いが詰まった空間です。
お料理教室は1日1組、5-6人で開催されます。インドシナに滞在されていることが多いご夫妻ですから、不定期開催。調理のデモンストレーションを見ながら、健さん・あずささんの滞在中のエピソードを聞いていると、インドシナに遊びにきているのかのような、一緒に冒険をしているような、不思議な感覚にとらわれます。石鉢でスパイスを潰したり、バナナの葉で具材を包んだり、参加者全員で簡単な作業をすることもありますよ。
ベトナム料理店は日本でもたくさんありますから召し上がる機会があるかと思いますが、カンボジアやラオス料理店は滅多にないですよね。塩や魚醤の塩味、きび砂糖やパームシュガーの甘さ、ライムの爽やかさ、ハーブを多用したお料理は、今まで食べたことがない不思議な味。でも、日本人の口には合うお料理ばかりです。タイ料理のように辛過ぎないのも特徴です。
そんなアンドシノワーズのお二人が、出版されたレシピ本が【旧フランス領インドシナ料理 アンドシノワーズ】です。
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掲載されている46のレシピはどれも美味しそう!お料理教室で作って食べたことがあるものがたくさん掲載されています。インドシナ料理特有の調味料や食材については丁寧な説明と日本で手に入る代替品も書かれているので安心です。
レシピ欄のお料理の写真だけでなく、現地の暮らしが垣間見える写真もふんだんに使われています。山や海などの風景、カメラのレンズを見つめる現地の人のはにかんだ笑顔、フレンチコロニアル風の建物・・・郷愁を誘うロマンチックな写真が読者をインドシナの世界へ誘います。
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出版日当日に届いたこの本を眺めていたら、「さっそく何か作ってみよう!」と思い立ち、材料を揃えにスーパーへ。私が選んだ一品は《白身魚のラープ》。「ラープ」は肉や魚を様々な種類のハーブや葉野菜で和えたラオスの国民食。塩をした白身魚(私は刺身用の鯛を用意)とセリ・クレソン・パクチーなどと和えるだけというシンプルな料理手順。夕食にいただきながら、健さん・あずささんご夫妻のこと、お料理教室のこと、そしてインドシナを旅した時のことを思い出していました。
皆さんもぜひ仏領インドシナ料理にチャレンジしてみてください!
【旧フランス領インドシナ料理 アンドシノワーズ】園健・田中あずさ 著 柴田書店
Text/トラベルアクティビスト真里
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世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクディビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。