観光+農業で持続可能なリゾートを目指す。日本初の「アグリツーリズモリゾート」星野リゾートSDGsなSTORY④ 

「アグリツーリズモ」とは、イタリア発祥の旅のスタイル。イタリア語の「アグリクルトゥーラ(農業)」と「ツーリズモ(観光)」をかけ合わせた造語で、その土地ならではの農体験や自然体験、文化交流を楽しむ旅のことをいいます。星野リゾートSDGsなSTORYの第4回は、アグリツーリズモを通じて農業の価値を伝え、地域全体の観光価値の向上に取り組む「星野リゾート リゾナーレ那須」をご紹介します。

アグリツーリズモで季節を問わず楽しめるリゾートへ

季節によって変化する風景を楽しめる敷地内の田んぼ

東京から新幹線とバスで約1時間半。高速道路が空いていれば、車で1時間もあればアクセスできる栃木県北部の那須高原「リゾナーレ那須」は那須岳のふもと、標高約500mの場所にあります。約4万2000坪の敷地は東京ドームに換算すると3個分。ここに宿泊棟、アグリガーデン(農園)、アクティビティ施設、レストランなどがあり、アグリガーデンでは年間120種類以上の野菜やハーブを育てています。日本の原風景ともいえる畑や田んぼの風景に親しみながら農業体験を楽しんだり、そこで採れた野菜を取り入れた料理を味わえるのが魅力のリゾートです。

リゾート内のコミュニティの場「POKO POKO(ポコポコ)」は全天候型の施設

ところで、那須高原にはどんなイメージがありますか?
スノースポーツに親しむ人なら、都心から気軽に足を延ばせるゲレンデが点在するエリアという認識でしょうか。でも多くの人がイメージするのは、夏の高原リゾートや紅葉の名所。冬はオフシーズンにあたり、冬季休業の宿泊施設やレストラン、ショップも少なくないのだとか。でも冬の晴天率は抜群に高く、雪が積もることは少ない。そんなところもアグリツーリズモの地としてはうってつけなのです。

楽しみ、癒されながら生態系を学ぶ農業体験

農家の手仕事やハーブティーづくりなどを体験できる「グリーンハウス」

地元の農家さんにアドバイスをいただき、スタッフが有機の農業を実践しているのが「アグリガーデン」です。ここでは、田畑を耕す耕耘(こううん)から肥料作り、野菜やハーブの種まき、収穫まで一連の農作業を行っていて、「ファーマーズレッスン」と名づけられたアクティビティで農作業を体験することができます。

特徴は、単に収穫を楽しむだけでなく、季節とその日に応じて必要な農作業をスタッフがゲストにレクチャーすること。「なぜ今、この作業が必要なのか、土地や作物にとってどんな影響や効果があるのか」、生態系を考えるきっかけになります。

この日、ハーブや野菜を育てている「グリーンハウス」内で行われていたのは、「踏み込み温床づくり」という作業。稲刈り後の田んぼのワラや敷地内で集めた落ち葉に、もみ殻や米ぬかを混ぜて踏み込みむもので、微生物が有機物を分解するときに発生する熱で野菜の苗を育てる昔ながらのやり方です。温床の温度は40~50℃にもなり、この熱を利用すれば寒い季節でもボイラーなどの熱源を使わず苗の育成ができるのだとか。自然界の微生物のパワーって、すごいと思いませんか。

アグリガーデンの野菜畑を案内してくれた小鷹広之さん

次に、スタッフの小鷹(こたか)広之さんにグリーンハウスの外の野菜畑を案内していただきました。訪れた日は、明け方の気温がマイナス10℃近くまで下がった厳冬期。霜柱の厚さは5cm以上もあり、その上をバリバリと踏みしめながら畑に向かうのは、「真冬のピクニック」みたいでなかなか楽しいものでした。

葉物野菜はまだまだこれからですが、旬を迎えたニンジン、大根、カブなどの根菜の収穫を体験しました。自分で収穫すると、どんなに小さくて不ぞろいの野菜でもすべて持ち帰りたくなります。人差し指ほどの可愛らしい人参をそのままかじってみたら、甘くてみずみずしかったこと! 自分が育てた野菜なら、愛おしさはこの何倍にもなるに違いありません。

自分で収穫した野菜は、葉っぱの1枚も無駄にせず食べたくなるから不思議

野菜の力強さを味わうイタリア料理

那須の食材とトスカーナ州の郷土料理をかけ合わせて提供する「OTTO SETTE NASU」

アグリツーリズモでは、その土地ならではの食を楽しめることも魅力のひとつ。アグリガーデンで栽培されている野菜やハーブの一部は、ワークショップのほかにレストランやカフェでも使用されています。野菜の美味しさをストレートに味わえるのは、やはりイタリア料理。メインダイニング「OTTO SETTE NASU(オットセッテ ナス)」では、アグリツーリズモ発祥の地イタリアのなかでも、気候風土が那須とよく似ているトスカーナ州の郷土料理を取り入れたフルコースを提供しています。

ディナーコース(15,730円)は、自然派ワインとのペアリングがおすすめ

全8品のコース料理は彩りが豊かで、那須の食材がふんだんに盛り込まれています。どの料理からも食材の力強い味わいが伝わってくるなか、最も印象に残っているのが、オニオングラタンスープ風の「白葱のカラバッチャ」。本場トスカーナでは赤タマネギで作るそうですが、ここでは地元産の白葱を使っています。その甘みとペコリーノチーズの濃厚な組合せに、仕上げに削りかけるシナモンがアクセントになっていて、ワインが進むこと! 器には地元・那須をはじめ、益子など県内に窯をもつ陶芸作家の作品が取り入れられています。

地域の魅力を発信し、地元に貢献できる存在に

「農業の楽しさを伝えることで地域全体の価値を高めたい」と総支配人の松田直子さん

「リゾナーレ那須」のコンセプトとして、アグリツーリズモリゾートを取り入れた経緯を総支配人の松田直子さんに伺いました。

「この那須高原がグリーンシーズンだけでなく、冬でも楽しめるリゾートであることを知ってもらうことが第一の目的です。農業の面白さ、奥深さを通じてエリア全体の魅力を発信し続けることで、リピーターを増やしていきたい。通年型のリゾートとして認知度が高まり、それが周辺観光に波及し地域に貢献できれば、農業も観光も未来へ繋げていけるのではないでしょうか」と松田さん。

高齢化により後継者不足が心配されている農業ですが、最近では若い世代に「やりがいあるうえ、楽しい」という意識が高まりつつあるのだとか。それに「美味しい」という感覚は、生きるうえでなにより大きなモチベーションになります。

日本の食料自給率は、カロリーベースで約37%。3分の2に近い63%を輸入に頼っている現状があります。「リゾナーレ那須」の取り組みから農業の楽しさがもっと伝われば近い将来、日本の食料自給率がアップするきっかけになるかもしれません。

田植えが始まり、水を張った田んぼに那須岳の姿が映る初夏、さらに「踏み込み温床」に使う落ち葉拾いに出かける晩秋など、また異なる季節に再訪したいと願いながら、那須高原を後にしました。

窓から田園風景が眺められる客室。ここでももちろん、ペットボトルフリーに取り組む

星野リゾート リゾナーレ那須 https://risonare.com/nasu/

Text/永田さち子

ライター・編集者。医学雑誌、スキー雑誌の編集を経てフリーランスに。旅行書、雑誌を中心に旅、グルメ、料理、健康コラムなどを執筆。ハワイに関する著書に、『ハワイのいいものほしいもの』『おひとりハワイの遊び方』『ハワイを歩いて楽しむ本』(実業之日本社)、『50歳からのHawaiiひとり時間』(産業編集センター)ほかがある。旅行情報サイト『Risvel(リスヴェル)』にコラムを連載中。http://www.risvel.com/column_list.php?cnid=6

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