フランス産熟成ハードチーズ”コンテ”と5種類の”お茶”のペアリング 奥深い世界を学ぶ

フランスで最も愛されている熟成ハードチーズ、コンテ。スイスと隣接するジュラ山脈一帯でモンベリアード牛の生乳から作られています。同国のAOP(原産地呼称保護)チーズの中で生産量No.1。2位のロックフォールの約4倍と大きく引き離す存在です。

牛は、夏は青々とした牧草を、秋は干し草を食べるため、ミルクの味にも違いが出ます。その風味を損なわぬよう、搾乳後24時間以内にチーズに加工します。作りたい味わい別に、高温と低温の熟成庫に分け、最低4ヶ月の熟成。より長い熟成期間を経ると、それぞれ異なる味わいの魅力を呈します。

今回は、作られた季節や熟成期間の異なる3種のコンテを比較テイスティングしながら、煎茶、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶、抹茶の5種類のお茶との相性を探りました。

直径約60cm、高さ10cmのコンテのダミーを抱えているのは、講師の天花寺歩美さん。チーズとお茶の相乗効果を生むペアリングに造詣が深い、チーズプロフェッショナルです。このひと玉に、400リットルのミルクが使われます

テイスティングは、まず外観を見て、触って曲げて硬さを確認。8ヶ月熟成ならしなやかに曲線を描き、12か月だと折れやすいです。香りを嗅ぎ、食べて鼻から抜ける香りも確認。齧ると、滑らかな口当たりの8ヶ月と比べると12か月は味わいが凝縮し粉っぽい食感、18か月ともなるとジャリジャリとアミノ酸の結晶を感じます。

試食したコンテは、左から8か月以上熟成(2021年8月製造)、12か月以上熟成(2021年2月製造)、18か月以上熟成(2020年11月製造)の3種。そのまま食べるだけでなく、型抜きして見た目の楽しさをアップしたり、ちょい足しアレンジでペアリングの可能性の幅を広げたり、様々な応用がありました。

まずは水出し玉露で口中を潤し、チーズをひととおり試食した後、いよいよ個別の相性探求の世界へ。

煎茶と8か月以上熟成。新鮮な牧草やハーブを食べた牛のミルクからの夏作りで、若い熟成によるクリーミーで優しい口当たり。緑茶の持つフレッシュでハービシャスな要素と合います。蝶の形にくりぬいたコンテの上に載っているのは赤紫蘇のふりかけ、ゆかり。チーズの黄色と相まって見た目に華があり、爽やかな酸味がお茶の甘みを引き出します。

ほうじ茶と12か月以上熟成。互いに香ばしさという共通の要素があります。干し草が牛の餌となる冬作りは、白っぽいアイボリー色で、温かみのある穏やかな味わい。非加熱の白く濁ったハチミツを掛けると塩キャラメルのような味わいに。栗のようにホクホクした粉っぽさが残る口中に、ほうじ茶を流し込むと、洗い流し効果があるだけでなく、アプリコットやトロピカルな香り、果実のような酸味が引き出されます。カフェインが少ないお茶なので寝る前でもOK。

紅茶と8か月以上熟成。熟成の若さからミルクの風味が残っており、イングリッシュ・ブレックファスト・ティーに合わせると、ミルクティーを飲んでいるかのような風味が口中にふんわり広がります。星形のコンテに載せたのは、パリの工房コンフィチュール・パリジェンヌのジャム。オーガニックの赤ワイン、ニュイ・サン・ジョルジュをベースに、すぐり、きいちご、ブラックベリーなどきび糖で煮たジュレのような味わい。朝の食卓にあると、良い一日が始まりそう。

烏龍茶と18か月以上熟成。ナッティーな香り、複雑味のある濃厚で深い旨みの長期熟成コンテには、フローラルでライチの果実感のある凍頂烏龍茶が合います。アーモンドナイフで砕くと、断面のもろもろっとした組織の食感が楽しめます。ホームパーティなどで塊で出し、カチ割ってサービスするのも気の利いたプレゼンテーションになります。八角や丁子、花椒や肉桂などを混合したスパイス、五香粉をチーズに振ると、オリエンタルな余韻が漂います。

抹茶と8か月以上熟成。点て方はお薄。抹茶と乳製品の相性はアイスクリームなどで証明済み。若いチーズのクリーミーさとミルキー感と、抹茶の濃厚な旨みとのバランス。羊羹とチーズで挟むと、餡バターサンドのような甘さとしょっぱさとクリーミー感が一度に味わえる新感覚のスイーツになります。コンテは干菓子のような使い方が出来るチーズで、その黄色味は黒塗りや朱塗りの器の上で映えます。型抜きして季節の花などに見立て、黒蜜をたらす、きな粉をまぶす、甘納豆や干し柿と合わせるなど、和菓子感覚で楽しむことができます。

コンテは日本ではまだ特別感があるかもしれないけれど、コンビニやスーパーで入手できる食材と合わせて楽しめる、と講師の天花寺さんは言います。加えて伝えたいのは、チーズはカルシウムや良質のたんぱく質や脂質、ビタミンを含む完全栄養食であること。唯一不足しているのは食物繊維とビタミンCで、これを補うジャガイモと合わせるのは理に適っていることなのだそうです。

ワインなどのお酒と合わせる発想はありましたが、お茶ならば朝夕の時間帯を問わず、未成年や健康上の理由で飲酒を控えている人とも共有できるユニバーサルなペアリング提案です。コンテが日本のライフスタイルに浸透し、より身近なものになっていく予感がするベアリング体験でした。

コンテチーズ生産者協会 https://www.comte.jp/

Text /​近藤さをり

ワイン&グルメPRスペシャリスト。ドイツで日本企業のワイン仕入・販売や、現地ワイナリー勤務を5年間。帰国して洋酒メーカー広報部、PR会社勤務を経て現在に至る。カリフォルニアワインのPRに15年以上携わる間も、執筆活動は国やジャンル問わず。JSA認定ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定ビアソムリエ。

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