150周年を迎えた東京国立博物館にあの国宝この国宝がずらり集結

日本を代表する東京国立博物館は、今年創立150年。その始まりは、1872年に湯島聖堂で開催された博覧会です。「東博」の愛称で知られる日本で一番古いこの博物館には12万件の収蔵品がありますが、そのうち国宝は89件。日本にある国宝は902件ですから、約1割が東博にあることになります。もちろん日本一の数です。

創立150年を記念する今回の 東京国立博物館創立150周年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」には、この89件すべてが出品されています(会期中、一部展示替えあり)。美術品は、光や熱から受けるストレスを最小限にしなければならないので、一時期にすべての国宝を展示するとなると、数年からそれ以上の月日をかけて修繕や展示の調整をしなければなりません。東博の国宝をいっぺんに見られるということは、東博職員であってもまずない、奇跡的な機会です。

展示は2部構成。前半は国宝の展示です。会期中に展示入れ替えがありますが、常に60数件の国宝が展示されているとのこと。会期中どのタイミングで訪問しても、60件以上の国宝を一度に観ることができるだけでもすごいことです。

長谷川等伯《松林図屏風》(安土桃山時代・16世紀)

最初に出迎えてくれるのは長谷川等伯《松林図屏風》(安土桃山時代・16世紀、展示は10月30日まで)。描かれている松には濃淡があり、松林の奥行きが表現されていると共に霧がかかったような空気感や湿度をも感じられます。安土桃山時代に描かれた水墨画の代表作ですが、紙継ぎの乱れから、元は下絵であったのではないかと云われています。

《古今和歌集 上帖(元永新本)》(平安時代・12世紀)

《古今和歌集 上帖(元永新本)》(平安時代・12世紀)は、現存する最古の古今和歌集写本です。まずは、和紙の美しさに目を奪われます。赤・緑・紫などのさまざまな色に染め上げられた和紙に、唐草模様や孔雀模様などが刷られています。金箔・銀箔などを散らしてある部分もあります。藤原定実の筆といわれていますが、和紙の装飾に合わせ筆遣いが書きわけられています。

《埴輪 挂甲(けいこう)の武人》(古墳時代・6世紀)

《埴輪 挂甲(けいこう)の武人》(古墳時代・6世紀)は3年間の修復が終わったばかりです。「挂甲」とは、小さな鉄板をつなげた鎧のこと。130センチもの大きさの埴輪は、挂甲を纏い、兜を被り、小手・脛当て・頬当てをし、弓矢・刀を携ている完全武装です。相当に身分が高い武人ではないかと推察されます。現代に完全に残っている古墳時代後期の武装を目の前にして、感動しかありません。

太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》(平安時代・10~12世紀)

前半部分のもう一つの見どころは、「国宝刀剣の間」。東博収蔵の国宝日本刀は19口ありますが、その全てが一堂に展示されています。日本だけでなく海外でも評価が高くコレクターが多い日本刀ですが、昨今はオンラインゲームの影響もあり女性ファンも増えています。一番の注目の刀は、展示室中央に単体で展示されている《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》(平安時代・10~12世紀)です。日本刀は戦乱が多かった鎌倉時代〜南北朝時代に作られたものが多いのですが、この「三日月宗近」はさらに昔の平安時代、京都・三条に住んでいたといわれている三条宗近の作。「天下五剣」と呼ばれる五振の名刀の一つです。少し屈んだり背伸びをして刀身にうまく光が当たる部分を探してみてください。三日月型の紋様がいくつも見えます。これが刀の名前の由来です。美術品としての価値が高い日本刀は、実際の戦いで使われたことがあるものはあまりないのですが、この「三日月宗近」には小さな古傷がついており、実戦で使われたと思われます。この日本刀が辿ってきた千数百年の歴史に思いを馳せてしまいます。

一要塞曜斎国輝古今珎物集覧(ここんちんぶつしゅうらん)》(明治5年・1872年)

後半は、東博150年の歩みを展示。東博の始まりであった「湯島聖堂博覧会」の様子を描いた錦絵、一要塞曜斎国輝《古今珎物集覧(ここんちんぶつしゅうらん)》(明治5年・1872年)には、当時、実際に展示された作品が描かれています。絵や書以外にも、工芸品・剥製などが多岐に渡っているのが興味深いですね。一番人気だったという名古屋城金鯱の実物大レプリカが展示されていますので、当時の雰囲気を感じてください。150年の間には、関東大震災のような深刻なダメージを受けた出来事もあり、その当時の様子の展示には心を動かされます。

尾形光琳《風神雷神図屏風》(江戸時代・18世紀)

宇宙服を着ているような《遮光器土偶》(縄文時代・前1000~前400年)、尾形光琳《風神雷神図屏風》(江戸時代・18世紀、展示は11月13日まで)など歴史や美術の教科書に載っているものがたくさん。東博は明治時代には宮内庁の所轄になっていたこともあり、皇室との結びつきが強い博物館でもあります。江戸時代に建造された「鳳輦(ほうれん)」は、天皇専用の乗り物。屋根には鳳凰の飾りを頂き、荘厳な趣です。明治天皇が京都から東京へ行幸される際に乗られたものです。同じ部屋にはキリンの剥製もあります。明治時代に日本に初めてきた雌雄一頭ずつのキリンは、日本の寒さに耐えられず短期間で死んでしまったのですが、剥製にされた後、東博で保存されていたそう。まさに「博物館」ですね。100年ほど前に、お隣の国立科学博物館に譲渡されましたが、今回、久しぶりのお里帰りです。

東京国立博物館150周年という区切りの年の展覧会に行けることに感謝してしまいます。東博所蔵の国宝全点を見られる機会は50年後の200周年記念の時になるかも。ぜひ足をお運びください。

画像作品すべて東京国立博物館蔵

東京国立博物館創立150周年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」概要
会期 2022年10月18日(火)~12月11日(日)
会場 東京国立博物館 平成館
開館時間  午前9時30分~午後5時

※金曜・土曜日は午後8時まで開館(総合文化展は午後5時閉館)
休館日   月曜日
お問合せ   050-5541-8600(ハローダイヤル)
※会期中、一部作品の展示替えを行います。

※本展は事前予約制(日時指定)です。

※展示室内では「見返り美人図」、「金剛力士立像」以外は撮影できません。なお、会場内の混雑状況により予告なく撮影を禁止する場合があります。予めご了承ください。

※展示作品、会期、展示期間、開館時間、休館日、観覧料等については、今後の諸事情により変更する場合があります。最新情報は本サイトでご確認ください。

公式サイト  https://tohaku150th.jp/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です