とことんこだわるサムライのおしゃれに驚く!静嘉堂文庫美術館の展覧会 

東京・丸の内にある静嘉堂文庫美術館で、「サムライのおしゃれ 印籠・刀装具・風俗画」と題する展覧会が始まりました。*top画像 右上:梶川《住吉蒔絵螺鈿印籠》(江戸時代18〜19世紀) 右下:梶川《鐔蒔絵印籠》(江戸時代 18〜19世紀)

戦乱の世から江戸時代に入ると、武士の必需品である刀は実戦で使われる機会はほぼなくなります。刀の付属品である鐔(つば)をはじめとする刀装具はより装飾的に。武士にとって、「こだわり」や「おしゃれ」を表現するアイテムになっていきます。現代で言えば、ネクタイピンやカフスボタンに凝るのと同じでしょう。

石黒是美《花鳥図大小鐔・三所物》(19世紀)

石黒是美「花鳥図大小鐔・三所物」(江戸時代 19世紀)は、大小の刀のための鐔、笄(こうがい)、小柄(こづか)、目貫など刀装具全てに、江戸時代に中国から輸入された高価な珍鳥「錦鶏」を金・銀などを施して表現し、大変豪華なものになっています。刀装具がここまで美しくデザインされるのは、抜刀して戦いで使うことがなくなった太平の世の証ですね。

江戸城に上がるときの正装は裃(かみしも)。体の左には大小の刀。右側に何もないのもバランスが悪いので、「印籠」を下げます。印籠は、元は常備薬を入れて持ち歩く実用的なものでしたが、徐々に工芸品へと変化していったアイテムです。

寛遊齋【守光】《露草蒔絵象嵌印籠》(江戸時代 19世紀)


今回展覧会では、静嘉堂文庫に収蔵されている276点の印籠のうち、40点展示されています。こんなにたくさん印籠をまとめて見るのは私は初めてかもしれません。縦8センチ・横5センチ程度の大きさの印籠に、花鳥風月あり、故事に習った意匠、扇や鍔が、技巧を極めた蒔絵で描かれています。印籠についている「根付け」も合わせてよくご覧ください。ひょっとこのような「お面」、家屋の形のもの、「鳥籠」なんていうものもあります。根付けの方が、印籠よりより小さいので、遊び心が出てしまうのでしょうか、ユニークなものが多い気がします。ぜひ自分が好きな一点を探してみてください。

原羊遊斎 《雪華蒔絵印籠》(江戸時代 19世紀)

私が一番気に入った印籠は、江戸時代後期の蒔絵職人・原羊遊斎(はらようゆうさい)作「雪華蒔絵印籠」(江戸時代 19世紀)です。江戸時代、顕微鏡で雪の結晶を見ることができるようになり、雪華模様は庶民も含めて流行したそう。江戸時代の人々も、私たちと同じように、様々な形の雪の結晶に心を奪われたことでしょう。そんな結晶紋様を印籠に留めるなんて素敵です。

《四条河原遊楽図屏風》(17世紀) 紙本金地着色 二曲一双
同上の部分解説


重要文化財「四条河原遊楽図屏風」(江戸時代 17世紀)は、多くの老若男女が賑わう京都・四条河原の賑わいが描かれている近世初期風俗画の傑作です。このような大きな風俗画は、たくさんの人々が描かれている分、どこに注目したらいいのかわからなくなってしまうこともありますよね。本展覧会では、屏風手前に、注目して欲しい部分を拡大した案内板があり、鑑賞のポイントがよくわかります。例えば「道喜座前」。木戸をくぐりちょうど外に出ようとしている若者の部分を拡大してあります。着物の柄、腰に差した大小の刀は朱漆塗梅花皮鮫研出(しゅうるしぬりかいらぎさめとぎだし)と言う大変高価であり豪華な拵(こしらえ。刀の外装のこと)になっているとの解説がついていますので、屏風と照らし合わせて鑑賞してくと、サムライのおしゃれをより楽しめると思います。

C.SMITH&SON《サーベル形儀仗刀 後藤象二郎拝領》(1868)

今回の展覧会での一番の目玉は、明治新政府の接待係・後藤象二郎が英国ヴィクトリア女王から拝領したサーベル形儀仗刀が、長らく行方不明でしたが再発見され、展示されていることです。1868年3月23日(慶応4年2月30日)、京都で天皇に拝謁する英国公使ハリー・パークスを攘夷派志士が襲撃するという事件がありました。この時、新政府の接待役として随行していた土佐藩士・後藤象二郎(静嘉堂創設者・岩﨑彌之助の義父)と薩摩藩士・中井弘蔵が暴漢を撃退しました。その功績を讃え、英国ヴィクトリア女王から感謝の印として送られたのがこのサーベル形儀杖刀です。象牙製の柄はライオンの頭部を模っており、儀式用なので刃はついておらず、細かな唐草紋様のエッチングが施され、後藤象二郎の名前と事件の日付が刻まれています。再発見された歴史的事件にまつわる品を前に、「後藤象二郎が暴漢を倒さなければ、深刻な国際問題に発展してたのでは」などと考えてしまいました。

「曜変天目(稲葉天目)」

もちろん、静嘉堂文庫が所有する国宝「曜変天目(稲葉天目)」も展示されています。近世サムライのおしゃれアイテムと共に、ご鑑賞ください。

「サムライのおしゃれ 印籠・刀装具・風俗画」開催概要

会期 2023年6月17日(土)~2023年7月30日(日)
会場 静嘉堂文庫美術館(静嘉堂@丸の内)
住所 東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F
時間 10:00~17:00 (最終入場時間 16:30) 金曜日は10:00~18:00(最終入館時間 17:30)
休館日 月曜日 7月18日(火)※ただし、7月17日(祝)は開館
観覧料 一般 1,500円 大高生 1,000円 中学生以下 無料
障がい者手帳をお持ちの方(同伴者1名〈無料〉を含む) 700円
TEL 050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL http://www.seikado.or.jp/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。


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