W LIFE で「私のセカンドライフ〜義太夫修行日記」を連載された長野尚子さんが義太夫として参加した「阿波人形浄瑠璃アメリカ公演」レポート第2弾!舞台はサンタフェからロサンゼルスへ、さらに大谷翔平選手の待つアナハイムへと移ります。そしてついに“史上初のコラボ”(多分)が実現。
我々一行が次に向かったのは、ロサンゼルス。歴史的にも日本と関係が深く、多くの日本人や日系人が居住しているアメリカ第2位の大都市です。公演場所は「サクラガーデン」という日系の高齢者施設でした。
施設内のアクティビティーホールには、開演前から多くの入居者の方々が集まってくださいました。センター長のダニエル・コニシさんによると、入居者のほとんどは日本をルーツに持つ高齢者で、ふるさと日本の伝統芸能を生で見られることをとても楽しみにしてくださっていたのだとか。望郷の念を胸に外国で暮らすみなさまのために、一同心を込めて母と娘の切ない情を演じ切りました。何度も涙をぬぐう男性の姿には、思わず胸が熱くなりました。
公演後、ある入居者の女性が「私の出身は愛媛県です。懐かしくて本当に胸がいっぱいになりました。私はもう帰れないけれど、晴らしい伝統芸能をありがとう」と目に涙をいっぱい溜めて私の手を握ってくだいました。私も亡き母を思い出して思わずもらい泣き。
さて、アメリカでの公演ミッションはこれにてすべて終了。心地よい疲れとともに私たちが最後に向かった先はアナハイム球場。大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・エンゼルスのホーム球場です。今夜はここで大谷翔平選手を全力応援する、という最後のミッションが残されていたのでした。
「浄瑠璃人形を持って応援させてほしい」と球団側と水面下で事前交渉を重ね、やっと持ち込みの許可が下りたのが出発わずか数日前。なるべく目立つように人形座の座員はみな黒子衣装のまま球場入りし、趣向を凝らした手作りグッズで準備万端。
我々の応援の様子がNHKで生中継された直後からたくさんのメッセージが届き、人形による絶大なPR効果を実感。人形の念が通じたのか、大谷選手は27号・28号の2ホームランを放ち、投げては7勝目をあげる大爆発ぶり。「君たち、なにか持ってるね!」 帰り道、すれ違う人たちに口々に声を掛けられ、鼻高々の一行でした。
アメリカでの2都市3公演をとおして「浄瑠璃は国や言葉を超える」という確かな手ごたえをつかんだ7日間の旅もここに無事完結。この感動を力に変えて、これからも阿波人形浄瑠璃の魅力を日本全国、そして世界へと伝えていきます。どこかでお会いできますように!
●ロサンゼルス・エンゼルス
●阿波人形浄瑠璃はどこで見られるの?
徳島県立阿波十郎兵衛屋敷(あわじゅうろべえやしき)
HP : https://joruri.info/jurobe/
Instagram:https://www.instagram.com/awajurobeyashiki/
毎日2回、阿波人形浄瑠璃を上演しています。展示室では人形浄瑠璃に関する資料や「木偶(でこ)人形」、太夫の小道具や太棹(ふとざお)三味線などを展示しているほか、年間を通して様々な催しも開催されています。
Text /長野 尚子
フリーライター、編集者。(株)リクルートの制作マネージャー&ディレクターを経て、早期退職。アメリカ(バークレー)へ単身“人生の武者修行”に出る。07年よりシカゴへ。シカゴのアート&音楽情報サイト「シカゴ侍(www.Chicagosamurai.com」編集長。四国徳島とシカゴの架け橋になるべく活動中。著書に『たのもう、アメリカ。』(近代文芸社)。http://www.shokochicago.com/ 日本旅行作家協会会員。