文化庁が京都に移転したことで名実ともに「文化首都」となった京都で、皇室ゆかりの泉涌寺を舞台に現代美術・工芸展が開かれています。
「感性」「伝統」「未来」をテーマに歴史的建築空間と現代美術・工芸が融合した日本の伝統美を世界に発信する【洛宙 KANSEI アート展】です。
2019年に始まり5回目を迎えた展覧会は、2023(令和5)年12月1日(金)から12月10日(日)まで京都市東山区の泉涌寺で開かれています。
洛宙とは、京都から宇宙をもイメージして全世界にむけて日本の伝統美を発信したいという想いを表しています。殊に今回は、大変だったコロナ禍が明け、やっとうつむかず、見上げる気持ちになったことから副題を「希望の宙(そら)」としています。
会場は皇室ゆかりの「泉涌寺」。「なんと読むの?」というJR東海のCM、そしてこのアングルを懐かしく思う方もいらっしゃるのでは。
それもそのはず。「御寺(みてら)」とも呼ばれるこの格式高いお寺は、CMにもあったように「七百年以上も門を閉ざしていたお寺ですから。
「せんにゅうじ」と読みます」。
長く広い「降り参道」をおりれば正面に建つのが仏殿です。この中に、早速清水六兵衞氏の陶芸作品が展示されています。
そして境内を山に向かって進むとメイン会場である本坊が見えてきます。門をくぐると白砂の向こう、御座所の車寄せに大きな木の作品が。
美しい白木が優美に曲げられ独特の形を描いています。木と人との関係性の中でこれまでにない新しい形を生み出しているのが曲木造形作家の亘章吾氏。「この場所に展示したいという想いが叶ってとても嬉しいです。」
普通、木を曲げると聞くと高温の蒸気で蒸した木材を型枠でプレスする方法が浮かびますが、亘氏は、型は使わず人間の手で曲げていくそうです。1ミリの薄さにした木材を16枚重ね、自由な曲線を描く作品は、奈良県産の吉野ヒノキで出来ています。
「人の手で大切に植林し、枝打ちした節のない吉野ヒノキが一番適しているんです。」作品に近づいてみると、曲線の作品なのにヒノキの直線的な木目がまた美しく感じる、不思議な魅力を感じました。
建物の中に入ると、金彩友禅、漆、陶、木工など様々なアートが歴史的建築空間に展示されていました。
今回の13人のアーティスト作品の中で、人物をかたどった作品がひとつだけありました。
まるでミケランジェロの『ピエタ像』のように我が子を愛おしく見守るような優美で慈愛に満ちた微笑みをたたえた表情に一瞬で引き込まれたギャラリーは多く、作品の周りに人だかりが出来ていました。
乾漆という仏像制作に用いる技法や光沢ある漆の質感だけでなく、螺鈿研ぎ出しも用いるなど膨大な労力と繊細な作業により産み出される佐野氏の作品。
「漆と麻布という元々形のないもの同士を結びつけて自立するかたちを産み出しています。」
美しい光沢を出すために、最後の一層には岩手県の浄法寺漆を使用する。
中国産の漆ではこのツヤは出ないそうです。
こうして佐野氏のような若い作家さんが国産漆を使うことで需要が生まれ、生産する側にも張り合いが出来る、そんな良い循環が今後も続きますように。
作家の佐野圭亮氏は東京藝術大学工芸科漆芸専攻卒業。大学院修了後、漆芸作家として主に関東で活動中ですが、佐野氏の才能に惚れ込んだ祇園のギャラリー店主の招きにより、来春、京都で個展の計画もあるそうです。
歴史的建築物、そして芸術を愛し、作家を支援する素地もある文化都市京都は、京都で展示することで作家さんたちにも特別な気持ちも掻き立てる力があるようです。
泉涌寺でのこの【洛宙 KANSEI アート展】。
若手もベテランも一堂に集まった一見の価値のある作品ばかりです。周辺の紅葉もまだまだ見頃です。ぜひお運びください。
KANSEIアート展京都2023
洛宙[希望の宙(そら)] 感性✕伝統✕未来
会場:御寺 泉涌寺
住所:京都市東山区泉涌寺山内町27
会期:2023(令和5)年12月1日(金)~10日(日)まで
時間:午前9時~午後4時30分(最終受付 午後4時)
入場料:無料 ただし寺院拝観料は必要です
Text /倉松知さと
関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、雑誌で歴史エッセイを連載中。京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。