ラグジュアリーステイに込められた文化継承と未来への再構築とは

ここ数年、日本国内のリゾートの誕生は目覚ましく、海外のセレブリティーのライフスタイルに欠かせないハイダウェイ型リゾートや、老舗旅館のようにホスピタリティに注力した宿、グローバルブランドがローカル独特の要素に注目したラグジュアリーホテルなど、新しい形の日本国内のラグジュアリーステイが生まれつつあります。

英虞湾に”最も近い”大人のためのラグジュアリーリゾートが誕生

2016年の伊勢志摩サミットでその美しい景観の認知が高まり、グローバルな高級リゾートホテル「アマン」の進出など、ハイダウェイ的高級リゾート地として注目を集め出した伊勢志摩。伊勢志摩国立公園の中、山間の森よりも緑の色が深いと賞賛される英虞湾に”最も近い”大人のための高級リゾート「COVA KAKUDA」が今年の6月に誕生しました。かつての真珠養殖工場をリノベートした全室ヴィラタイプの施設は、ヴィラ全棟が海岸に面し1棟内全室がオーシャンビュー。英虞湾の海と山の景観をどこからでも満喫できます。

抜群のビューを楽しみながら朝風呂のあとに囲いのないテラスで目覚めのコーヒーを。穏やかな朝日の温もりが心地よい。

「COVA KAKUDA」は:
・1日に4組のゲストの受け入れの全室ヴィラタイプ。
・敷地内を電気自動車で送迎。
・有料ではありますが、チェックイン、チェックアウト。時には、クルーザーで英虞湾を横断。
・英虞湾とその周辺の自然を体験、楽しめるアクティビティプログラムが豊富。
・英虞湾を眺めるサウナ施設。

とラグジュアリーリゾートの要素を持ち合わせているのですが、単にラグジュアリーとリトリートを体験する以上の意味がCOVA KAKUDAには込められているのです。筆者の1泊2日の体験を介してご紹介していきますね。

近鉄賢島の改札にクルーのお出迎え。風が強い日だったので、クルーザーではなく車で宿まで移動し、英虞湾を一望するKAZO棟でチェックインとウエルカムドリンク。穏やかな波音と窓からそよぐ心地よい風の中でアクティビティプログラムの説明を受け、滞在中に体験したいものを決めていきます。インストラクター島田和政氏のナビゲートで、アクティビティのスタートです。

KAZO棟

COVA KAKUDAの日常の営みがアクティビティ

COVA KAKUDAでは施設を運営するために、敷地内の農園を耕し、稚貝を養殖し、薪から炭を作ります。これがそのままアクティビティとして体験できるのです。

森林の自然環境のバランスを保つため、間伐したウバメガシを炭にして調理時やサウナに使うための薪割り。体の使い方一つで割れたり外したり。割れた時に爽快さを感じるなんて体験して見なければわかりませんでした。

島田氏がまずデモンストレーション。実際にやってみるとかなり難しいのです。

次は炭に火をつける。種火を作る干し草の上で木棒をリズミカルに回転させていくと一筋、二筋と煙があがり、やがて小さなオレンジ色の火が起こされる。周りの干し草とともにそっと掌で包んで炭の上に。美しい色合いの養殖のヒオウギ貝を焼いて、海の風味だけでいただきました。

起こした火を持ってサウナへ。ストーブに薪を焚べると薪割りをした山の中腹の木々の香りが広がります。窓から見える美しい水面とともに山海一体の英虞湾を感じます。リトリートの要素を持つサウナですが、間伐した薪の有効活用のために設置を決めたそうです。サウナは隣に水風呂がありますが、海の美しさに誘われて岸から海に飛び込んだゲストがいたとか。

自然の中で炭火のBBQや美しい海を眺めてのサウナ。流行りのグランピングやキャンピングでも体験できそうですが、薪割りから続く一連の流れの実践と、自然と共存する営みについて島田氏の説明を伺うと、単にレジャー以上の意味を実感します。

ノスタルジーから未来の再構築へ

陽の入りに合わせて山中へ。

山を少し登ると一部分だけ窓のように視界が開ける場所があり、ここに陽が沈んでいく。

幼少期、木の上の”秘密基地”と呼んでいた自分だけのお気に入りスポットで夕陽を眺めていた頃を思い出す。当時の緩やかな1日の終わりが蘇り、気持ちが和んでいく。こんなに真剣に夕陽と向き合ったのは、数年ぶりかもしれません。

ディナーはチェックインをしたKAZOで。

有名和食店でのキャリアを持つ実力派で地元出身の総料理長松本氏が、地元メインの三重食材で作る10皿からなる和食ベースのイノベーティブ・フュージョン。敷地内の農園や里海以外からも、近所のお母様や叔母様の畑から採れたて食材が毎日届くという恵まれた環境。これらの食材と三重県内の名品を組み合わせたメニューには、一皿ごとに松本総料理長のストーリーが存在し、並々ならぬ素材への愛情と愛着をひしひしと感じました。

お人柄が表れた穏やかな笑顔。地元食材をどのように表現(調理・工夫)していくかを常に考えているそう。
里海の恵を様々なスタイルでいただくコース「KAZO」。八寸盛り、赤はた・赤いか・本鮪のお造り、イセエビとタコの戦い、太刀魚のみぞれ揚げ出汁、金目鯛ポワレ、松坂牛フィレの炭火焼き。

伊勢海老、蛤、金目鯛、松坂牛などの”高級”とされる食材も登場しますが、全て地元産。三重県の豊かさを感じるとともに、かつては当たり前だった、自ら耕作した食材に近隣の食材を組み合わせた旬の食卓の有り難さを呼び起こしてくれました。

翌日の朝食も、もちろん地元づくしの素晴らしい献立でした。献立:鈴鹿米土鍋ごはん、厚削り鰹節味噌汁、しず(えぼ鯛)干物、出汁巻玉子、飛龍頭、自家製糠漬け、野菜のサラダ・煮物、伊勢鶏南蛮、南瓜と玉ねぎのポタージュ。

ディナーの後は焚き火で暖をとりつつ、”星のソムリエ”の島田氏の解説のもと星空天体観測。都会人には”満天の空”と形容したくなるほどの美しい夜空に浮かび上がる星座を教えてもらいます。オリオン座流星群の活動の極大時刻だったためか、流れ星も何回か目にできました。

このアクティビティも、庭に寝そべって夜空を眺め、星座にまつわる物語を思い浮かべていた小学生時代の夏休みを思い出しました。当時は都会でもこの程度は星が観えたのだと、失われたものの重大さに気がつきました。

翌日は総支配人天羽雅彦氏、プロダクトマネージャー本多俊輔氏、久保田優菜氏とともに英虞湾をクルーズして真珠養殖場の見学へ。表面はとても美しく深い色合いの海原が広がる英虞湾も、天羽氏と本多氏によると、海洋ゴミや気温上昇等による自然環境の変化により現在は養殖に最適の状態とは言えないとのこと。これは、シュノーケリング、カヤック、スタンドアップパドルボート(SUP)などのアクティビティを通してゲストに知ってほしい現実だそうです。志を同じくするクルーと共にCOVA KAKUDAの運営を介して、環境再構築に賛同するゲストの輪を広げ、地域の活性、ゆくゆくは真珠養殖場の繁栄を取り戻すことを目標にしていると熱く語っていらっしゃいました。

決して“開発”ではない、未来に向けた文化継承と環境再構築のために、地域に根差した地元企業と地元民が営む COVA KAKUDA。アクティビティを体験しバトラーやクルーのストーリーに耳を傾けることで、自身のリトリートとともに、文化伝承と未来への再構築について深く考えることができる、全く新しい体験型ラグジュアリーリゾートでの1泊2日でした。

COVA KAKUDA
https://cova-iseshima.jp/

Text/草間由紀

草間由紀 Yuki Kusama/食、美容、インテリアの外資ブランドを経て独立。ライフスタイル系ブランドのブランディング&PR会社「Fabcomm ファビュコム」 (https://www.fab-comm.com/)を設立。ブログでは、都会型ライフスタイル、食べ歩きに関する情報を更新している。Blog https://ameblo.jp/cuisine-3137301

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