世界の現代美術の最前線で活躍する村上隆氏。大多数が新作と話題の京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」展がついに京都市京セラ美術館(左京区)で始まりました。
日本の伝統的な平面的作画法がマンガやアニメにも通ずると「スーパーフラット」という概念を提唱し、世界中で活躍する村上隆氏。彼は今回、特に江戸時代の京都の絵師たちの傑作を独自に再解釈し、多数の新作を届けてくれました。
本展覧会は超大作『洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip』から始まります。その圧倒的インパクトに訪れた人は度肝を抜かれることでしょう。
信長、秀吉、家康の時代を生き抜いた戦国武将であり絵師の岩佐又兵衛が大坂の陣後、江戸初期に描いたと伝わる国宝『洛中洛外図屏風(舟木本)』は、左隻に家康の二条城、右隻には秀吉を祀る豊国神社や今はもうない大仏殿などとともに約2500人超の人々が描かれていて当時の京の町を今に伝える貴重な文化財として知られています。
それを新たに令和の時代に描き下ろした村上氏。サイズは元の屏風も4倍近い約13mの大作です。
村上氏独自のキャラクターが潜んでいたり、忍者を見つけた方はいますか・・・?また、金色の雲をよくよく見ると無数のスカルが・・・。
2011年より京都に居を移した氏が感じたこと。それは華やかな観光都市京都の下には死屍累々とした戦乱の歴史があるということ。それが展覧会のタイトル「もののけ」=物の怪、物の気ということでしょう。
確かに京都という地は千年もの間、日本の首都であり様々な歴史が折り重なった跡を今私たちは生きている。
見えないけれどもきっといる京都に暮らした人々の残り香や「もののけたち」に思いをはせながら今展覧会を楽しむと面白さ倍増します。
風神雷神図というモチーフはこれまで江戸初期の俵屋宗達や尾形光琳、江戸後期の酒井抱一らによってほぼ100年おきに模写されてきました。
それぞれ各時代の空気感が漂うこのモチーフを現代、令和の空気感で村上氏が描くと・・・!?
特に雷神の稲妻のギザギザをどう脱力させるか、また金箔、銀箔へのこだわりも見どころです。
そのほか、村上氏のキャラクターDOBくんやお花ちゃんたちが登場するポップな展示も人気。展覧会グッズも京都の和菓子からTシャツ、ぬいぐるみ、マスコット、アクセサリーなど充実のラインナップです。
また、この展覧会では新しい試みがいくつかなされています。
その一つが主題歌を作ったこと、しかも最新のラップで!
京都の四季の歳時記とコラボしたブースでは、世界で活躍するラッパー JP THE WAVYさんによる『Mononoke Kyoto』を聴くことができます。五山くんのエリアにあるQPコードを読み込んでください。
もうひとつの新たな取り組み、それは公的美術館の予算の獲得についてでした。
村上氏のように世界で活躍する一流アーティストともなると作品の輸送費や保険料などが高すぎてとうてい予算内ではまかなえない。そこで村上氏は今回の予算の半分程度を自ら稼ごうと知恵を絞り、自ら描くキャラクターのトレーディングカードを返礼品にするというアイデアで「ふるさと納税制度」を活用することに。これにより、なんと3億円の資金を集めたそうです。
結果、日本の文化事業を守り推進する先例になったことを誇らしく語っていらっしゃいました。
そのお陰で、この展覧会は、京都市に在住・通学の大学生以下は無料ですし、中学生以下ですと京都への通学、在住にかかわらず、どの地域でも無料で入場できることになりました。
3月上旬には美術館の日本庭園に『お花の親子』のブロンズ像も完成予定です。
また、9月1日(日)までの期間中、京都の歳時記や伝統行事、お祭りなどと連動したイベントも予定されているそうです。
村上隆氏のYouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@Takashi_Murakami も見てから行くと楽しさ倍増。おすすめです。
なお、図録は4月下旬からの販売予定です。
展覧会について詳細は公式HPをご覧下さい。
京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」展
会場:京都市京セラ美術館 (京都市左京区岡崎)
会期:2024年2月3日(土)~9月1日(日)まで
公式サイト https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20240203-20240630
Text /倉松知さと
関西在住。キャスター、歴史番組制作、京都情報ポッドキャスト制作などを担当後、京都・歴史ライターへ転向。歴史ガイドブック『本当は怖い京都の話』(彩図社)ほか、雑誌で歴史エッセイを連載中。京都、歴史ジャンルでのラジオ、テレビ出演、講演なども。日本旅行作家協会会員。