仙台の奥座敷として知られる秋保温泉。
奥羽山脈から流れる名取川の渓流沿いに佇む「界 秋保」は、自然や文化、そして土地に息づく美意識を、静かに味わうための宿だと感じました。
春の新緑、夏の深い緑陰、秋の紅葉、冬の雪景色。
ここでは景色を「眺める」というよりも、時間ごと包み込まれるような感覚で過ごすことができます。
東京駅から東北新幹線で仙台へ向かい、そこから車で秋保温泉へ。
日常から少しずつ距離を置いていくような道のりでした。
渓流に寄り添う、伊達のもてなし
到着後に案内されたのは、名取川の渓流に面した「せせらきラウンジ」です。
柔らかな光に包まれた空間でいただいたのが、伊達政宗公のもてなしの精神に着想を得た「伊達な茶会アフタヌーンティー」でした。

スイーツにはずんだのモンブラン
景色を切り取る、余白のある客室

客室「紺碧の間」に足を踏み入れると、自然と視線は窓の外へ向かいます。
名取川の渓流と木立が、まるで一枚の絵のように広がり、ソファはその特等席です。
客室内は、仙台ガラスや和紙、こけしの意匠など、宮城ならではの要素がさりげなく織り込まれ、空間に静かな奥行きを与えています。
歴史に育まれた湯に身をゆだねる

身体をしっかり温めるあつ湯と、める湯を行き来しながら、旅の疲れが静かにほどけていきます。
湯上がりには、身体だけでなく心まで軽くなるような感覚が残りました。
人と向き合う、伊達の酒席文化

夕食前には、ご当地楽「伊達な宴」に参加しました。
伊達政宗公が重んじた酒席の作法に触れながら他の宿泊客と盃を交わすひとときは、一夜限りの共同体のようでもあります。
単なる体験イベントではなく、人と人が向き合う時間の温かさを思い出させてくれる場でした。
山と海の恵みを一つの膳にした「山海宝づくし会席」

会席のメイン料理、台の物は「山海宝づくし鍋」。三陸の海の幸と宮城の山の恵みを一つの鍋に閉じ込めた、会席の主役。セリや牛肉、フカヒレ、鮑、雲丹、牡蠣など、宮城の名産品を味わい尽くせる一品。
デザートに供された、ずんだの濃厚な風味が印象的な「ずんだのカタラーナ」は、食後も幸せな余韻として記憶に残る一品でした。
夜の渓流、光のしつらえ

夜、名取川沿いで行われる「伊達なライトアップ体験」。
幻想的な光が渓流と溶け合い、昼間とはまったく異なる表情を見せてくれます。

せせらきラウンジの足湯付きのテラスでは、お茶やバータイムを自由に楽しめる空間です。地元で蒸留されたウイスキーにドライフルーツや牛タンジャーキーをあわせたおつまみと一緒に。
身体の芯からほどける、界マッサージ

ライトアップの余韻を身体の奥に残したまま、客室で受けた「界マッサージ」。
施術は、客室に備えられたベッド「ふわくもスリープ」の上で。まさに極楽です。
丁寧なカウンセリングの後、身体を預けた瞬間から、緊張がすっと抜けていくのが分かりました。気づけば深い眠りの中へ。
翌朝、目覚めたときには、身体が軽く、可動域が広がっている感覚がはっきりとありました。
朝の渓流とともに目覚める

翌朝は、「渓流釣り体操」から一日が始まります。
穏やかに体を伸ばす動きが、眠っていた身体を静かに目覚めさせてくれました。

窓の外の景色を眺めながらゆっくりと箸を進める時間は、旅の締めくくりにふさわしいものでした。宮城の郷土料理・芋の子汁の美味しさが染み渡り、仙台味噌をお土産に持ち帰りました。
体験が、言葉によって腑に落ちる
界 秋保で過ごした時間の余韻を抱えたまま、翌日、仙台で行われた星野リゾートの記者発表会にも足を運びました。
前日に体感した、渓流の音や土地の味わい、空間の静けさ。そうした感覚が身体に残っている状態で話を聞くことで、滞在中に感じていた心地よさが、言葉として静かに整理されていくのを覚えました。
体験が先にあり、その後に背景を知る。
その順序だったからこそ、この滞在は、より立体的な記憶として心に残ったように思います。
旅の終わりに

界 秋保は、自然や文化、時間の使い方の一つひとつが、丁寧に設計された宿だと感じました。
忙しい日常を生きる大人にとって、ここで過ごす時間は五感にゆっくりと栄養を与えてもらうような、とても豊かなひとときです。
名取川の渓流、湯の温もり、土地の味わい。
そのすべてが静かな余韻となって、今も心の中にふわりと残っています
界 秋保 https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaiakiu/
Text/神尾由紀

シンガポール・東京を拠点に執筆。JETRO「Singapore Style」取材体験を背景にNHKラジオなどに出演。