ボストン美術館から武者たちの物語が浮かぶ 刀剣や浮世絵たちが里帰り

日本とゆかりが深いボストン美術館所蔵から厳選した武者絵の浮世絵118点と刀剣20口のコレクションの里帰り展示【ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」】が、1月21日(金)から東京・六本木 森アーツセンターギャラリーで開催されています。

展覧会の様子

ボストン美術館といえば、アメリカを代表する美術館の一つ。古代から現代までの収蔵品は50万点を超え、そのうち約10万点は日本美術のコレクションです。特に浮世絵については他に類を見ない質と量。これは日本美術に深く傾倒したウィアム・S・ビゲローをはじめとする明治時代の日本美術研究者の個人コレクションが基盤になっています。また、のちに東京美術学校(現・東京藝術大学)初代校長になる岡倉天心が日本とアメリカを何度も往復し、同美術館東アジア美術コレクションの構築に多大なる貢献をしたことも忘れてはなりません。天心はボストン美術館中国・日本美術部長にも就任し、現在ボストン美術館には「天心園」という日本庭園もあります。

歌川国芳「川中島信玄謙信旗本大合戦之図」 弘化2年(1845)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

浮世絵は「美人画」「役者絵」「風景画」などいろいろなジャンルに分かれますが、今回は浮世絵の中でも“武者絵”=“HEROES”にフォーカスしています。浮世絵自体は江戸時代の絵画様式の一つ。展示は描かれた時代に沿って進みます。最初は神話時代のスサノオ、平安時代は酒呑童子や土蜘蛛を倒した源頼光、戦国時代の川中島の戦いを描いた浮世絵では武田信玄と上杉謙信の姿が勇ましく描かれています。「南総里見八犬伝」の登場人物のようにフィクションのヒーローたちの浮世絵もありますし、男性だけでなく平安時代の女武者・巴御前の凛々しい姿の浮世絵もあります。主な浮世絵のテーマを説明した4コマ漫画の解説もすぐ横に展示してありますから、「この話、なんだったっけ?」とうろ覚えでもすぐに思い出せますよ。

歌川国芳「天狗の加勢を得て戦う牛若丸と弁慶」嘉永3年(1850) William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

私が一番気に入った浮世絵は歌川国芳「天狗の加勢を得て戦う牛若丸と弁慶」。千本の太刀を奪うという願を立てて、999本まで手に入れた弁慶。いよいよ千本目と五条橋を渡る牛若丸を襲ったのですが、鞍馬山の天狗に鍛えられた牛若丸には敵わず、家来になったという有名な場面です。画面左手には軽やかな身のこなしと美しい顔立ちの若者の牛若丸がに、右手にはがっしりとした強面の弁慶。その間にはおどろおどろしい鞍馬山の天狗がずらり。それぞれの描かれ方の対比に面白みを感じました。

歴史上の名場面の時代を追って一つ一つの浮世絵を観ていくと、力強い”HERO”たちから私自身も力をもらったかのよう。元気と勇気が湧いてきます! 

刀 無銘 伝長義 南北朝時代(14世紀) William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

浮世絵の横には、同じテーマが描かれた刀の鐔(つば)が。刀の鐔は、手を守るために刀身に付けるパーツ。しかし、江戸時代、天下泰平の世に入り合戦などがなくなるにつれ、徐々に装飾的な要素が高まります。形は楕円・丸みを帯びた四角・六角形・八角形など様々。鍔鐔の表面に人物や風景が浮き彫りで描かれ金を用いた装飾が施されているだけでなく、透かし彫り等の技法を用いて作られているものも多数あります。日本人の多くが長い年月心を躍らせてきたヒーローたちは、浮世絵というある程度の面積がある紙の上だけでなく、鍔鐔というわずか数センチ角の金属の中でもモチーフとされているのです。

圧巻なのは最後の展示室。ボストン美術館収蔵の約600口の刀剣の中から厳選した作品を展示、時代・製作地・流派もさまざまな日本刀を一挙観ることができます。「刀ってどれも同じに見えて、よくわからない」という方が多いと思います。刀剣の見方のコツは、軽く膝をかがめて照明が刀によく当たるポイントを探すこと。刀の地金の中に砂粒のような模様や渦巻き模様が見えてきて、一口一口の特徴が観察できます。刀の切れるところ、刃(は)に沿って付けられる“刃文(はもん)”も刀によって様々で、真っ直ぐシンプルに入っているもの、雨だれのようなもの、霞がかかったようなモヤっとしたもの、比べて観ていくと違いがわかります。刀身自体の幅や反り方もそれぞれです。展覧会アンバサダーで俳優の黒羽麻璃央さん、そして声優・小西克幸さんが音声ガイドで刀剣についてもじっくり解説してくださっていますので、こちらをお聞きになりながら刀剣の世界に触れてください。

私が最も心惹かれた刀は《刀 金象嵌(ぞうがん)銘 光忠》。音声ガイドで黒羽麻璃央さんが語られているように、黒羽さんが“故郷の宮城で風の穏やかな冬の朝に川や湖に立ち上る霧のような”と形容されている美しい刃文が特徴です。13世紀、鎌倉時代の作です。700年以上前にこのような美しいものを作る技術があり、その作品や技術が現在まで受け継がれてきたということは素晴らしいと思いませんか?

玉鋼ビスコッティと刀剣ポストカードのセット
レストランTHE SUN & THE MOONの家紋をモチーフにしたスイーツ 義経 春のデザート 薄緑 1,600円(税込) ※後期メニュー:2月21日(月)~3月25日(金)提供

ミュージアムショップでは、日本刀を作るときの元になる素材「玉鋼(たまはがね)」を模した“玉鋼ビスコッティと刀剣ポストカードのセット”という刀剣好きの心に刺さる面白い商品

を発見、もちろん購入しました。森アーツセンターギャラリーの隣にあるレストランTHE SUN & THE MOONでは浮世絵の中に出てくる家紋をモチーフにしたスイーツやカクテルなどのコラボメニューが提供されています。

ボストンの地で長年大切に保存されてきた作品たち。歌川国貞・歌川国芳・歌川広重・月岡芳年など有名絵師の浮世絵は全て日本初出展です。また、名刀の多数は半世紀ぶりの里帰りとのこと。またとないシチュエーションにどっぷり浸かってください!

【ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」開催概要】

【会期・会場】

2022年1月21日(金)~3月25日(金)森アーツセンターギャラリー

【開館時間】

午前10時~午後8時(火曜日のみ午後5時まで)最終入館は閉館30分前まで

【休館日】

会期中無休

【観覧料】

一般2100円、大学生・専門学校生1500円、高校生・小中学生1000円 事前予約制(日時指定券)、当日券も会場で用意あり

【問い合わせ】050-5542-8600(ハローダイヤル)

【展覧会公式サイト】https://heroes.exhn.jp/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。

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