古今東西の美術品が語りかけてくる【ボストン美術館展 芸術×力】

アメリカを代表する美術館の一つ、ボストン美術館。私もボストンに行くと必ず立ち寄ります。収蔵品は50万点以上。何度訪問しても観るものがいくらでもあり、大好きな美術館の一つです。今回の「ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)」では、およそ60点の作品が来日しています。

ボストン美術館は、日本を含む東アジア美術の優れたコレクションを保有することで有名です。これは、明治初期のお雇い外国人アーネスト・フェノロサ、医師で日本美術研究家ウィリアム・スタージス・ビゲローなどが収集した日本の美術品をボストン美術館に寄贈したことによります。また東京美術学校(現・東京藝術大学)の設立に貢献した岡倉天心がボストン美術館中国・日本美術部長を務めていたこともあり、日本との結びつきが強い美術館でもあります。日本美術のコレクションの展覧会が開催されることもあり、2015年夏に私がボストン美術館を訪ねた際は「HOKUSAI」展が開催されており、日本では観ることができない北斎の作品をたくさん鑑賞することができました。

今回の展覧会のテーマは【芸術×力】。人類史において、芸術や芸術家は時の権力者の庇護の下で発展し、保存されてきました。権力者もまた芸術を利用して、自身の権威や正統性を示してきました。いつ誰が作らせたものなのか、どのように観られてきたかということを辿る展覧会です。

《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》(ロベール・ルフェーヴルと工房 1812年)

会場に入って、まず眼を引く大きな作品。《戴冠式の正装をしたナポレオン 1 世の肖像》 (ロベール・ルフェーヴルと工房 1812 年)は、今回の展覧会のテーマを表した代表的な作品といえます。ローマ帝国の象徴であった鷲がついた笏を持ち、頭には金の月桂冠を戴き、身にまとう深紅のマントにはオコジョの毛皮が。コルシカ島で生まれた一貴族であったナポレオンが、フランスを統治する「正統な権力者」であることを示すかのような豪奢な堂々とした描かれ方です。

ナポレオンは、宮殿のみならず国中にこのような 肖像画を飾らせて、多くの人々にその権威を知らしめたとのこと。一方、現代の私たちか ら見ると、この絵は美しい絵画として鑑賞するだけでなく、時空を超えてナポレオンと相対できる作品です。

《吉備大臣入唐絵巻》(平安時代後期―鎌倉時代初期、12世紀末)部分
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今回の目玉作品の一つ《吉備大臣入唐絵巻》(平安時代後期―鎌倉時代初期、12世紀末)は およそ10 年ぶ りの来日。奈良時代、遣唐使・吉備真備が、先に唐に渡って亡くなり鬼となった阿倍仲麻 呂の助けを借り、直面するさまざまな困難を解決していくという絵巻物です。

唐人たちは、吉備真備を幽閉し、「文選(もんぜん)」という難解な試験を課しますが、 阿倍仲麻呂と飛行自在の術を使って宮殿に入り込み、試験の準備をしている学者たちの話 を盗み聞きします。そして、見事試験をパスします。宮殿に盗み聞きに行くために飛行の 術を使って吉備真備と阿倍仲麻呂が空を飛んでいる姿が、ユーモラスでもあり、アニメや 漫画のようでもあり、私は会場で行きつ戻りつして何度も見直して、つい口元が緩んでし まいました。12 世紀末に成立したとは思えない、躍動感溢れる表現力で、ワクワクします。

同上 部分

この絵巻は、後白河天皇がパトロンとして作成させたと言われていますが、その後の時代は寺社・豪商・大名らが保有していたとのこと。関東大震災とその後の不況で買い手がつかず、昭和7年(1932年)にボストン美術館によって購入されました。日本に残っていたら確実に国宝に指定されているはずと言われています。美術品の海外流出については意見が分かれるところですが、この作品については大正時代に買い手が見つからなかったこと、その後第二次世界大戦で本土にも攻撃があったこと、日本には天災が多いことなどを考えると、日本美術に理解がある美術館が所有してくれていたことは良かったのではないかと私は思います。

左右:セーブル磁器製作所《平皿(「マルメゾン白の植物のセルヴィス」より)》1803-1804年
中央:同 1804-1805 年
オスカー・ハイマン社、マーカス社のために製作《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》1929年

他にも、古代エジプト王朝のレリーフやペンダント、西洋絵画、60カラットの巨大なエメラルド、ナポレオンの妻ジョゼフィーヌが愛用していたセーヴル焼きの食器、刀剣、仏像など、展示作品はとても幅広い分野からになっています。芸術における古今東西の「力」あり方を示しており、またボストン美術館のコレクションの幅の広さを表しています。

この展覧会は、ボストン美術館設立150周年にあたる2020年に開催予定でしたが、コロナ禍で中止に。2年経ち、この度開催の運びとなりました。150年前のボストン美術館設立の際は、著名人や篤志家が多額の寄付をしましたが、数十セント程度のわずかな金額の寄付を行った市井の人々も多かったそう。「力」とは対局にある一般庶民からの多くの寄付で設立されたというエピソードがあるボストン美術館からの至宝をじっくりお楽しみください。

ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)

会場:東京都美術館(台東区上野公園8-36)

会期:2022年10月2日(日)まで
*日時指定予約制。当日券あり(ご来場時に予定枚数が終了している場合もあります0

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

展覧会公式HP :https://www.ntv.co.jp/boston2022/

Text /トラベルアクティビスト真里

世界中、好奇心を刺激する国々を駆け巡るトラベルアクティビスト。外資系金融機関に勤務の後、1年の3分の1は旅をする生活へ。ジョージア、バルト3国はじめ訪れた国は50カ国以上。日本中も巡り、行った先で出会った人、風景、食etc. 旅の醍醐味をレポートします。


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