朝晩の冷え込みが一段と厳しくなり、冬の訪れを肌で感じる季節。年末の慌ただしさからエスケープして暖かな地でゆったり過ごしたくなりますね。内側から体を調えて、心身の健康を取り戻す滞在が出来たら、寒い冬を難なく乗り切れる活力が自分の中に宿りそうな気がしませんか?
そんな滞在を求めて訪れた「星のや沖縄」は、年間を通して気温が安定した温暖多湿な読谷村の美しい自然海岸沿いにあります。全室、海が広がるオーシャンフロントで、刻々と表情を変える海を眺め、時を忘れて過ごすことのできる別天地です。
美食養生なダイニングのコース料理と見事なワインペアリング
海辺の空気と一体となって憩うだけでも養生になりますが、ここは口福に浸りつつ健やかな美へと導かれる、夢のような美味探求ができます。土地の食材で美へと導く「琉球ガストロノミア〜Bellezza〜」は、医食同源の教え「クスイムン(=薬になるもの)」から着想を得て沖縄特有の食材や料理文化にイタリア料理の技法を組み合わせたコース料理。2025年2月末まで提供される冬メニューとのペアリングは、トスカーナの「バレナイア」のワインを中心に構成されています。その生産者のお話を直接聞きながら、コースを堪能する機会を得ました。
特別イベントでは、ディナータイムに入る前にまずは「かちゅー湯」で体を内部からケアをしました。
かつお(=かちゅー)節と味噌に熱湯を注いだだけのシンプルなスープで、沖縄では伝統的に、風邪や二日酔いの際によく飲まれる家庭療法的なものです。冷えた体をリセットし、胃腸の働きを助けます。シェフオリジナルのかちゅー湯はカツオに滋養強壮の作用が期待できるイラブー、オリーブオイルとシークヮーサーを合わせて。青いシークワーサーの果皮の爽やかなフレーバーが、食欲をかき立てます。
アペロタイムは、ビーチで。
波音に包まれ、息をのむような美しいサンセットを眺めながら飲む1杯は、この後に続くディナーへの期待感を高めます。ワインは「バレナイア センツァ・テーラ ビアンコ フリッツァンテ 2022」。グラスの中の液体のオレンジがかった色は水平線に沈む夕日とリンクして高揚感を生み、瓶内二次発酵による微発泡の優しい口当たりが心を穏やかにし、そんなゆらぎの中に身を置く心地よさは、筆舌に尽くしがたいものでした。
ペアリングしたワイン、トスカーナの「バレナイア」は、クラウディア(左)&イヴァン・キリコ夫妻が耕作放棄されていた海抜500mのテラス状の畑を2016年に購入して立て直し、2020年に初ヴィンテージを世に出したワイナリーです。
都会でグラフィックデザイナーをしていたイヴァン氏は、ある日、自然農法を提唱した福岡正信氏の著書に出合い、田舎で自然を感じながら生活したいと決心。ビオディナミ農法も取り入れ、在来品種や樹齢の高い古木のブドウから、土地の文化や歴史を重視したワインづくりを実践しています。
7種のアイテムのワインとのペアリングは、政井茂総料理長を中心としたチームで試作を重ねて完成させたものです。中でもキリコ夫妻を驚かせたのは、オレンジワインの「バレナイア ビアンコ 2020」に合わせた「豚肉のカモミール蒸し」。2020年は乾燥した年だったため、薬草学を修めたクラウディア氏のアイディアで、カモミールを浸漬した水を畑に撒きストレスを和らげる処置を行っていました。その背景を知らずに、ワインの中の微かなカモミールの要素を感じ取り、この調理法を選択したチームに、ふたりは賞賛の言葉を惜しみませんでした。
ペアリングコースの最後には、食前酒として使われたフリッツァンテが姿を変えて再登場。沖縄の冬の風物詩と言われる柑橘、タンカンをワインに入れて凍らせ、その上からワインを注ぐ、心華やぐ演出のデザートドリンクです。ドルチェのタンカンのクロスタータに合わせて飲むと、青みと酸味が同時に感じられ口中にフレッシュさがもたらされます。
今回が初来日、東京と大阪でのプロモーションを終え、締め括りが沖縄でのディナーだったというキリコ夫妻。「食べながら世界を旅しているかのような夢見心地のひとときだった」と楽しそうにこの食体験を振り返っていました。
琉球の発酵文化に根ざした滞在や運動とスパイスで心身を整える滞在も
ワインも醗酵を経たものですが、沖縄には琉球王朝時代から続く発酵⽂化が根付いています。⿊麴を使った泡盛をはじめ、⾖腐ようも代表的な沖縄発酵食品のひとつ。ここには発酵の力で⼼⾝の不調を和らげる「琉球発酵滞在」というプログラムを12月30日まで期間限定で提供しています。キッチンスタジオでは、豚⾁を炒めて味噌や泡盛や⿊糖を煮詰めたアンダンスー(油味噌)を作る体験を。夕食には発酵コンディメントとともに味わう「琉球発酵しゃぶしゃぶ」を部屋食で。個室で気がねなく鍋を囲む食卓では会話も弾み、消化にも良いディナーとなった気がします。
翌朝、部屋に運ばれる朝食にも、「ちんぴん」という沖縄風黒糖ガレットに撒いて食べるものとして、黒麹チーズ、アンダンスー、醗酵パパイヤジャムなどがあり、こちらも発酵食材が並びます。目覚めの時から健やかな⼼⾝に導かれる充実感に満たされました。
心身を調えるプログラムとして、もうひとつ注目したいのが「気巡りスパイス滞在」です。冬でも快適に屋外アクティビティを楽しめる温暖な環境で、ビーチをウォーキングしたり、加温プールで水中エクササイズや浮遊浴をしたり、美しい景色を眺めながら身体を動かします。キッチンスタジオ併設のハーブガーデンで摘んだスパイスをテイスティングして、自分の好みのお茶に仕立てて飲み、スパイスオイルとシロップ作りをするワークショップも。瓶詰めして持ち帰れるので、部屋で楽しむもよし、お土産にするもよし。運動とくつろぎ、スパイス効果の相互作用により、気の巡りが良くなり心と体がほぐれて行くのが感じられます。
良きものを体に取り込み、その効果を体感するには、その地の空気に溶け込んで一体となれる2泊3日からの滞在がお勧めです。でも、星野や沖縄に滞在中、隣接する「バンタカフェ by 星野リゾート」に足を運んでみるのもよいでしょう。
こちらでも海辺の絶景が目の前に広がっています。水平線を一望できる「大屋根デッキ」、崖の上から浜辺へと続く散策路にある「海辺のテラス」、波に削られた大きな岩陰にある「岩場のテラス」、ソファに寝転んで海を眺める「ごろごろラウンジ」の4つのエリアがあり、様々な季節のイベントが繰り広げられています。この時は、「海辺のやちむん(焼き物)市」が開催されていました。「ごろごろラウンジ」内の海を望む窓辺に「マカイ」と呼ばれる碗が並び、のんびり過ごしつつ作品の魅力にじっくり向き合うことのできる心地よい空間となっていました。
星のや沖縄
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyaokinawa/
Text /近藤さをり
ワイン&グルメPRスペシャリスト。ドイツで5年間、日本企業のワイン仕入・販売や、現地ワイナリー勤務を経て帰国。洋酒メーカー広報部、PR会社勤務を経て現在に至る。カリフォルニアワインのPRに15年以上携わる間も、執筆活動は国やジャンルを問わず。JSA認定ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定ビアソムリエ。