現在、シカゴ現代美術館(Museum of Contemporary Art Chicago)で反響をよぶヴァージル・アブローの初の展覧会『VIRGIL ABLOH: “FIGURES OF SPEECH”』(ヴァージル・アブロー:“フィギュアズ・オブ・スピーチ(言葉の姿)”について、Part 1に続いて長野尚子さんがレポートしてくれました。トップ画像:展示入口の巨大アート。ヴァージルが影響を受けた様々なシーンが巨大壁画のように並ぶ。 Photo /Shoko Nagano
白人の黒人の狭間
ガーナ人移民の両親の間に生まれたヴァ―ジルは、いわゆる「奴隷のルーツ」を持たない黒人(アフリカ系アメリカ人)だ。中西部の保守的な街で生まれ育つなかで、彼は同じ肌の色を持つ人間が社会のなかで多くの不条理と戦わざるを得ない現実に向き合ってきたにちがいない。その疑問や怒りを投影してきた作品はまさに彼の歴史そのもの。だからこそ、美術館という安全な場所を借りることでひとりでも多くの若者に見てもらえるチャンスをと願ったのだろう。
白人優位主義の傾向が強い保守的なファッション業界において、しかも世界トップの高級ブランドのチーフ・ディレクターに抜擢されたことで、良くも悪くもヴァ―ジルは業界から注目される存在になった。それでも彼に気負いは感じられない。あくまでシカゴを拠点とし、シカゴの建築やアートや音楽、ストリート文化などにインスパイアされながら、さまざまなシーンで彼の後に続くであろう若者へ発信を続けている。
ヴァ―ジルのことをあまり知らずに美術館に向かう途中、偶然「Off-White」の熱狂的なファンだという知り合いの女性にばったり遭遇した。「ヴァ―ジルはすごく頭がいい人。どんな批判や批評をも受け止め、しっかり理論武装できている。何度でも(展覧会に)通うつもり」と興奮気味。
一方で、“裁縫のいろはから学んだ”昔ながらのベテランデザイナーの友人は、「ヴァ―ジルはシカゴという土地、今というこの時代の流れにうまくはまったんだろうね。ただそれだけのことさ」と多くを語らない。
どれもこれも、ヴァ―ジルは肯定し、議論のネタにしていく。したたかな人なのである。
◆VIRGIL ABLOH:“ FIGURES OF SPEECH”
会期:2019年 6/10(月)~9/29(日)
MCA Chicago 220 E Chicago Ave Chicago, IL 60611
☎312・280・2660
月水木土日:10 am – 5 pm(最終入場 3: 30 pm)
火・金:10 am – 9 pm(最終入場 7: 30 pm)
一般 $15、シニア・教員・学生 $8、18歳以下は入場無料。
https://mcachicago.org/Exhibitions/2019/Virgil-Abloh
◆“ FIGURES OF SPEECH” 今後の展示会開スケジュール
・High Museum of Art, Atlanta: 11/9 – 3/8, 2020
・ICA Boston: 7月~9月, 2020
・Brooklyn Museum, New York: 2020年冬 ~ 2021春
Text /長野 尚子 取材協力/斉藤博子
フリーライター、編集者。(株)リクルートの制作マネージャー&ディレクターを経て、早期退職。アメリカ(バークレー)へ単身“人生の武者修行”に出る。07年よりシカゴへ。シカゴのアート&音楽情報サイト「シカゴ侍(www.Chicagosamurai.com」編集長。四国徳島とシカゴの架け橋になるべく活動中。著書に『たのもう、アメリカ。』(近代文芸社)。http://www.shokochicago.com/ 日本旅行作家協会会員。