スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、古くは松下幸之助といった一流の経営者たち、またイチローなど一流のスポーツ選手は、みな瞑想の習慣を持ちマインドフルネスを実践していました。そしてGAFAやYahoo!などグローバル企業は、社員研修として、マインドフルネスを積極的に導入しています。近年、マインドフルネスは全世界規模で大きな注目が集め、そして日本でも、昨今のコロナ禍による外出自粛によるストレス過多な状態を、マインドフルネスで緩和しようという動きが盛んです。
前回は、脳がマインドフルネスの反対だと、すべきことに集中できない、脳が疲弊する、幸福感が下がると、お伝えしました。ではマインドフルネス(=あれこれ考えず、ただ目の前のことに集中する姿勢)を実現できると、どのような効果があるのでしょうか? また効果を得るための具体的な方法を、今回はお伝えしていきます。
科学的にも証明されているマインドフルネスの効果
最新の脳科学では、マインドフルネスは様々な効果があると科学的に証明されています。「集中力・注意力の向上」「生産性の向上」「ストレス耐性の向上」「クリエイティビティの向上」「コミュニケーション能力の向上」などです。
たとえば「集中力・注意力の向上」については、2007年、2013年にトロント大学のファーブ博士らが、マインドフルネスによって、脳のセイリエンス・ネットワーク(気づきのネットワーク=外界からの知覚、内部感覚を統制するときの活動部位)を構成する大脳の島皮質が活性化することを証明しています。雑多な情報の中から最適なものを抽出する能力が向上し、脳が整理整頓され、雑念がなくなります。かつ脳のエネルギー浪費が最小限になることで、本当に必要なことだけにエネルギーを向けることができ、脳がクリアになるのです。
マインドフルネスな思考法=“気づき”が重要
マインドフルネスを実践するためには「マインドフルネスな思考法」と「瞑想のトレーニング」の2つがポイントになります。
マインドフルネスな思考法は、つぎの三段階で考えてみるとよいです。
①考え方の癖に気づく ②雑念や思い込みを手放す ③今、この瞬間に集中する。
例えば、上司からきつい言葉をかけられたときのあなたの心を観察してみましょう。「上司から自分は嫌われているからだ」「これまでの失敗が原因だ」「また失敗したら、さらに嫌われて、評価も下がってしまう」など、ネガティブ思考のループ(考え方の癖)に陥って、そのストレスから身動きできなくなってしまうのではないでしょうか?
そんなときまずは、①考え方の癖に気づく=勝手に不安や心配のネタを探してないか?決まってもいないことを心配していないか? ②雑念や思い込みを手放す=上司に対する恐れ、自分が失敗や評価への不安を持っていることに気づいたうえで、それをいったん手放す。③今、この瞬間に集中する=上司の状況やきつい言葉をかけた理由を客観的に考え、冷静に上司と話しをし、今できることを選択する。客観的になれると、「上司は忙しくてイライラしているのかもしれない」「社長からプレッシャーをかけられたのかも」など、思考の選択肢が増えて心に余裕も生まれます。
まず気づく、認知することが重要です。「自分は不安を感じている」「焦っている」「困っている」と、ただ気づく。気づいたら、自分や他者を批判したり、逃げたりせずに、少し距離を置いて見てみる。そして、自分がなぜそうなっているかの原因や理由を探し、客観的に見つめることで、「あ、また考え方の悪い癖だ」「まだ起きてもいないことを不安に思っても仕方ない」「今できることをやるしかない」と、ネガティブ思考のループ(考え方の癖)に支配されている状態から自分を開放していきます。これがマインドフルネスな思考法です。
瞑想は“気づき”のトレーニング
もう1つのポイントは、瞑想トレーニング。基本の型としておすすめなのは、座って呼吸をするだけの「呼吸瞑想」です。座った姿勢で目を軽く閉じ、自然に、呼吸をし、その様子を自分で観察します。呼吸は、ゆっくりと鼻から吸い、鼻から吐きます。鼻の穴を出入りしている空気の流れや、胸やお腹が膨らんだりしぼんだりするのを感じます。
初めのうちは、数秒で、頭の中に雑念が湧いてきます。「これで瞑想できているの?」と疑問がわいてきたり、「あ、仕事のメールを返信しないと」「あの企画、こんなやり方はどうだろうか」「今晩は何を食べようか」など、さまざまな過去や未来のことに意識が向いたりします。これらの雑念はわいてきてよいものです。雑念にわいていることに気づいたら、我に帰って、「ああ、今、別のことを考えていた」と、また呼吸に意識を戻します。雑念に気づくことがまさにマインドフルネスなのです。
私はマインドフルネスな呼吸瞑想を毎朝5分して約1年になります。この習慣によって、自分の心の状態に気づけるようになり、気づいたうえで、自分の置かれた状況を客観的に見つめることができるようになってきました。すると、必要以上の後悔や心配に支配されることなく、今できることを最大限やろうと前向きに一歩踏み出せます。ネガティブ思考のループにも肩の力を抜いて、少し客観的な視点で眺めて、不安やストレスがコントロールできるようになり、私自身はとても生きやすくなりました。
先日、私が企画・マーケティングを担当するマインドフルネス瞑想をしてストレス軽減を目指すアプリ「ストレスマネージャー」が、「WBS(ワールドビジネスサテライト)」(テレビ東京系・夜11時~11時58分)の新商品や新サービスの紹介をする「トレンドたまご」コーナーで紹介されました。マインドフルネスや瞑想は、もはや「トレンド」なのです。
次回は、「【不老脳 (7) 】ルーチンや単調が招く脳の萎縮を防ぐには? 脳はとても省エネな臓器で、常にエネルギーをセーブしようとします。そして使わなければ、衰えるのです。
Text / 糸藤友子
リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、50歳で脳科学ベンチャーへ。母の死をキッカケに健康寿命の延伸をミッションと決める。「人生は1回きりの旅である」から、いろいろな人と出会い、様々な体験をして、豊かに生きたいと願う。ベンチャーでは、脳を計りながら鍛える“最新”脳トレサービスを立ち上げ中。
【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/