外出自粛が緩和されて、少しだけ日常が戻ってきたかのように思えます。とはいえ、例年通りに海外に行くことは難しい夏休み。今年は「近場で短期に贅沢な休日」が正解なのかもしれません。東京から約1時間半、密を避けつつ非日常を味わえてリラックスできる、とっておきの隠れ家宿を紹介します。
鎌倉の歴史が育んだ自然の美が導く極上のリラックス
訪れたのは、鎌倉駅からホテルの送迎車で10分程度の風情ある邸宅地に佇む「鎌倉古今」。江戸時代から160年あまりの間住み継がれた古民家をリノベーションしたホテルです。“リノベーション”というと建物の枠組みのみを残し内装や庭園をモダンに作りかえることも多く、せっかくの風情が失われて残念に思うこともあります。しかし「鎌倉古今」は、到着した時に周りの邸宅との違いがわからなかったほどしっくりと風景に馴染んでいるのです。
黒壁に沿ったアプローチを進むと、地形の高低差が生み出す緑のグラデーションが目に飛び込んできます。木々と土の香りに包まれて、苔むす石に縁どられた池を眺め小鳥のさえずりに耳をかたむける。160年間かわらない美しさの庭園にたたずんでいるだけで、都会の喧騒から身心ともに解放されるのは驚きです。
手を加えたのは必要最低限のみ。大地主のかつての生活を垣間見れる2組限定のスイートルーム
自然に癒され一息ついたら館内へ。洋家具を配した八畳ほどの日本間でドン・ペリニヨンをいただきながらチェックインを済ませます。
庭園を囲むように家屋が建ち、どの部屋からでも美しい自然の風景が目に入る造りがとても贅沢。さつきが満開になる春、紅葉と常緑樹のコントラストが美しい秋、雪景色を愛でる冬、と四季折々の変化を楽しみに再訪したいと今から気持ちが逸ります。
住居時代の間取りを引き継ぎ、障子や欄間、大正硝子がはまった引き戸も昔のまま。画像手前は関東には珍しい内蔵で、中身を取り出し洋風リビングとロフト風の寝室に。必要な部分にだけ手を入れてできるだけ昔の様相を残したリノベーションで非日常を感じる空間に生まれ変わり、タイムトリップしたような気分にさせてくれます。心なしか普段よりもゆっくりと時間が流れている感覚を覚えます。かつてここで暮らしていた人々の日常に思いをはせて、無意識のうちにデジタルデトックスも。
もちろん老朽化した部分は補強したり取り替えたり、床暖房が完備され現代人に必要な設備は整っているのでご安心を。
宿泊は4名までのメゾネットスイートが家屋の端と端に1室ずつ。各部屋にマイクロバブルバスを備えた浴室、ミニキッチン、無料ドリンクが入った冷蔵庫、コーヒーマシンが完備。ディナーはカウンタースタイルのレストラン、朝食は部屋か一組ずつ食事をする個室を選べるので、他の宿泊客との接触がほとんどなくプライバシーが守られています。特にこのご時世には安心して宿泊できる宿だと思います。
自然派レストランの巨匠 奥田政行シェフ監修の五感で楽しめる個性的なモダンイタリアン
鎌倉や相模湾の食材をメインに組み立てられたイタリアンベースのディナーコースは、食材の持ち味を活かした独自の調理法で有名な奥田政行シェフが監修しています。
美しい色彩と香りが食欲をそそるモダンなプレゼンテーション。素材の美味しさを引き出す工夫がまた楽しさにもなり、小さな驚きが続きます。レモンシャーベットがのったミネラルがたっぷりの岩牡蠣に添えられたのはブッラーターチーズと個性豊かなシチリア産オリーブオイル。心地よい冷たさで鋭敏になった舌の上でミルキーな牡蠣とブッラーターチーズがとろけ合い、レモンとオリーブオイルの力強い果実味が、山と海の恵みをきれいにまとめています。またパスタのソースに大胆な塩味をほどこして雲丹の甘みを最大限に引き出した「烏賊墨のパスタ雲丹添え」など、味わいのコントラストがわかりやすくて、誰もがリラックスして最高の「美味しい」を楽しめるお料理で構成されているコースです。
ペアリングもワインのみにとどまらず、日本酒、和茶など新しい発見が楽しめる組み合わせが印象的でした。
ディナーとランチは宿泊客でなくても予約できるので、鎌倉のお気に入りレストランとして覚えておきたいです。
そして朝食は、鎌倉近隣の名店の美味しさを少しずつ盛り付けた御膳スタイル。
週2日しか営業していない増田豆腐店のがんもどき、尾粂商店の鯖干物、岩沢ポートリーの姫様のたまごの出汁巻などのおかずを、炊き立ての土鍋ごはんといただきます。使っているのは蔵の中に眠っていた漆器。かつての住人もこのような朝食をとっていたのかと想像がふくらみます。
快眠を約束するマイクロバブルバスとエアウィーヴベッド
日本の宿の特色と言えば温泉ですが、鎌倉古今の周辺には源泉がありません。24時間入浴可能なマイクロバブルバスで、リラックスでき美容にも嬉しいバスタイムを提供しています。
微炭酸のお湯が血行を促進。洗浄力が高く、泡が毛穴に入り込んで身体を芯から温め、マイナスイオンを発生させてリラックスや疲労回復が期待できるとか。私は就寝前には水をたしてぬるめに、朝起きてすぐは熱めの温度で入浴しました。シュワシュワと身体を包むお湯は気持ちがよくて思わず長風呂になってしまいます。
バブルバスで身体がほぐれたらベッドに直行。最高の睡眠環境の代名詞とも言われるエアウィーヴのマットに身を横たえると、まどろむこともなく深い眠りに落ちました。自分の睡眠状態を把握できる「スリープマイスター」というアプリを使っているのですが、この時の睡眠は睡眠効率が91.1%、睡眠スコアが84.3とかなりよい数値でした。
目覚めとともに美しい緑が視界にとびこんでくる寝室のレイアウトも素敵です。朝風呂と朝食のあとは11時半のチェックアウトまでこちらの部屋でのんびりと過ごしました。
プライベート感あふれる空間でゆったりとした時間を過ごす贅沢。いい意味で“ホテル”を感じさせず、友人の別荘に招かれているような滞在でした。自分流の時間の過ごし方をアップグレードし、自分で楽しみをみつけられる大人におすすめの隠れ家宿です。
鎌倉古今 https://www.kamakura-cocon.jp/
Text/草間由紀
草間由紀 Yuki Kusama/食、美容、インテリアの外資ブランドを経て独立。ライフスタイル系ブランドのブランディング&PR会社「Fabcomm ファビュコム」 (https://www.fab-comm.com/)を設立。ブログでは、都会型ライフスタイル、食べ歩きに関する情報を更新している。Blog https://ameblo.jp/cuisine-3137301