【不老脳 (5) 】脳にいいマインドフルネス 前篇「将来が心配…それは脳の癖では?」

新型コロナウイルス感染症の拡大で在宅勤務が進む中、約6割の企業で「仕事上でのストレスを抱える従業員が増えた」という調査結果が明らかになっています(一橋大学経済学研究科)。実際に、「外出自粛が続いて、どうしても心が沈みがち」という声も多く聞きます「あのとき、あんなことしなければよかった」「この先、仕事がなくなったらどうしよう?」など、ネガティブ思考のループにはまっていませんか?ふと気づくと、過去を振り返ってわざわざ後悔のネタを探し続けてしまったり、将来の不安や心配のネタを探し続けてしまったり。それは「脳の癖」なのです。

過去と未来をさまよって、不安になったり、悲しんだりは脳のせい

このネガティブ思考のループの原因について教えてくれたのは、昨年9月に亡くなった妹でした。ガンで闘病していた彼女は、最初は、「あのとき検査を受けていたら早期発見できたかも」「娘の成人式を見られないかもしれない」と、気づくと、悩んでも悔やんでも解決にはたどり着けないことを、ずっと考えてしまって落ち込んでいました。そんなとき、病院の精神腫瘍科(がん患者専門の精神科)の先生から脳の癖の話しを聞かされたのです。

どうしようもない悩みや不安といった感情が生まれるのは、脳にもともと備わっている標準機能だから、脳は好き勝手に過去と未来をさまよって、感情も不安になったり、悲しくなってしまう。だから、自分で意識的に脳を操作したり、方向づけしていくことが肝心だと。大切なのは、ネガティブな感情を作らないことではなく、ネガティブな感情に溺れてしまわないこと。悲しみが湧き上がってきたら、「ああ、脳がまた悲しみという感情を作った」と、肩の力を抜いて、少し客観的な視点で眺めてみると、悲しみやストレスがコントロールできるようになるのだと。

脳が集中できるのは一度に1つというのを利用する

また、たとえば編み物で手元に集中する、タイル磨きを夢中でする、キャベツの千切りをし続けるなど、目の前のこと、今に集中することでもこのコントロールができます。これは脳は一度に1つのことしか集中できないからなのです。

欧米を中心に注目を浴びている心理療法の1つ「マインドフルネス」も、まさに「今この瞬間に、価値判断することなく、注意を向ける」というもの。ストレスを根本的に解決するために有効と言われています。また集中力や生産性の向上、ストレスの軽減、コミュニケーション能力の向上といった効能から、多くのビジネスパーソンが実践しています。

先日、NHKの特別番組で、『サピエンス全史』の著者で有名な歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリ氏が、インタビューを受けていました。「コロナ禍の中であなたは平常でいるために何をしていますか?」という質問に対して、「毎朝1時間、(マインドフルネス)瞑想をしています」と答えていました。

マインドフルネスという言葉は、「今、この瞬間の体験だけに意識を向けている(マインドフル)という「状態そのもの(ネス)」です。マインドフルネスに至るためには寺にこもって座禅を組む、といった厳しい修行が必要なわけではありません。「あれこれ考えず、ただ目の前のことに集中する姿勢」がそのままマインドフルネスの実践になります。

実践しやすい方法として、「瞑想」があります。ただし、マインドフルネス=瞑想法と間違って認識している人がとても多いのですが、瞑想は、マインドフルな状態を目指すための1つのアプローチです。妹の先生が教えてくれた、編み物やタイル磨き、キャベツの千切りも、目の前のことの集中している状態=マインドフルネスです。

マインドフルネスの反対だと幸福感が下がる?

人の脳はすぐに雑念でいっぱいになってしまいます。普段、何も考えていないときでも、仕事のアイディア、忘れていたタスク、昔の失敗の記憶、将来の不安などなど、常にさまざまなことが頭に浮かんできます。これも脳の癖の一つ。2010年のハーバード大学のキリングスワース博士らの研究によると、驚くことに、「人間は活動中の50%もの時間を、目の前のことに注意を払わずに過ごしている」ということがわかっています。このように「心あらず」の状態を「マインドワンダリング」と言って、マインドフルネスの反対です。

このように脳が雑念で支配されていると、以下のようなデメリットがあります。

■「すべきことに集中できない」:雑念でいっぱいだと、いろいろなことが気になってしまい、集中してものごとに取り組むことができません。

■「脳が疲弊する」:常に脳が働いているマインドワンダリングの状態は、脳を疲れさせてしまいます。

■「幸福感が下がる」:憂いてもしかたない未来のこと、悔いてもしかたない過去のことに脳が支配されてしまうと、今の喜びを感じることができなくなってしまいます。

次回は、「【不老脳 (5)後篇 】脳にいいマインドフルネス ストレス軽減と気づきを得る方法」です。もう少し具体的にマインドフルネスの実践法についてお伝えします。

Text / 糸藤友子

リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、50歳で脳科学ベンチャーへ。母の死をキッカケに健康寿命の延伸をミッションと決める。「人生は1回きりの旅である」から、いろいろな人と出会い、様々な体験をして、豊かに生きたいと願う。ベンチャーでは、脳を計りながら鍛える“最新”脳トレサービスを立ち上げ中。
【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/

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