「どうしたら認知症を治せるのか?」 世界じゅうの人々の関心事ですが、残念ながら、現時点では、認知症を完治させる治療法はありません。これまでの「不老脳」の連載でもお伝えしていますが、認知症を発症するリスクは年齢が上昇するにつれて高まるものの、生活習慣を改善すれば、リスク低減は可能です。
認知症リスクを高める12つの危険因子
昨年、英国の医学雑誌「Lancet」の認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会が、認知症の発症リスクを高める様々な危険因子のうち、「本人が意図すれば改善可能な12つの危険因子」を発表しました。認知症予防に関する最新研究です。
認知症のリスク低減において重要と見なしたのは、「11~12歳までに教育が終了」「高血圧」「肥満」「聴力低下」「喫煙」「抑うつ」「運動不足」「社会的孤立」「糖尿病」「過度のアルコール消費」「外傷性脳損傷」「大気汚染」の12つの危険因子です。この12の危険因子を改善すると、理論的には世界の認知症の約40%を予防、または遅らせることが可能だと結論づけています。
12のうち3つ、「高血圧」「肥満」「糖尿病」は、食生活と密接な関係にあります。食生活と脳の健康、認知症リスクの研究は世界中で積極的に行われています。いくつかご紹介します。
フライドポテトとソーセージ、お菓子の組み合わせが認知症の原因に
フライドポテトやソーセージなどの加工食品、お菓子中心の食習慣が認知症リスクを高める可能性のあることが、2020年4月に医学誌「Neurology」(オンライン版)で発表されました。
この研究は、フランスのボルドー大学のセシリア・サミエル氏らの研究グループが、平均78歳のフランス人を対象に、認知症のある人209人と、認知症の症状ではない人418人に分けて調査したものです。
研究参加者がどのような種類の食品を食べたか、その頻度についての食品アンケートで調査し、一緒に食べることが多い食品を比較しました。
認知症を発症した人は、ソーセージ、ベーコン、ハム、パテといった飽和脂肪酸の多い加工肉を中心に、でんぷん質が多いじゃがいも、クッキーやケーキといった菓子を組み合わせた食事をしていることが明らかになりました。
一方、認知症の発症リスクが低い人の食生活は、肉と緑黄色野菜、ベリー類、ナッツ類、全粒穀物、魚介類といった多様な食品を組み合わせていたことが報告されています。この研究によって、何を食べるかだけでなく、食事の組み合わせ(フードネットワーク)によって認知症発症リスクを高める可能性があることがわかったそうです。
お茶を飲む人ほど認知症の発症リスクが少ない!
緑茶やウーロン茶、または紅茶を飲む習慣が認知症の予防効果につながる可能性のあることが、2019年6月に医学誌「Aging」で報告されました。
この研究は、60歳以上の36人の高齢者の脳の各部位の活性をMRIなどで分析するとともに、健康や生活習慣、幸福度などについてシンガポール国立大学とイギリスのエセックス大学、ケンブリッジ大学が共同研究したものです。
この結果、緑茶やウーロン茶、または紅茶を週に4回1杯以上摂取した人ほど、認知症の発症リスクが少ないことがわかりました。茶葉に含まれるカテキンやテアニン、テアフラビンといった物質に、抗酸化作用や抗炎症作用があり、これらが神経変性や血管損傷などから脳を保護するため、認知機能の低下が抑制されるのではないかと考えられています。
魚、ワイン、日本食、乳製品などなどほかにも様々な研究が発表されています。
- 腸内細菌が認知機能と深く関係している
- 魚を食べる人ほど認知症になりにくい
- 昭和時代の日本食が脳の健康にはよい
- ワイン(ポリフェノール)が認知症リスクを下げる
- マインド食(※)がアルツハイマー型認知症予防につながる
- ファイトケミカル(※)が脳の可塑性を高める
- 乳製品を習慣的に摂取することが記憶力などの認知機能の維持に役立つ
たくさんありすぎて何を食べたらいいのか?そんなに何から何まで食べられない! となりそうですね。つまり特定の食品、極端な食事法にこだわるより、多くのものをバランスよく摂取することが大切ということです。
先日、5月に発売予定の「キリン βラクトリン」(キリンビバレッジ株式会社)を試飲させていただきました。”記憶力(手がかりをもとに思い出す力)の維持”に役立つのだそう。飲みやすいヨーグルト味で、ちょうどよい飲み切りサイズでした。ご興味のあるかたは、こちらをご覧ください。
https://www.b-lactolin.jp/
※「マインド食」とは、「地中海式食事法」と「ダッシュ食」を組み合わせたもの。地中海式は野菜、豆、果物をメインに、オリーブオイルや魚介類を積極的にとる食事法で、ダッシュ食は脂肪やコレステロールを控え、塩分排出作用のあるミネラルを増やすもの。
※「ファイトケミカル」とは、植物が紫外線や昆虫など、植物にとって有害なものから体を守るために作りだされた色素や香り、辛味、ネバネバなどの成分(ポリフェノール、カロテノイド、含硫化物など)のこと。抗酸化力が高い。
Text / 糸藤友子
リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、50歳で脳科学ベンチャーへ。母の死をキッカケに健康寿命の延伸をミッションと決める。「人生は1回きりの旅である」から、いろいろな人と出会い、様々な体験をして、豊かに生きたいと願う。ベンチャーでは、脳を計りながら鍛える“最新”脳トレサービスを立ち上げ中。【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/ 【ストレスマネージャー】https://www.neu-active-brain.com/stress-manager/