この夏頃から、沖縄にひとり旅、ハワイに家族旅行、シンガポールに出張など、私の周りでも国内や海外を旅する人たちが増えています。コロナ禍で私たちは2年以上も、旅行を控えています。そろそろ旅が恋しくてたまらない人も多いのではないでしょうか? 今回は、旅が脳にもたらす効果について、さまざまな研究結果をもとにお伝えします。
楽しい未体験…旅は脳の老化を防ぐ
旅に出ると1日が長く感じられませんか? 諸説ありますが、年齢を重ねると、同じ時間に起き、同じ道を歩き、同じ仕事をして、帰宅して寝る…単調なことを繰り返す毎日が増え、新しい体験や刺激的な出来事が減るため、日々1日があっという間に過ぎると感じるようです。【不老脳 (7) 】でも書きましたが、単調な毎日は脳の老化を招きます。脳は「新しいこと」が大好きです。初めてのことやさまざまなことに興味や好奇心を抱き、楽しいことや未体験のことに、わくわくしながらどんどん挑戦する。それが脳の一番の栄養になります。まさに旅がそれを満たしています。
旅が脳にいい3つの理由
旅はなぜ脳にいいでしょうか?
#脳への刺激
「どこへ行くか」「何をするか」「何を食べるか」など、旅ではさまざまな事柄を選択し決定していかなければなりません。また限られた日数の中でどのスポットをどの順序で回るか、荷物をどのパッキングするかなども考える必要があります。計画・選択・判断のプロセスは、脳の司令塔をつかさどる前頭前野を大いに鍛えてくれます。
また訪れた地名や景色、特産物など旅で得られたさまざまな新しい情報は、まず前頭前野のワーキングメモリーを活性化させます。そして脳の記憶装置である海馬に供給され、より長期的な記憶へとつながっていきます。
#運動量が増える
旅では、おのずと風景を楽しみながら観光地を歩くことが増え、無理せずに1日で1万歩~ということもあると思います。有酸素運動は、体の血の巡りをよくし、脳の血流も改善し、認知機能の維持・向上に効果が高いことがわかっています。ウォーキングやレンタサイクルなど、運動量が自然と増えるようなプランを立てて実行するとさらによいでしょう。
#リラックス効果
旅行中は、普段よりもセロトニン(幸せホルモンと呼ばれる脳内物質)が多く分泌されることが研究で確認されています。その影響を受けて旅の間は気持ちが落ち着き、リラックスした状態になっています。また旅行中はストレスを受けたときに分泌されるコルチゾールが減るという研究結果も発表されています。
脳にいい旅は、脳と体を使う
脳にいい旅を実行するための具体的なアクションを挙げてみました。まだまだほかにもあると思います。ポイントは、脳と体を使うことを意識することです。
<旅の計画>
・パッケージツアーでなく、自分で旅の計画を立てる
・旅先の歴史や文化、飲食店、特産品などを下調べする
・電車やバスの出発時間や乗り換え時間の下調べをする
・旅先でやりたいこと食べたいものTo DO リストを作る
・その旅のテーマを自分なりに設定する
<旅の途中>
・電車やバスの中では、地図アプリで現在地を確認する
・荷物は?プランは?など到着後の行動をイメトレする
・高い建物に登って町や地域の全体像を把握する
・歩ける範囲は積極的に歩いて有酸素運動する
・レンタカーやレンタサイクルも積極的に活用する
・方言や外国語など、現地の挨拶を覚えて使ってみる
・映画やドラマに出てきた場所をめぐってみる
・知らないことに出会ったらメモして後で調べる
・現地の人と話をする、コミュニケーションする
・その土地の食べ物や飲み物を味わってみる
・現地の美術館や博物館を訪れる
・その日の記録をメモや日記にまとめる
<旅の後>
・旅から帰ったら旅の思い出ノートを作る
・同行者と旅の思い出をまとめ、次の旅を企画する
旅に出ると私たちの脳は活性化します。まだ遠くにいくのがちょっとという人も、例えば自分の暮らす街でホテルに泊まり、新しいものを再発見するようなプランを立てるのもありだと思います。海外でも国内でも、ご近所でも、脳と体をたくさん使って、ぜひ楽しく好奇心いっぱいの旅=新しい経験をしてください。
Text / 糸藤友子
リクルート→ベネッセ→ミズノを経て、現在は脳科学ベンチャーで、脳の可能性を最大化するためのサービス開発(【Active Brain CLUB】https://www.active-brain-club.com/)などを担当。認知症の知識や予防の技術を学び「認知症予防専門士」と、発酵の原理・歴史・効果などを学び「発酵マイスター」の資格を取得。脳腸相関に基づき、脳活と腸活による健康寿命の延伸をミッションとして活動中。